ギルド、冒険、変身する。-2
早速書き溜めがなくなり、日が空きました。
しばらくこんな感じになりますが、気長にお待ちいただけるとありがたいです…mm
「――変身」
戦うために、言葉を紡ぎ出す。
ブレスレットから溢れ出る黒い光を纏って、俺は、その身を変えた。
ディーさんと同じように全身を覆う鎧。
その色は黒。
タテガミのような装飾はなく、獣を思わせる牙もなく。
全体的に滑らかな印象を抱かせる。
それでも鏡面のようにクリアではなく、所謂マットブラックのような質感。
一つ、顔を覆うヘルム部分には、肉食獣の耳のような突起がある。
何故かそれだけで、黒い獣を想像させるような。耳だけだけど。
ちなみに自分では、既に近くの森の中の池に映して見ていた。
「ヒョーザ…お前、換衣を…?」
ディーさんがこちらを見ている。その声はひたすらに驚きの色。
そりゃそうかもしれない。俺が教わったのは魔力のことだけ。それも初日だけ。
この世界の人間がどれだけの時間をかけて変身できるようになるかは知らないけど。
「なんとなく、できるようになった」
「なんとなく…って、お前…」
驚きが若干の呆れに。そしてなぜか諦めたように笑うと、しかし、首を左右に振る。
「それでもダメだ。何が出てくるのかわからん。だがその姿なら身体能力も上がってるはずだ。尚更お前は逃げ…」
「ドラゴンスカル」
「…は?」
「出てくるやつ。ドラゴンスカル」
何言ってるんだコイツ、って顔をしている。そりゃそうだろな。俺だって何言ってるんだって自分に対して思ってる。
でもなぜだがわかってしまう。
出会ったこともなければ、見たことも聞いたこともないその名前が浮かんだ。
しかも確信してる。
「骨から生まれたスカルドラゴンじゃないし、骨になったドラゴンだ、どうせ死に損ないだろ?」
「お前、なんでそんなことを?」
「なんでだろな、なんでか…知ってる」
そして答えると同時に、俺は
「っ、おい!」
走り出していた。
目標は100メートルほど離れた通路の先、広まった空間。
そこに現れるとわかっている対象。ドラゴンスカル。身体が軽い。
短距離を更に縮めたかのような速度で広間に入れば、そのまま今まさにターゲットが現れる場所に照準をつける。
狙いは単純に、首。
スピードを維持したままタンっ、と床を跳ねて、右手に魔力を込める。
手甲から、黒い光が伸びる。
それはまるで爪のような、しかし返しのない鉤爪のような、4本の黒い刃。
右腕を水平に構え、目の前の何もない空間に狙いを定める。
「お…お、ぉぉおおおおおっ!」
力を込めて、思い切り、横に薙ぐ。
瞬間、まるでそれに合わせたかのように、何もなかった、何もいなかった空間に巨大な存在感が生まれた。
威圧を乗せた咆哮を上げ
『ガ』
…ようとしたそれの、首が床に落ちる。
現れた瞬間の、まるでここを斬れと言うかの如く、爪の軌跡の先に現れた首が、そのまま4本の爪の刃によって斬り落とされた。
ズン…ドズン…っ。
首が落ち、頭をなくした身体が後を追うようにして広間の床に倒れる。
反対側の壁際に降りていた俺が、振り返ると、そこに脅威は既になかった。
「…ふう」
上手くいった。
根拠はなかったけど、全てがわかっていた。
現れる場所、タイミング、首の位置。
ただ俺は、それに合わせて爪を振り抜いただけだ。
斬れるかどうかも、わからないというより、知らない。
それでも、当たり前のようにいけると思っていた。
俺の中の何かが、背中を押すような感覚。…なんだこれ。
「ヒョーザ!」
と、通路の向こうからディーさんが駆け寄ってきた。
側までやってくる彼に、に、と笑う。声をかけようとしたところで、ゴンっ!と音が響くほどの力で頭を殴られた。
「ってぇ!?」
「この馬鹿野郎っ!何勝手に突っ走ってんだ!たまたま出てきた瞬間に首落とせたからいいものの…下手すりゃ即、牙の餌食じゃねぇかっ!」
兜の上からでも、お互い変身状態だ。
軽くない衝撃に頭が微妙にくらっとする。もちろんディーさんの怒る理由もわかる。
大丈夫だと思っていたからしたこと。
それでも見てる側からすれば、知らない側からすればそんなこと理由にならない。そりゃ怒られて当然だと思う。
「…ごめん」
だから素直に頭を下げる。
初日だけダンジョンの潜り方を教えて、数日ぶりに一緒に潜れば、ある程度戦えるようになっていた。
女王の願いもあり、危ない目に合わせてはいけない存在。
そんな奴が急に換衣を行い、このダンジョンの管理者すら把握できていなかった存在を把握していて、しかもその出現場所とタイミングを、どう考えても知っていたとしか判断できないレベルで、討伐した。
明らかな異質。そんな姿を見ても、ディーさんはまず俺を心配してくれた。叱ってくれた。
そこには感謝しかない。
「…ったく…そんなに素直に謝られたら何も言えねーだろうが。とりあえず無事だったんだ、それでいい」
自分の頭をガシガシっとかき、ため息を一つついてから諦めたようにそう答えるディーさん。
もう少し叱られるかと思ってたけど、懐が大きいというか器がでかいというか。…同じか。
こっそり内心で安心をしていると、先ほどの伝輪で連絡をしている。
通信と同時に、管理者から気配が消えたことなどの問いかけがきたのだろう、あとで説明することと、とにかく脅威は消えたから安心しろ、とだけ、伝えていた。
通信が終わると、もう一度大きく息を吐いてから、さて、と俺の方を向いた。その表情がどこか、なんというか、悪い。
ちょっとだけ後ずさりそうになる。
「とりあえず、だ。戻りがてら色々聞かせてもらおうかぁ?」
そこを肩をがしっと組まれ、歩き出す。
ドラゴンスカルの残骸については、それもすでに伝えていたらしく、問題はないそうだ。
ならば、と、放り出した棍棒と盾を拾って元来た道を歩く。
「とは言うものの…俺もなんでかは知らない。あの広間に現れることも、それがドラゴンスカルって魔物だったことも、なんていうか…わかってた、てだけなんだよな」
ディーさんの聞いてきたことは、とにかくそこ。
なぜ管理者すら把握できなかった魔物が何か判断できて、なぜタイミングがばっちりだったか。
もう一つ言えば、なぜ換衣、変身できるようになったばかりの俺が、あっさりと一撃で首を落とせたか。
それについても、わかってた。…いや、これについてはできると思ったから、が正しいか。
ものすごく、俺の言ってることが訳が分からないっていう感じの表情で見られてる。
でもそれ以上にも以外にも、伝え方がないから仕方ない。
以降も、歩きがてら色々聞かれたけど、とにかくあやふやな、感覚でしか言えなかった。
ディーさんも、現状ではとりあえず納得してくれた。
納得するしかないといった感じが強いけど。
何はともあれ、予定通りギルドに登録できる許可自体は、もらう事ができた。
ドラゴンスカルの討伐に関しては、今回は影響がないようにするという。
初心者ダンジョンに現れることがイレギュラーな上に、なんの経験もなしに初心者が一撃で倒すこと等、例え証拠があっても信じてもらえないレベルだ。
それについては自分でも納得できるし異論はない。
それに正直、そんなことよりもギルドに登録できるようになったことが、単純に嬉しい。
ディーさんと別れて、とりあえず今日は休むために、部屋へと戻ることにした。
風呂に入って、ベッドに倒れこむ。体力的に疲れてるわけではなかったが、なんとなく。
うつ伏せのまま、左腕のブレスレットを眺める。
「…誰なんだ?」
独り言。ボソと呟く。いつの間にか、俺は眠っていた。
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