古い炬燵
おばあちゃんの家は嫌いだ。
どこを見ているのか分からない人形がたくさんあるところ。
いつ来てもお線香のにおいがするところ。
机や椅子、家の形など何から何まで古臭いところ。
そして何よりも、あの炬燵があるところ。
冬になると出されるもので、これも他の家具と同様に、古い。
炬燵布団の柄までも古臭くて嫌いだ。
電源を入れた時に出てくる、布団の中の熱気まで黴臭い様な気がする。
でも、この程度の事なら我慢すればいいだけの話。
本当にこの炬燵が嫌な理由。
中を覗けばすぐに分かる。
それは多分、私にしか見えていないのだろう。
私が中を覗くために少し布団を捲ると。
老人が、居るのだ。
白髪で深いシワが幾つも刻まれた顔。
私を見てにぃ、と笑ったその口には歯が数本欠けていた。
初めは驚き、泣き叫びながら「中に人がいる」と訴えかけもした。
しかし、そこに確かにいるにも関わらず、他の大人達には見えていないのだ。
「どこにも、何もいないじゃ無いか」と言いながら布団を捲って見せられようと。
私には見える。
そこに、いる。
布団を全て捲られて見た老人は、皺だらけの白装束を身に纏い、炬燵の天板にしがみつく様に仰向けになっていた。
周囲は何も気にせずに、と言うか気付かない様子で足を炬燵の中に入れている。
当然足は老人に当たり、まるで萎みかけの風船を押す様にぐにゃり、とへこみ、老人は迷惑そうな顔をする。
あんたじゃなくって、こっちが迷惑だ。
見えて、かつ当たった時の感触まである私にとっては、四方から足蹴にされ体をよじる老人が思うよりも、よっぽど迷惑だ。
ただでさえそれ程好きでもないこの空間に、不快極まりないものがそこにある。
「チエちゃん寒いでしょう?おこたの中にお入り」
入りたい。
入りたいけどさ。
嫌なんだ。
逆さを向いた、歯抜け爺の笑顔と。
足に当たるその顔の感触が。
不快で不快で堪らないんだ。