第62話 破天荒なバレンタイン
生徒会に任命されてから一ヶ月が過ぎた。
生徒会の仕事にも慣れ、次第に亜衣さんのサポートにも回れるようになって来ていた。
そんな時、生徒会のカレンダーを見ると2月14日に大きな丸がつけられていた。
そこに疑問を抱き、亜衣さんに聞いてはみたが慌てふためいてとても聞ける状態じゃなかった。
そしてそのまま亜衣さんは会長の特権で今日の生徒会の業務を強制的に終了した。
俺はそのまま帰らせられたが、何故か残りのみんなは生徒会室に残ったままだった。
優はまだ思い出せてないようだが、2月14日はバレンタインデーである。
そう、バレンタインは明後日だったのだ。亜衣は優にカレンダーのことを尋ねられるまですっかり忘れていたのだ。
そのまま優を除いた生徒会メンバーでの緊急女子会が行われていた。
「ど、どうしよう・・・まだ何も決めてないよ・・・」
「わ、私は材料だけは」
「私も材料だけね」
「り、燐さんは?」
「私はもう作り終えているわ」
「な、ならば仕方ありません!これからデパートに行って来ます!!」
「あ、あの、亜衣さんはチョコ、作れるんですか?」
「そ、それは。うちのシェフに作り方を教えてもらうから大丈夫よ!!
「え、シ、シェフ?」
「結衣さん、もう慣れましょう?」
結衣がまた一人で混乱している間に亜衣は荷物を持ってデパートへと向かった。
燐は結衣を軽く叩き、正気を取り戻させてから帰って行った。
その後、結衣は後ろで戸惑っていた七海の手を勢いよく握った。
「七海さんは確か旅館の娘さんなのよね?」
「そ、そうですけど」
「それじゃあ今から一緒にチョコレート作るわよ!!」
「ま、まだ何も言ってないですけど!?」
七海は結衣に連れられて結衣の家へと向かった。
そこで七海はチョコレート作りとは思えないほど壊滅的な光景を見て今日は帰れないことを確信した。
そして迎えたバレンタイン当日、優は家で既に四つチョコを受け取っていた。
初めに渡して来たのは七海だった。七海は少し照れた表情をしながらも向き合って渡してくれた。
前だったら反対方向見られて渡されてたなぁ、と少し七海の成長を感じていた。
七海が渡したのを皮切りに母さん達からもチョコを渡された。
と言っても学校に行く前に食べきれる量じゃなかったので帰ってからゆっくり食べることにした。
家を出ると、家の前で待っていた燐と玲狐からのチョコを受け取った。
こいつらは毎年欠かさずに作ってくれている。
その分ホワイトデーも大変なのだが、それは秘密だ。
チョコを受け取った後、学校に向かった。向かっている間にメールが入って来ていた。
その内容を確認し、携帯をポケットの中にしまった。
玲狐は相手を知りたがっていたが個人情報なので伏せておいた。
教室に着くと、クレアと委員長からチョコを貰った。
まさかもらえるとは思わなくて凄く嬉しかった。
その時、クラス中の視線が俺に集まったのは言うまでもない。
玲狐は仲のいい友達用にも作って来ていたらしくそれを配布していた。
途中、玲狐がものすごい形相でこちらを見ていたような気がしたがどうか見間違いであってほしいとひたすらに願っていた。
昼休み、朝のメールで書かれていたように生徒会室に向かった。
中に入るとそこには亜衣さんが何かを持って立っていた。
「こ、これ受け取ってちょうだい!」
「あ、ありがとうございます」
「今日はバレンタインでしょ?だから作って来たわ」
「あぁ、それでカレンダーに丸がついてたんですね」
「そこは忘れて!!」
「でも、ありがとうございます。亜衣さん」
「いいのよ、別に」
「でも、別に昼休みじゃなくてもよかったんじゃ」
「そ、それは・・・その、たまには一緒にお昼ご飯食べたくて」
「そうですか。なら、ご一緒させていただきますね」
「その、約束とかあったら行ってもいいのよ?」
「いえ、今日は着けてこないよう行ってるので大丈夫かと」
「あなたも結構大変なのね」
「えぇ、ですが悪くはないですよ」
チョコを受け取った後は二人で昼食をとっていた。
途中燐からメールが入っていて何かと思ったら、玲狐を一人で押さえつけていたらしい。
燐には後で何か恩返しでもしないとな、とそんなことを思いながら返信を送り携帯をしまった。
亜衣さんも内容が気になってたみたいで説明したところ再びあなたも大変ね、と苦笑いしていた。
学校から帰宅後、俺は今日もらった合計九つのチョコを食べきり全員に感想のメールを送った。
そしてしばらくの間チョコは控えようと思った。
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