第65話 母のいない破天荒な日
母さんが何処かへ出かけてから二日が経った日、七海の手伝いで家の掃除をしていた時に母さんから電話が来た。
『あ、もしもし優?』
「あ、母さん。母さんが家を開けるなんて聞いてないぞ」
『あら、でも一応私、璃亜には色々話したんだけど、聞いてない?』
「・・・姉さんに言ったの?」
『えぇ、でも明日には帰るから心配しないで』
「分かった、帰りには気をつけて、俺は今やることができたから」
『あら、そうなの。ほどほどにしてあげてね』
「それは保証しかねるよ・・・」
電話を切った後、七海に一旦仕事を任せ、俺の部屋でくつろいでいる姉の元へ向かった。
部屋のドアを開けると、既にもぬけの殻だった。
危機察知能力だけは一丁前なんだが、使い道が完全に自分用なんだよなぁ。
いつもなら諦めていたが今回に限ってはどうしても聞かなければならない事があったので奥の手を使うことにした。
そして数分後、姉さんの捕獲に成功した。
・・・奥の手?それは奏蘭さんに電話をするだけだ。
奏蘭さんは昔から隠れんぼとか上手かったからなぁ・・・。
どこに隠れても必ず見つかる、あれは本当に怖かった。
まぁ、そんなことはどうでもいい、それより姉さんを問い詰めなくては。
「優、奏蘭を使うのは卑怯だよ・・・」
「うるさい、今回はことが事なんだから仕方ないだろ」
「それにしても私を使ってでも知りたかったことって何なのかしら」
「母さんのことだよ」
「え?それなら一昨日突然出かけたって」
「詳細な話を全部姉さんにしたって言われたんだけど?」
「・・・え?だ、誰から?」
「母さんからだよ」
「え、えーと、その」
「・・・まさか、覚えてないのか!?」
「ご、ごめんね。その時寝起きだったからさ」
「はぁ、仕方ないな」
「優・・・!」
「奏蘭さん、あとはお願いします」
「任せなさい!」
「え、ちょ、奏蘭!?私のこと持たないで!!え、ちょ、動けないんだけど!?優!!助けてー!!」
「許せ、姉さん。これは必要な犠牲なんだ」
俺は奏蘭さんに運ばれて行く姉さんを見届けた後、母さんに電話をしてどこにいるのかの確認をとった。
どうやら、七海の両親のところに行っていたらしい。
そしてその時にたまたまお客さんが多く入ってしまい手伝っていたみたいだ。
どのみち明日には帰ってくるから問題ないが、姉さんは母さんが帰ってきたら、説教を食らうだろう。
今回は俺も擁護しきれないな。
翌日の昼間、母さんが帰って来た。
両手には饅頭やら何やらお土産を大量に抱えていた。
母さんによると、七海の両親からのお礼の気持ちだそうだ。
急に呼んだのに旅館の手伝いもしてもらって大変助かったのでそのお礼にとのこと。
更に、後日蟹も届くと言われた時家族みんなが喜んでいた。
ちなみに今日姉さんは留守だった。
昨日から帰って来ていないのだが、奏蘭さん一体何を・・・とそんな時だった。
「た、ただいま・・・」
「お邪魔しま〜す」
「あ、奏蘭さんどうも」
「あら、優くん。こんにちは」
「ゆ、優!!ほ、本物だ!!」
「あ、あの奏蘭さん、姉さんに一体何を?」
「ふふ、それは秘密よ」
「そ、そうですか」
「今日は璃亜ちゃんを送りに来ただけだから、もう帰るわね。また遊びましょ、璃亜ちゃん」
そう言い残し、奏蘭さんは帰って行った。
しばらくの間姉さんは俺にしがみつきながら小刻みに震えていた。
流石に母さんもこの状況だと説教するわけにもいかなかったので今回はお咎めなしということに。
それから数時間後、姉さんは我を取り戻し離れて行ったが、奏蘭さんの名前が出るたびに震え出していた。
奏蘭さん、本当に何したんですか・・・
お読みいただきありがとうございました。ご意見ご感想などもよろしくお願いします。




