表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
25/36

通りすがりの殺人者 8

 マンションの前で車を降り、そのまま入っていく富田タケルを何度か目撃していた。間違いなく、ここに住んでいる。

 住人に怪しまれないように、かなり遠くからだったり、場所を変えたり、服装を変えたり……。だが、一人で出かけるような殺人のチャンスは訪れてこない。

 清水は焦っていた。

 午前0時を超えていた。今日はまだ帰ってきていない。部屋の明かりはついている。同居人がいることは確認していた。「栗原ゆず」……独身のはずだし、飼い猫でもいるのか?

 いくら気を付けても、限界はある。このままでは通報されかねない。思い切って部屋に押し入るか……いや無理だろう。だが、いつまでもこうしているわけにはいかない。やるしかない。

 部屋の位置は分かっている。セキュリティのゆるいマンションのため、住人以外でもすんなり入れる。マンション内で待ち伏せして、鍵を開けた瞬間に押し入れば出来るかもしれない。通報されるリスクは高くなるが、殺人ができる可能性も高くなる。

 意を決してマンションに向かった。

 一台の車が近づいてきて、通り過ぎる。清水はとっさにわき道に入って隠れた。富田タケルをいつも送り迎えしている車だったからだった。

 少し決心が遅かった。今からでは間に合わない。

 仕方なく、清水は富田タケルの動向を見ることにした。いつものようにマンションの前で車が止まり、後部座席のドアが開いて降りてきた。後はそのまま建物の中に入るだけ……いや、入らなかった。携帯電話を耳にあて、立ち止まっている。車はそのまま去っていった。

 チャンスかもしれないと清水は思った。平静を装い、通行人のように富田のほうに歩く。

 富田は通話を終え、歩き出した。清水のいる反対方向への道を。その先にはコンビニがある。買い物なのかもしれない。

 後をつけた。やはりコンビニだった。

 清水はコンビニには入らず、来た道を引き返した。買い物が終われば必ずこの道を通るだろう。これは絶好の機会であった。人影もない深夜、一人で歩くターゲット、待ち伏せできるシチュエーション……もう、この時しかない。

 清水は急いで場所を探した。

 あった。

 角を曲がったところに路駐している車がある。その陰に隠れてターゲットが通り過ぎたところを後ろから襲う……こう関節を決め、こう押さえ込んで動きを封じ、こうナイフを当てて引く……シュミレーションもできた。

 人の足音が聞こえてきた。

 清水は位置について息をひそめた。ポケットの折りたたみのナイフの刃をおこす。

 人影が見えた。間違いなく、富田タケル。ナイフを握る手に力がこもる。

 今、横を通り過ぎようとしている。心臓の鼓動が響く。迷いはない、迷いはないと呪文のように心でつぶやく。

 角を越え、見えなくなったのを合図に清水は飛び出した……と思った。

 どこかで嗅いだシャンプーの匂いがした。柔らかい髪の感触が頬に伝わる。

 一瞬何が起こったかわからなかった。

 右肩と肘の痛み、背中に回された細い腕の感覚、伝わってくる体温……。

「間に合った……」

 ルカだった。ルカに関節を決められ、抱きしめられていると気付いた。

「ルカ……どうして?」

 清水はルカを引き離そうと動いたが、ルカは尚も強く身体を寄せた。右手のナイフはすでになくなっていることに気付く。

 耳元で囁くようにルカが言う。

「違う……彼じゃない。清水、間違えてる」

 こそばゆいような響きに、清水はドキッとした。だが、愛のささやきではない。

「違う? なにが?」

「富田タケルは臭いがしない」

「臭い?」

「悪党の臭いも人殺しの臭いもしない」

 清水は思い出していた。確かにルカはそんなことを言っていた。悪党も人殺しも臭いでわかると……。

「そんなはずはない。彼は殺人鬼だ。それしか考えられない」

 ルカはゆっくり拘束を解いた。そして、まっすぐ清水の目を見つめてきた。

「残念だが、それは違う。私はプロだ。間違わない。彼は殺人鬼などではない」

 意味がわからなかった。ルカの言いたいことは理解している。だから、わざわざ止めに来てくれたのだ。だが、富田タケルが殺人鬼でないなら、立石や広川が殺される理由がなくなる。

「そんな……馬鹿な……」

「清水には間違えてほしくない。だから、止めに来た。殺すべき相手は別のだれかだ」

「別のだれか……」

 清水は力なくひざから崩れ落ちたのだった。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ