第88話 破天荒な夏祭り
今日は昼から、七海が母さんと三者面談へ出かけて行った。美玖は部活で居ないし、姉さんも仕事で留守にしている。
つまり、今俺は家に一人になったのだ。と言っても別に何かするわけでもなく、ただコーヒーを飲みながら静かに読書を楽しもうじゃないか。
暫く立て込んでて出来なかったが、今日は誰も居ないから存分に楽しめるだろう。
そうと決まれば早速コーヒーを淹れよう・・・ん、誰か来たな。
宅配便か何かか?今日荷物が来るって事は聞いてないんだが。
「はい、どちらさ・・・」
「あ、優くん!こんにちは!」
「新聞なら結構です」
「ちょちょちょ!ドア閉めようとしないでよ!!」
「・・・はぁ、何の用だよ」
「その態度なんか納得いかないけど・・・実は今日夕方からお祭りがあってさ」
「あぁ、そういえばあるらしいな」
「それで、一緒にどうかな〜って」
「別に構わないぞ」
「本当!?やったー!!」
「要件はそれだけだな」
「待って待って、まだあるから!!」
「早くしてくれよ」
「今から一緒に遊ばない?」
「お断りします」
「えぇ!?優くんのいけず!!」
「急に予定入れられても困るんだよ。それに今家には俺一人な訳だし・・・」
「なるほど、それを聞くとますます行きたくなったよ」
「お、おい!無理やり入ろうとするなよ!!」
「お邪魔しまーす!」
結局、優が力負けして玲狐は家の中に入って行った。
というかあの身体のどこにあれだけのパワーがあるんだよ・・・
仕方なく優は棚からお茶菓子を出し、テーブルの上に置いた。
飲み物は玲狐がコーヒーを飲めないので、仕方なくコーヒーから紅茶に変更した。
さよなら、俺のコーヒーブレイク・・・
そういえば、急に押しかけて来てまで俺の家に来る理由あったのか?
と考えていると、玲狐が一緒に持って来ていたバックから袋を取り出した。
「そうそう、これお土産だよ」
「おぉ、悪いな。ありがとう」
「一応家族みんなで食べれる量にしたけど足りそう?」
「おう、30もあれば充分だろ」
「よかった〜。あ、あとこれは優くんに」
玲狐に渡された紙包みを早速開けてみた。
すると、中には銀色の腕時計が入っていた。
「おぉ、腕時計か」
「うん、気に入ってもらえると嬉しいんだけど」
「ありがとう、めっちゃ良いよ」
「そう、それならよかった!」
玲狐と話している間に三者面談を終えた七海達が戻って来た。
ということは祭りもそろそろ始まるのか。
玲狐は着替えるため、一旦自宅に戻って行った。数分後、再び家に来た時は浴衣姿での登場だった。
「どうかな、久しぶりに着たんだけど・・・」
「似合ってるぞ、玲狐」
「そ、そう?ありがと」
「と、とりあえずさっさと行くぞ!」
「あ、待ってよー!」
祭りの会場が近づくにつれ、だんだんと人が多くなり辺りは賑やかになっていった。
なんか、祭りって久しぶりに来たかもしれないな。屋台もこんなに種類あったっけか。
色々なものが目に入って来て、隣に玲狐がいることすら忘れて俺は少し興奮していた。
そして、気が付いた時には隣にいた玲狐がクスクスと笑っていた。
一番見られたくないところを一番見られたくないやつに見られてしまった・・・
もう、ここはあえて気づいてない方向で行こう!
「どこから行くんだ?」
「優くんの好きなところでいいよ」
「いや、いいのか?」
「まぁ、あんなに楽しそうにしてたしね」
「な、なんのことだ?」
「バレバレだからね?」
「くそっ、バレてたか!」
「あれで気づかなかったら感性を疑うけどね〜」
そんなに気づかれやすかったのか・・・
今後はうまく隠し通せるようにしないといけないな。
それはともかく、どこに行こうか・・・とりあえずお好み焼きでも食べようかな。
早速お好み焼きを二つ購入した。うーん、いい匂いだな。
玲狐を待たせてるしな、なるべく早く戻ってやろう。
「ほらよ、お好み焼きだ」
「うわぁ、美味しそう」
「だよな」
「「いただきます」」
「うん、美味しいね優くん!」
「あぁ!やっぱり、こういうところで食べると余計に美味しく感じるんだよな」
「確かにそうかも〜。あ、そうだこの後の花火が凄く綺麗に見えるベストスポットがあるの。食べ終わったら行きましょう」
「あぁ、それは構わんがまだもう少し時間あるぞ?」
「移動にちょっと時間がかかるからね、ちょうどいいくらいだよ」
「そうか、わかった」
お好み焼きを食べ終えた二人は、玲狐の先導の元ベストスポットへ向かう。
あれ、この道何か見覚えがあるような・・・
着いた先には大きな木が一本、生えていた。俺はこの場所を間違いなく知っている。
「ここ、花見の時に来た場所だよな?」
「うん、そうだよ。花火も綺麗に見えるんだ」
「そうなのか。それは楽しみだ」
「あ、ほら打ち上がったよ!」
上空には大きな花火が打ち上がった。なるほど、これは確かに綺麗だ。
いつもは建物に防がれて見えない時もあったがここからだと全体が見渡せる。まさに穴場的な絶景ポジションだな。
これだけ綺麗な花火見たのは何年ぶりだろうなぁ。いつまでも眺めていられそうだ。
「ねぇ、優くん」
「なんだ?」
「・・・綺麗だね」
「あぁ、そうだな」
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