第93話 破天荒な寝坊
最近まであった暑さが消え、肌寒くなる日が増えてきていた。気づけば夏休みも終わり、新学期も始まろうとしていた。
この季節になると、布団から出る気がますます無くなってしまう。近くのベットで寝ている姉さんも未だに布団にくるまっている。
今日は学校があるが、もう少しこのまま大丈夫だろう。ベットに置いてある時計を確認したがまだ2時間程余裕がある。
それに、万が一遅刻しそうになっても誰かが起こしに来てくれるだろうしな。
・・・そう考えてた俺が馬鹿だった!!
やばい、完全に寝過ごした!!というかあの時計、電池切れてたのかよ!!
あ、後10分で行けないと遅刻じゃないか!!こ、こうなったら仕方ない!
俺は急いで近くにいる姉さんを揺すり始めた。
「姉さん、起きてくれ!!」
「んん・・・なに?」
「学校まで送って欲しいんだよ!」
「・・・嫌。今日は休みだしもう少し寝ていたい・・・」
「このままだと遅刻しちまうからさ、頼むよ姉さん!一つだけならなんでも言う事聞くからさ!!」
「仕方ないわね!さっさと準備しなさい!!」
「姉さん、ありがとう・・・!」
「可愛い弟の頼みだもの、お安い御用よ」
早速俺は姉さんの車に乗り込んだ。よし、これでなんとか遅刻しないで済みそうだ。
朝飯は食えなかったが自業自得だし、仕方ない。我慢しておこう。
お、姉さんも来たな。って、何持ってるんだ?袋、みたいだけど何が入ってるんだろう。
姉さんは車に乗り込むなり俺におにぎりを渡して来た。
「朝食べてないでしょ?本当は私のだけどあげるわ」
「姉さん・・・!」
「それじゃ、行くわよ!」
姉さんからもらったおにぎりで軽い朝食を済ませられたし、それにお茶まで用意されているとは思わなかったな。
これなら清々しい気持ちで授業を受けられそうだな、遅刻寸前だけど。でも、ギリギリで行けそうだな。
姉さんに学校の近くに車を止めてもらって、道路に出た。まだ登校途中の人も居るし間に合ったな。
「ありがとう姉さん、助かったよ」
「良いのよ。その代わり、約束忘れないでよね」
「分かってるって」
「それじゃ、学校頑張ってね〜」
姉さんは再び車を発進させ、家に戻って行った。さて、俺も早く教室に行かないとな。
こんな遅く来たのは久しぶりだな、普段は絶対に無いんだが。
教室に着くなり燐が俺の元へやって来た。
「優さん、おはようございます。・・・いえ、おそようですかね?」
「どっちでも良いよ・・・。それよりなんで起こしてくれなかったんだよ、いつもなら起こしてくれただろ?」
「その、おば様にたまにはお灸を据えたいと言われまして。それで起こすなと」
「どうりて朝から母さんがいないと思ったら・・・」
「それにしても、いつ起きたんですか?」
「ついさっきだよ。10分くらい前か?」
「!?で、ですがそれだと距離的に間に合わないんじゃ・・・」
「あぁ、歩いては無理だから姉さんに送ってもらったんだ」
「なるほど、そういうことでしたか」
「あ、あの二人とも」
「ん、どうかしたのか?七海」
「そ、そのさっきの会話がみんなに丸聞こえだったので、その・・・」
「え・・・」
辺りを見回すと、男子からは冷たい視線や嫉妬の目線が。
そして女子からは羨ましいとか、ああいう生活を送りたいとか、そんな会話がダダ漏れだった。
嘘だろ、いつの間にこんな事に。
「あら、それでさっきから視線が集まってたのですね」
「え、お前わかってたのか!?」
「はい。やっぱり優さんは分からなかったんですね」
「な、なんかその言われ方悔しいな」
「いずれ分かるようになりますって」
「いや、多分一生をかけても無理な気がするんだが・・・」
「席につけー、HR始めるぞ」
先生が入って来たタイミングでみんながすぐさま自分の席へ戻って行った。
先ほどの賑わいようがまるで嘘かのように無くなったな。
まぁでも本当に遅刻しないで良かった。今度からは携帯のアラームもかけるようにするか・・・
お読みいただきありがとうございました。




