第140話 破天荒な花火大会
里奈さんのプライベートビーチから帰って来てから二日後、俺の家にまた騒がしい奴がやって来た。
そいつは下のリビングで俺の母親に軽く挨拶を済ませた後、俺の部屋に一直線に向かって来て、ノックもせずにドアを開けた。
「優くん、花火見に行こう!」
「・・・玲狐、部屋に入る時はノックをしてくれ」
「あ、そうだったね!」
そう言うと、何故か玲狐は俺の部屋から出て行った。
そして二回ノックをした後、再びドアを開けて入って来た。
「優くん、花火見に行こう!」
「うん、それさっきも聞いた。て言うか別にわざわざやり直さなくても良かったんだが」
「え!?」
「まぁいいんだけど。それより花火大会のことだろ?」
「うん!一緒にどう?」
「特に予定があるわけでもないしいいぜ、行こうか」
「やったー!!」
玲狐は今日一番の笑顔で喜んでいた。
なんというか、ここまで喜ばれると流石にちょっと恥ずかしいな。
恥ずかしい気持ちを必死に抑えながら優は携帯を取り出した。
その瞬間、その携帯に玲狐が手を掛けた。しかもこの雰囲気はやばい。
「ねぇ、今から何しようとしてるの?」
「何って、この後一緒に回るやつを探そうと・・・」
「え?行くのは私と二人っきりだよね?」
「いや、他にも色々と・・・」
「二 人 き り だ よ ね ?」
「・・・はい」
「だよね〜!もし他の人も連れて行くなんて言ってたら、監禁しちゃおうかと思ったよ」
「そ、そんなことするわけないだろ。ははは・・・」
「早く夜にならないかなぁ〜」
この調子で今日を乗り切らないといけないのか、せめて玲狐のスイッチを押さないように頑張るしかない。
せっかくの花火大会なのにこれじゃあ楽しむ要素が半減されちまう!
そんなことを考えているうちに気がつけば夜になっていた。
俺は母さんに言われ、タンスから引っ張り出した浴衣を着て家を出た。
約束の時間、玄関前で待っていると奥から浴衣姿の玲狐が歩いて来た。
モノトーンカラーの浴衣に花柄の刺繍が入れられている。いつもの私服とはまた違った玲狐の雰囲気が醸し出されてる。
「どうかな、この浴衣」
「あぁ、すごく似合ってるよ」
「本当!?これお母さんから借りたんだ!お母さんが高校生の頃、お父さんと一緒にお祭りに行った時に着たやつなんだって」
「へぇ、じゃあそれ着てたら何かいい事があるかもな」
「・・・そうかもね」
「ん?何か言ったか?」
「ううん、なんでもない!ていうか優くんの浴衣も似合ってるね」
「そうか?別に普通だと思うけど」
「いつもより大人びて見えるよ」
「あ、ありがとう・・・」
「さてと、それじゃあ行こっか!いつものあの丘に」
いつもの丘、それは毎年俺たち二人で花見をしに来る、一本の大きな桜の木が生えた丘だ。
ここからは辺り一面が見渡せて、花火も一番綺麗に見える。
その場所で二人で花火を眺めていた。が、突然玲狐に浴衣の裾を掴まれた。
「どうかしたか?」
「・・・あのね優くん、今日は大事な話があるの」
「そうか、一体何の話なんだ?」
玲狐はしばらく口ごもっていた。一旦落ち着くために深呼吸をして息を整えた。
今の玲狐の目は俺のことをじっと一点に見つめていた。そして玲狐が喋り出すと同時に花火が打ち上がった。
「好き」
「・・・え?」
お読みいただきありがとうございました。