第76話 破天荒な言い争い
朝、目覚めると俺は布団の中に入らず、布団の上にいた。どうやらあの後、寝落ちしてしまったようだ。
携帯を開くと、誰かに向けての返信メールが途中までしか書かれていなかった。
今見ても誰に向けたものなのか完全に記憶がなかったので、仕方なくそのメールを削除してから一階に降りて行った。
リビングに入ると、七海が母さんと一緒に朝食を作っていた。
しかし、七海は俺に気付くなりすぐさま駆け寄って来た。
「優さん・・・!無事だったんですね!」
「あぁ、心配かけて悪かったな」
「いえ、その、無事だったのなら何よりです・・・」
「はは、ありがとうな」
「それで、その、どこにいたのですか?」
「あー・・・友達の家にだな」
「そう、ですか・・・」
「さ、この話はおしまいだ。俺は顔洗ってくるから朝食期待してるぜ」
「あ、はい。お任せください」
七海からの追求をなんとか回避した俺に次に待ち構えている人物、それは美玖だ。
あいつともまだ一回も会っていない。幸いリビングにはいなかったからもう学校に行ったか、寝てるかだな。
どのみち、美玖から逃れるのが一番面倒くさいな。そう思いながら、洗面所に行くと美玖と鉢合わせてしまった。
「あ、み、美玖。お、おはよう」
「あ、おはよう・・・じゃないよ!!!ほんとどこ行ってたの!?」
「どこって友達の家だよ」
「誰?」
「誰って、別に誰でもいいだろ」
「よくない!!いつも連絡して来るはずのお兄ちゃんが連絡しなかったんだからこれにはきっと裏があるはずだし!」
「たまたま連絡し忘れたんだよ」
「・・・本当?」
うわ、こいつ核心突いてくるなぁ・・・。このままだと完全に美玖のペースになっちまう。
そうなると、あいつの存在も・・・。ここはなんとしても逃げ切らなければ!
「と、とりあえずそこどいてくれないか?俺も準備しないといけないし」
「・・・確かにそうだね。私もそろそろ出ないと朝練に遅れそうだし、帰ってからじっくり聞くね!」
「え、お、おう」
「じゃ、先にご飯食べてるねー」
ふぅ、なんとか回避できたな。だが、結局帰って来たらまた追求されるのか。
あれ、これ何も回避できてなくないか・・・?
悩みながらも準備を済ませ、再びリビングに戻ると美玖の姿はもうなかった。
それを確認して一安心している間にもだいぶ時間が経っていた。
急いで朝食を食べ終え、部屋に荷物を取りに行こうとしたその時。
「優さん、カバンですよ」
「おう、ありがとう・・・って、燐!?またいつの間に」
「そんなこと気にしてる時間はありませんよ」
「え、うぉ!本当だ!急ぐぞ!!」
「はい」
「あれ、七海は?」
「もう行ってますよ?」
「な、七海までいつの間に・・・」
「あの子も成長していますね」
「いや、感心しなくていいから」
「とにかく早く行きましょう。玲狐も待ってます」
「そうか、ならさっさと行くか」
「そういえば、玲狐がメール返ってこないとか言ってましたけどなんのことなんですかね?」
「・・・とりあえず、行こうか」
「わかりました」
燐からカバンを受け取り、急いで玄関を出る。
すると、外で玲狐が待っていた。玲狐が何か怒っていたようだったが、そんなことを気にしている場合ではなかった。
急いで学校に向かい、なんとか遅刻は回避できた。しかし、走り過ぎて息が若干切れていた。
そんな時に、燐から飲み物を受け取った。相変わらずタイミングが完璧だ。
飲み物を飲み、呼吸を整え、なんとか落ち着けた後、すぐさま授業が始まった。
そういえば、今日はクレアが風邪で休みだったらしい。
玲狐からはそう聞いたが果たして本当に風邪なのだろうか・・・。
そんなことを気にしながらも長い授業を乗り切っても、俺にはまだ生徒会の仕事があった。
今日は今年の体育祭に関しての会議が行われた。
去年に行ったものを参考に考え、いらないものを外しつつ新しいものを組み込んでいく。
内容が決まれば今度はそれをパソコンでまとめ、プリントにする。
それをみんなで作り上げ、全校生徒分と教師分の印刷が終われば今日の仕事は終了だ。
終わる頃にはすっかり外も暗くなり、時刻は19時を過ぎていた。
帰りは会長の亜衣さんが車で送ってくれた。
その時に燐と家が隣だったことを亜衣さんは知ったらしい。なんというか今までに見たことのない表情だった。
燐と、別れて家に戻った俺に待ち構えていたのは妹と姉からの追求だ。
俺は友達の家に泊まってた一点張りだったがそれを二人は一切信じてくれない。
まぁ、確かに半分嘘だからあってるっちゃあってるが。
そんな話し合いというか、言い合いを続けていると、母さんが戻って来て強制的に終了となった。
二人ともまだ俺が何か隠してると思い込んでいる。俺はボロを出さないよう気をつけないとこの二人にはすぐバレてしまう。
だが、俺はクレアのことを庇う必要があるのか・・・?
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