草原、甲冑、ここはどこ?-1
しばらく説明みたいなものが続きます。
主人公の名前どころか雰囲気も出てこないまま…!
気長にお付き合い下さると幸いです!
約一年前のあの日。
俺は。
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「…ここ、どこだ?」
意識が覚醒した俺が見た景色は、初めて見た景色だった。
緑の草原が一面に広がり、空は青く、遠くに木々が見える。
草に触れる手で地面を撫でてみる。
肌に当たる感触がどこかくすぐったい。
ここまでの草原がある地域は日本でも…どこかにはあるのかもしれないが、自分の記憶の中にはなかった。
そんな草原で座ったまま、思い出す。
自分は確か仕事帰りにコンビニに寄ってお弁当を買い、家路についていたはずだ。
給料日だったこともあって、少しお高い弁当と缶ビールをいくつか。
唐揚げなんかも買ったりして。
会社の連中と飲みに行っても良かったんだけど、あいにく同僚連中は彼女や家族サービスということでサクッと帰っていった。
そんな相手もいない自分は、一人寂しく宅飲み予定で、せめて少しでも豪華にしようとコンビニで足掻いてみたわけで。
レジ袋をさげてアパートに続く角を曲がって…うん?…曲がって…そうだ、曲がった瞬間に眩しい光が自分を照らして。
…けたたましい音が聞こえた。
そして…今。
「…ここ、どこだ?」
同じことを呟いていた。
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10分ほどその場でボーっとしていた。
夢かと思って、ベタに頬をつねってみたら、普通に痛かった。
夢じゃないらしい。
かと言って、どうしたらいいかもわからない。
周りに人影もないし建物も見えない。
聞こえるのは風に揺れる草の音。
わけのわからない今の状況じゃなかったら、めちゃくちゃ気持ちいい草原なのに、なんて。
もう一度寝転んで、いっそ寝てしまったら、元の場所に戻らないかな、とか思うけど…。
単純に寝られないよな…。
と、今更ながら左手首に何か違和感を覚えた。
なんとはなしにそちらに顔を向けると、覚えのないブレスレットのようなものか左手首にはまっていた。
「なんだこれ?」
く、と外そうとしてみるが、どうやってはまったんだと逆に心配になる程ぴったり左手首にはまっている。
装飾はなく…いや、よく見ると手首の内側部分に何か模様が見える。
なんの模様だろう。
――ォ…――
「…ん?」
ふと、何か聞こえた気がした。
手首から目を離し、辺りを見回すが、変わった様子は見えない。
鳴き声のような、風切り音のような。
あ、例えば、飛行機が空高く飛んでいて、その音が地上で聞こえてきたときの音のような。
そう思って、空を見上げる。
――ォォオ…――
やっぱり音は聞こえる。そして、やっぱり飛行機みたいだ。
少しずつ聞こえる音が大きくなってきているし、かなり小さいけどゴマ粒みたいな黒い点が空高くに見えた。
一直線に動いている。UFOでもない限り、飛行機だろう。
――ォォォオオオ…――
例えばそれが、見ていたらなんとなく大きくなってきているとしても、飛行機だろう。
――ォォォォォオオオ――
例えばそれが、形がよく見えるようになるにつれて、某アイアンなマンさんみたいに見えても、飛行機だろう。
――ゴォォォオオオ
音が大きくなるにつれて、明らかにそれが自分のいる場所に向かって下降し始めているから、物体が何かよく見えるようになってきているんだと分かっても、飛行機だろう。
だって俺は知らない。
甲冑のような物を着た人っぽい形をした何かが、単純に、空を飛んでいる光景なんて。
ゴォオオオッ――ッタン!!
もうどう見てもなんか甲冑着た人が近くに降り立った。
落ちてきてるんじゃないかという勢いと風を裂くような音の割に、スマートな着地音を鳴らし、何事もなかったかのように地に降り立った。
本編を全く見ていなくても誰でも知ってるような、未来から来た裸体の液体金属さんみたいなポーズで降り立ったソレが、スッと立ち上がると、自分の方へと近づいてくる。
人間、ほんとにわけのわからない状況になると本当に思考がストップするんだな、と思ったのは後日のこと。
明らかに金属のような鎧に見えるのに、歩くたびにガシャガシャとそんな音が聞こえることもなく。
バシュッという音が聞こえてきそうな雰囲気で、おもむろにその人物がヘルムを外して素顔を晒していた。
「お前か?変な魔力の持ち主ってのは」
「…へ?」
いわゆる二次元によくいそうな、金髪ショートの強面のおっさんがそんなことを聞いてきた。
空を飛んできたのもわけがわからないが、魔力?なんだそのファンタジーな用語は。
ぽかんとしている俺を見ていたおっさんは、ヘルムを脇に抱えたまま、ポリっと頭をかいている。
「面白そうだったから来てみたんだが…鑑定持ちを連れてくるんだったな…」
とか呟いていた。
鑑定、持ち?連れてくる?
元いた日本で鑑定なんて、いい仕事してるかどうかのお仕事としか覚えがない。
あくまで現実の中では。
ただどうしても、俺の頭の中には1つの可能性という妄想が影を見せ始めていた。
「…あの」
「お?なんだ?」
おずおずと、なんとなく右手をあげながら声をかける。
俺からの返答があったことに安心したわけではないだろうが、頭をかく手をおろして、すぐに返事をしてくれた。
強面だけど人懐っこそうな笑みは、こちらも少し安心する。
「ここは…どこ、ですか?」
「…ロドゥナ大陸、エッケバルガ王国の領地、ラスラ草原のど真ん中だ」
俺の問いに、おっさんはどことなく、やっぱりか、といった雰囲気の笑みと、1つため息をついた後でこの場所の名前を告げてくれた。
勿論、俺にとって聞いたことの無い、全く知らない地名を。