第53話 破天荒な約束
とりあえず先にクレアに返信をしておこう。
次に玲狐の家に行って話した方がいいな。燐の場合は奏蘭さんから話を聞いてそうだし最後でいいか。
通知の溜まりきったメールを開き、一番下までスクロールした。
最初のメールはクレアからのものだったので、そのままメールを開いた。
どんな内容か緊張気味で開いたのだが、内容は勉強のことについての連絡だった。
どうやらクレアはまだ知らないようだった。
後半あたりには返事を催促されていたので、とりあえず聞かれていた答えを打ち、遅れた謝罪を含めて送信した。
さて、次は玲狐だな。家に行くが一応メールの確認を・・・いや、やめておこう。
今一つだけ開いたのだが、とんでもない数の文字が見えたのですぐに閉じて、見なかったことにした。
いやいやいやいや、あれは流石にやばいって。
え、何、俺死んじゃうの!?えぇ・・・行くのやめたい。
でも、行かないと後が怖いので重くなった足を引きずりながら玲狐の家に向かった。
インターホンを押すと鍵の開く音がしたので扉の取っ手を手に取った。
こ、怖えぇ。俺何されんだろ生きて帰れるのかな・・・
「お、お邪魔します」
入ってきた扉を閉めるために後ろに振り返った瞬間、目の前が真っ暗になった。
どうやら袋を被せられているようだ、もがいて取ろうにも玲狐が袋を持っているため抜け出せない。
無理にでも抜け出そうと思い、袋をつかんでいる玲狐の手を握り、袋ごと持ちあげようとしたその時
「袋取ったら怒るよ?」
・・・はい。
玲狐は扉の鍵を閉めると一旦俺に被せていた袋を取った。
袋から解放されたと思ったら今度は口にハンカチを当てられた。
く、くそ・・・意識が・・・。
「おやすみ、優くん」
目を覚ますと、辺りが暗くなっていて周りを見ても何一つ情報が得られない。
一つわかるとしたら、腕や足がうごかせなかった。
正確に言えば体が椅子に固定されていた。動こうにもうまく動けずにいた。
記憶も玲狐に会ったところで途切れていた。恐らくあいつが何かしたのだろう。
数分後、部屋が突然明るくなった。そして改めて周りを確認すると、ここはやはり玲狐の部屋だった。
「あれ、もう起きたんだね」
「お前、自分が何やってるか分かってんのか?」
「そりゃ確かにあんまりいいことだとは言えないね」
「なら・・・」
「でも、優くん逃げようとしたでしょ?」
「そ、それは・・・」
「そんな事はどうでもいいの。ねぇ、許嫁ができたってどういうことか説明してくれるかな?」
「あ、あぁ。分かった、説明するからこれほどいてくれよ」
「全部話してくれたらほどいてあげるよ」
「先にほどいてくれない・・・?」
「何?」
「何でもないです。話しますから」
こうして俺は玲狐に許嫁の下りについて全て話した。
許嫁ができたのが誤解であることも全部。
全て説明し終わった後に玲狐が約束どおり紐をほどいてくれた。
「ごめんね、優くん。こんな手荒な真似して。優くんいっつもごまかして逃げちゃうから」
「うっ、そ、それは俺もすまない」
「でも、そっか。まだチャンスはあるんだね」
「まぁ、誤解も解けたし帰っていいか?」
「あ、ちょっと待って」
「なんだ?」
「今度、私に付き合ってよ。今回のお詫びとして」
「え、お詫びって俺がされる側じゃ・・・」
「何か言うことある?」
「ありません。全力でもてなします」
「よろしい!それじゃまた明日学校で」
「おう」
・・・あー怖かった!!
袋被せられた時は流石に死ぬと思ったぜ。
この分だと燐にも苦労しそうだな。
あれ、燐からメールが来てる。
玲狐に絞られたみたいだから、私のところには来なくても大丈夫、か。
・・・知ってたなら助けてくれても良かったじゃないか!!!
優が帰った後、玲狐は自室で、コーヒーを飲んでいた。
机の上にコーヒーの入ったカップを置き、飾ってある写真立てを手にとった。
そこには昔玲狐と優が二人で撮った写真が入っていた。
「一生一緒にいようね、優くん」
星空の綺麗な日に彼女はそう願った。
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