第83話 破天荒な燐との一日
クラスで一丸となって頑張った体育祭が終わった次の日、俺は体を休めていた。
午前から起きようとする意志があまり働かなかったのだ。うん、俺は色々と頑張ったからな、午前くらいは寝てても何にも言われないだろう。
俺は鳴り続けるアラームを止め、再び布団に入ろうとしていた、その時だった。
一気に布団を剥がされ、飛び起きた。そして前には燐が立っていた。
「優さん、おはようございます」
「うぉ、燐!?」
「来るのが遅かったので、迎えに来ました」
「な、何かあったっけ?」
「体育祭前に約束したじゃないですか、次の休日に私の家に来てくださいと」
「あ、あぁ。確かに言ったが今日じゃないとダメか?」
「ダメです」
「わかったよ。とりあえず着替えるから一旦部屋から出てくれ」
「あ、服ならこちらに」
「・・・ありがとう」
「いえ、それでは失礼します」
俺はベッドから降り、燐から受け取った服に着替えた。
時刻を見ると8時を指していた。幾ら何でも早すぎないか?もう少し遅くても良かったと思うんだが・・・
そう考えている間に燐が再び部屋に入って来た。
「終わりましたか?」
「いや、そういうのって入る前に聞くもんじゃないか?」
「もう終わってると思ったので開けたのですが・・・」
「あぁ、うん。終わってはいるよ」
「そうですか、なら行きましょう」
「いや、無視すんなよ!」
燐に連れられ、俺は燐の家に向かっていった。
そういえば最近、燐の家に行ってる回数が増えてる気がするな。
燐の家は行く度に居心地が良くなってるんだよな。
用意されてるお菓子とかも俺の好みのものばかりだしな。
そうこうしている間に燐の部屋に着いた。中は前に来た時よりも人形が更に増えていた。
そうだ、忘れてたけど俺は一体なんのために呼ばれたんだ?
「なぁ、俺は何をすればいいんだ?」
「え、別に何もしなくてもいいですよ?」
「そ、そうなのかそれは・・・」
「一晩泊まって行ってくれれば」
「今なんて?」
「だから今日は泊まって行ってください」
「はぁあああ!!??」
「クレアさんの家には泊まったのに、私の家には泊まれないとか言いませんよね?」
「いや、そんなことはないが、その状況というものがだな・・・」
「じゃあ決まりですね。安心してください、必要なものは全て揃えてありますので」
「まさかお前、元々これを狙ってたのか?」
「狙う?何のことですか?」
「こ、こいつ・・・」
完全にはめられた・・・まさかこうなるとは。しかも完全に言い訳を作らせない、相変わらず恐ろしいやつだ・・・
俺も初めは燐が何かしてこないか身構えていたが、数時間後には完全に精神が緩みきっていた。
まずは昼食、これは最高だった。前にも食ったが母さんにも負けず劣らずの美味さだ。
そしてその後に全身のマッサージ、これはとても気持ちがよかった。
体育祭の疲れが飛んでいくかのような極上を味わっていた。
その頃には俺は陥落し、その後寝落ちしていた。
数時間後、再び目を覚ますと何やら柔らかい感触が頭にあった。
「ん、優さん。やっと起きましたか」
「り、燐。これって」
「えぇ。その、マッサージが終わった後気持ち良さそうに寝ていたので膝枕を」
「そ、そうかありがとう」
「い、いえ」
「・・・」
「・・・」
「そ、そろそろどくよ」
「あ、は、はい」
っぶねぇ!!危うく完全に落ちるところだった・・・
膝枕・・・恐ろしいな。だが、あの柔らかさはまた何とも・・・
この後夕飯を食べていたのだが、さっきの光景が蘇ってしまい燐とまともに話すことができなくなってしまっていた。
とりあえず食後の洗い物は俺が代わり、燐に先にお風呂に入ってもらうことにした。
いくら泊まるとはいえ、この状況は何とかしたいな。
洗い物をしながら考えていると、燐がお風呂から上がって来ていた。
「優さん、お風呂空いたのでどうぞ」
「おう、こっちもちょうど終わったから行ってくるわ」
ふぅ、風呂でしばらくゆっくりするか。・・・さっきまで燐が入ってたんだよなって、いかんいかん。
平常心平常心。・・・あ、来る時にアイスでも買ってくればよかったかな。風呂上がりが美味いんだよなぁ。
あ、奏蘭さん帰って来たのか。奏蘭さんも疲れてるだろうし上がるか。
風呂から出て、部屋に戻ると燐がアイスを食べていた。
「お、アイスか。いいな」
「優さんのもありますよ。たまたま姉さんが買って来てくれたんですよ」
「おぉ、そうか。じゃあお言葉に甘えて一ついただくよ」
色々な種類のアイスがあったが、俺は迷わずバニラを取った。
やはり、アイスはバニラが一番だな。シンプルかつ美味い。まさに最高だ。
燐は、ストロベリーか。そっちも美味しそうだな。
「あ、一口食べますか?」
「いいのか?」
「はい、あーん」
「あ、あーん。お、美味いな」
「私大好きなんですよね、これ」
「そうなのか。それじゃ、俺からもお返しに、ほい」
「あーん。あ、こっちも美味しいですね」
「だろう?シンプルで美味いのがいいんだよ」
アイスを食べ終わると、燐が紅茶を淹れてくれた。
うん、香りもいい。落ち着いて寝れそうだ。
「優さんの寝る場所は私の隣の部屋にある空き部屋を使ってください。そこに布団も敷いてありますので」
「わかった、それじゃおやすみ、燐」
「おやすみなさい、優さん」
こうして、一時はギクシャクしたが、日頃の疲れをリフレッシュできた快適な1日を過ごせた。
久しぶりの静かな日常に、優も幸せな顔で眠りについた。
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