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R. U ─赤の主従たち─   作者: 幻斗
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エリザベス女王と『R.U』 4

訪英出発を一週間後に控えた竜崎 赤斗は、午後のひとときを羽根川 律と御堂 蘭を交えてコーヒーを飲みながら過ごしていた。

「律よ、新野君とはあれから会っているのかね?」

あれからとは、新野 新一が手掛けた赤斗出演のインタビュー番組が放映された後のことだ。


「いいえ、主様。電話でのやり取りはたまにしておりますが。」

「そうか。実はまた一つ新野君に働いて貰いたいことがあるので、イギリスへ経つ前に一度会いたいのだが、アポを取ってくれるかね。」

「仰せのままに、主様。ですが、もうすでに連絡を取っております。」

「何?ということは、お前は私の意図が分かっていたのか?」

「何となくではありますが。もしかしたら、エリザベス女王と『R.U』の番組を新一さんに作らせるおつもりかと。」

「その通りだ。ならば、ある程度新一君と話は進んでいるな?」

「はい、主様。それとなく匂わせておきました。」

「それは助かる。ならば、蘭。新野君と内密の話がしたいので、いつもの部屋を使わせてもらうと久兵衛に打診しておけ。」


「はい!主様!」

「お前はいつも元気だなぁ。アハハ。」



翌日の夜、久兵衛の特別部屋に四人の男女が集まっていた。

竜崎 赤斗、羽根川 律、御堂 蘭、そして、テレビジャパンのプロデューサー新野 新一である。


「忙しい中よく時間を作ってくれた。感謝する、新一君。」

「感謝なんてとんでもないですよ、会長。そんなこと言われたら、そこにいる律ちゃんに後でどやされます。」

「まぁ、新一さんたら。会長の前で変なこと言わないでよ。」

「事実なんだけど?」


羽根川 律と新野 新一は従姉弟いとこ同士だ。


「まぁまぁ、従姉弟ゲンカは後で頼むよ。」

「それはそうと、新一君は蘭と会うのは初めてだったね?こいつが新しく秘書になった、蘭だ。」


「初めまして、新野様。御堂 蘭と申します。」

「は、初めまして、新野 新一といいます。ども。」

まんざらでもない顔で蘭に挨拶した。


律と並ぶと目立たないが、蘭が一人で歩けばたいてい誰か振り向く。ただし、カタギには見えない人種がなぜか多い。

なぜなら、茶髪で切れ長の鋭い瞳を持つ蘭は、「あねさん」と呼ばれるのがピッタリの典型的な日本美人だからだ。

現に若い頃は関東各地のレディースを束ねていた伝説の女総長だった。しかし、日本最大の暴力団『山川組』の幹部とトラブルになり、拷問された挙げ句殺されそうになったところを赤斗に救われた。それが御堂 蘭だ。


赤斗の従になってからは、運転手兼、親衛隊長(自称)になり赤斗に尽くしている。

ちなみに、飛田 瑠璃子とは同じ武闘派同士ウマが合うようで、瑠璃子から赤斗の護衛をしっかりやるよう任され、日頃から張り切っている。


命を助けられた者は、命を掛けて恩に報いる。それが御堂 蘭の信条だった。


「その娘は見込み無しよ、新一さん。というより『R.U』の女子全員ね。」

「分かってるよ!律ちゃん。」


「アハハ、うちの娘に手を出しても、私は構わんよ。さて、本題に入ろうか。」


律と蘭がかいがいしくお酌する中、赤斗と新一の会談は始まった。


会談の内容は、予想通りエリザベス女王と『R.U』のドキュメンタリー番組の作成依頼だった。


未だかつてエリザベス女王のドレスを東洋人のデザイナーがデザインしたことはなく、もし、番組制作の許可を女王から得れば、間違いなく高視聴率を取れる番組になるだろう。

それを赤斗は律の従姉弟である新野に作らせようとしていた。


「竜崎会長、もしそれが実現したらとんでもない番組になるでしょう。だけど、女王はもちろんのこと、果たしてあのイギリス政府が許可しますかね?」

「新一君、許可を得る算段があるから君に依頼しているのだが、君がそんな弱気なら他を当たるまでだよ。」


律と蘭の動きが同時に止まる。

敬愛して止まない自分の主君が、まるで勝算のない戦に挑むバカ殿みたいに言われてるようで面白くなかった。


蘭が新野に何か言おうとした寸前、「待て、蘭。」と赤斗が窘めた。


「こら、律。お前も従姉弟をそんな目で見るな。」

律は蛆虫を見るような目で新野を黙って見ている。


「まぁ、新一君。君の言うことはもっともだ。逆の立場なら私も疑うよ。だが、私の推測が正しければエリザベス女王とイギリス政府は間違いなく許可する。」

「わ、分かりました、会長。ではやらせて頂きます!」

「よろしく頼むよ。さぁ呑み直そう。」


そうは言われても、二匹の牝豹が近くにいてとても酔える気分になれない新野は、そそくさと久兵衛から退散した。


「ほら、お前たちがそんなんだから彼が逃げたぞ。新一君は私の従じゃないのだから、お前たちのように私のやることを無条件に信じることはできんよ。」

「はい、主様。新一さんには後で謝っておきます。それで主様、私も蘭も許可を得ると仰る主様の言葉を絶対的に信じますが、よろしければその根拠をお聞かせ頂けますと、今後の私たちの行動に役立てると思います。」

「うむ、新一君と別れたら話すつもりだったから丁度いい。よく聞け、最大の根拠は私と律までもが女王に招待されたことにある。つまり、女王は私と律二人にも用があるということだ。」


「私はそれが何かを考えた。まず考えたのは、私と律を呼ぶために女王は里奈のデザインをあえて選んだのか、それともデザインも気に入ったが、その他の理由で私たちも招待したのか、だ。だが、前者はまずあり得ない、なぜなら、里奈のデザインが気に入らなかったのなら、里奈抜きで適当な理由をつけて私と律だけを呼べば済むことだからだ。ということは、女王が里奈のデザインを気に入って選んだのは事実だろう。」


律は、なるほどといった様子で頷いているが、蘭はすでに赤斗の言うことがチンプンカンプンになったようだ。


「ならば私と律は何だ?デザインの打ち合わせなら里奈だけでいいはずだ。まぁ礼儀として里奈のボスである私も挨拶に来いと言うなら分かる。だが、いくら考えても律を呼ぶ理由が分からなかった。そこで、私は理子にイギリス国内で私と律の二人の、特に律の映像が出ている物を片っ端から探させた。」


「そうしたら意外に早く出てきたよ。」

「BBCで放送された、律を題材に取り上げたドキュメンタリー番組がな。そして、そこに私も出ていたよ。」


律が驚きの声を上げた。

「そんなものに出た覚えはありません!」

「そうだろうな。お前の知らないところで、お前の過去を扱った下衆な番組だったよ。」

「調べたところ、その番組はついこの前放送されたらしい。そして女王はそれを観たのだろう。」

「そこで私は閃いた。もしかしたら、いや間違いなく女王は私に例の『色』らしきもの、そうでなければ他の何かを見たのだ、と。」


「あっ!!」律が叫んだ。

「そういえば、あのマーガレットも主様に何かを見たようでしたわ。」

「そうか、そういえば何か様子がおかしかったな、あの女官は。」

「そんな番組があったなんて驚きです。てすが、主様。女王が主様に何かを見たとして、それが番組制作許可にどう繋がるのでしょう?まさか女王が主様の従に!?」

「それはあり得ないぞ、律。エリザベス女王が誰かの従になどなるはずがないし、そんなことがあってはならない。」

「ではなぜ?」


「私は見たんだよ。モノクロのエリザベス女王を。」


───ッ!!

律と蘭は言葉が出なかった


「私がエリザベス女王を初めてテレビで見たのは子供の頃だった。そして18になった頃、何かの番組で女王を見たとき、数秒間だけだが画面がモノクロになったんだよ。」

「そこで、私は考えた。女王は律の番組に出ていた私に何らかの異変を感じ、それを確かめるために私を呼んだ。そして、番組の主役であったお前にも会いたくなった。なにせ「アメリカの損失」とまで言われたお前だからな。」


「えっ?アメリカの損失って私がですか?」

「番組ではそう言っていたよ。」赤斗はニヤニヤした。


「で、私が先ほど言った推測が正しければ許可される云々だが、つまりはこうだ。私は以前女王に異変を感じ、女王はつい最近だが私に異変を感じた。もしそれが同じもの、すなわち『モノクロに見えたこと』だとしたら、私と女王は不思議な共通点があるということになる。ここまで理解出来るか?」


「はい、主様。」答えたのは律だけだ。蘭はいつの間にか赤斗の股関に顔を埋め舐め奉仕をしている。欄には理解不能なのだろう。


「果たしてこの共通点を持つのは、私と女王だけなのだろうか。」

「確かにゼロとは言えません。」

「なら、律、お前が私だったらどうする?」

「私なら・・・、他にも存在するか調べます。」

「どうやって?」

「広範囲の人間に自分の映像を見させて、反応を伺います・・、あっ!」

「どうやら分かったようだな。そう、私と女王の番組をテレビや衛星放送、そしてネットでも配信するのだ。」

「そのことをエリザベス女王に持ち掛けるのですね、主様。」

「そうだ、律。つまり、私の推測通り女王が私をモノクロに見たのなら、まず番組の制作を許可するはずだ。私とお前を呼ぶほど女王は好奇心に溢れる人間だ、ならば女王は必ず話に乗ってくる。」


律はすべてを理解した。と同時に鳥肌が立った。

『R.U』の会長である主とイギリス女王の番組を配信すれば、『R.U』にとってとてつもないメリットがある。

まず『R.U』の存在を世界的にアピールでき、もし赤斗に色を見た視聴者がいれば、その人間が主の従になる可能性は大いにある。

それは主と『R.U』の大躍進を予感させた。


羽根川 律はかつて「ハーバード10」と呼ばれて得意になった自分がバカらしく思えてきた。

この主に比べたら、自分は勉強の出来るだけのただの女だ。もっともっと主の役に立つ人間にならねば。私に生きる理由を与えてくれた主にもっと報いねば。そう律は心に誓った。





ついにその日はやって来た。


ロンドン空港の到着ロビーには、オリンピック選手団のように全員同じコスチュームを纏った東洋人女性の団体がいた。

タキシードドレスに似たシルエットの制服は全体的に赤系でコーディネイトされ、襟の部分にはアルファベットのRとUが金糸で刺繍されていた。そして全員がメーテル帽を被っていた。


だが、女性ばかりと思われた集団の中に一人の男性がいた。

周りを囲む女たちより頭一つほど抜き出た偉丈夫で、黒系のスーツを着用した東洋人だ。


「主様、これから入国審査がありますが、私たちは特別室とやらで行うようです。」

ハーフで目を見張るような美女が、その男に声を掛けた。

「分かった、律。」


渡英の数日前には同行人数を伝えていたから、その配慮に特別室を設けてくれたらしい。

東洋人に対して破格の待遇だ。


わざわざ日本語で「入国審査特別室」というプレートが貼られた部屋に入ると、そこにはマーガレットが控えていた。


「ようこそイギリスへ。『R.U』の皆様。」

「お招き感謝致します。マーガレットさん。」


挨拶を交わしながらマーガレットは唸った。

見事なまでに統率された総勢20名の女たち。そのすべての意識が目の前の竜崎 赤斗に向けられていた。特に赤斗の左右と後ろに立つ三人からは、殺気に近い感情が読み取れた。


主様にもし危害でも加えようものなら私たちが容赦しないよ、と言わんばかりのオーラを放つのは飛田 瑠璃子、御堂 蘭、楼蘭ろうらん さくらの面々だ。


そして羽根川 律。

この女からは一切の感情を読み取ることが出来ない。


律があの『ハーバード10』と知ってから、マーガレットはこの女を特別に意識していた。

マーガレットはハーバード大学に勝るとも劣らないロンドン大学の首席卒業生であり、若くしてエリザベス女王付きの女官となってからは、女王より絶大な信頼を受けていた。

彼女にはその自負があったから律に対し意識した。


「それでは皆様、車を用意しておりますので、これから宿泊先のホテルへご案内させて頂きます。」

「お心遣い感情致します。ところでマーガレットさん、貴女は私と初めて会ったときに何かを感じたようですが、それは何だったのでしょう?」赤斗がマーガレットにそれとなく訊いた。


訊かれたマーガレットは不思議そうな顔をして、

「はて、一体何のことでしょう?」と答えた。

「そうですか、なら私の勘違いですね。いや、失礼しました。ではお世話になります。」

赤斗が頭を下げると同時に、従たちも一斉にお辞儀をしたが、瑠璃子、蘭、さくらは周囲を警戒するためか、そのお辞儀は浅めだった。


宿泊先のホテルに到着すると、二時間後に女王陛下謁見のための打ち合わせをしたい、とマーガレットより打診された。


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