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研ぎ師と魔剣の物語  作者: 稲村某(@inamurabow)
第一章ロイ篇・荒砥石で刃を付けよう
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「波紋流し螺鈿飾り・無銘」その3

毎度ながらのいかがわしいお話です。深夜に投稿ですので、肩肘張らずに○張って



 「なぁ、シュリさんよ、一つ伺ってよろしいですかな?」


「はいな!ロイしゃん!何なりと!」




「……本当にコッチに魔剣が居るんだろうな、なぁ?」


「んー、たぶん!」



……はぁ。溜め息は心の深呼吸。だが、もはや過呼吸気味で倒れる寸前だぜ……。


あれからどれだけ進んだか判らんが、森を抜け湖を迂回し、


町を通り、眼下に城塞都市を眺め、




「なぁ、シュリさんよ、一つ伺ってよろしいですかな?」


「はいな!ロイしゃん!何なりと!」




「これからのパートナーを、スミレと変わってもらいたいが?」


「やん!」




まず、始めに断っておくが、魔剣同士の情報ネットワークは決して意味がない訳じゃない。


何でも普通の武器屋等にも、かなりの代物が眠っていることもあるらしい。



特に「休眠期」に入っている魔剣は、特有のオーラも無く、見た目が地味な剣なら全く判らないそうだ。


だがこちらには何せ魔剣が二振りもあり、さらに俺は専門家……だ。



だから、何も問題なくサクッと見つけて帰る予定だったのだが、既に一週間も放浪しちまってるぜ!なんてこった!!



……疲労が溜まってきたからな、テンションが怪しい……。


もうこーなりゃ、気分転換でもするか!!


「おい!シュリにスミレ!!次の町に着いたら宿を取るぞ!!!」


「お~ッ!!ロイがヤル気を出した!!このスケベぃ!!」


「……とうとう、人の身での……初めて……ですか……!」



お前らの潔さは素晴らしいが、なぜそう短絡的に夜伽ということに直結するのかを君達と小一時間は語り合いたい。なぁ?



✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳



小さな宿場町に着き、三人で泊まれる宿探し(連れが美しい女二人だから困る)をすること一時間、遂に確保できました。


「あの……ロイさん、私は床で全く問題なく眠れますが……」


スミレは謙虚で健気で慎ましい。



「なぁロイ!この二個のベット、くっつけたら三人楽々だぜ!?もちろんアタシが上になるから問題ないな!!ワハハハハハハァ!!」


シュリは奔放で破廉恥で嘆かわしい。



……だが、シュリのアイディアは悪くない。


俺の上とか言う妄言は聞こえなかったことにしよう。



✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳



……何だろう、ちくしょう、太陽が黄色く見えやがる……。





……日も高いうちに宿を取り、ひとまず暗くなったら階下の食堂か、もしくはこの町をブラブラと散策も悪くないな。


そう思いながら二つあったベットをくっつけ、冗談半分でシュリとスミレを呼び寄せて、


「お前ら二人とも、男が喜ぶようなことって、どんなことだと思ってるんだ?」


なんて気紛れに聞いてしまったが運のツキ。




「うぉお、それを聞いちゃうんだ……ロイ、お前ってホントスケベだな!!」

「あうぅ……わ、私は詳しくありませんが……確か、聞いた話だとヌキ方は……、」


言いながら這い寄るスミレ、それを察知し、キシャーッ!と奇声を上げながら飛び掛かるシュリ。


キシャーッ!って何だよそりゃ。


あとスミレ、ヌキ方とかお前が言うな、何となく遺憾。


✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳



「ロイ、なんだどうした?腹でも痛いか?」


「あのぅ……ロイさん、平気ですか?大丈夫ですか?」


あぁ、心配要らない、大丈夫だよ。



ただ、これだけは言っておこう。


命が惜しかったら、擬人化した魔剣と、戯れでも同衾なんてしてはならない。


まして、二振り同時だなんて、絶対危険だ。



もはや夢魔並み、そう思っていたほうが危なくはない。



夢魔と同衾したことはないが。




……誤解の無いように言っておこう。


未遂でこの体たらくだ。もし、実際に事を為していたら……、



✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳



疲れきった身体を引き摺るように階下へと進む。


情けないが、まぁ仕方がない。



もし、また「アタシの出番だな!」なんて言われて、口の悪い魔神を呼び出されたら……。


わざわざ寿命を削って、更に命の蝋燭を扇ぐような真似はしたくないからな。



食堂の入り口に差し掛かり、ふと見上げると、立派な欄間に一振りの両手剣が飾られている。


さて?宿に入った時は見えない場所だったのか。



だが、あれは……まさか、


「おーい、ロイ!先に飯ならそー言ってくれよ!」


「ロイさん、……どうかなさったのですか?」


丁度いい所に二人もやってきた。



「なぁ、シュリとスミレ、あの剣……」



……?


キィィィィイイイイイイイィーーーーーーーーンッ!!


耳をつんざくような甲高い耳鳴りが鼓膜を揺さぶる!!


「うきぃーーっ!」


「キャァーーッ!」


二人は二人なりに感じたようだ。ただうきぃーーっ!は無いだろう……。



始まったのと同じように唐突に……消えた。


「な、なんだこれは?」


二人に聞いてみるか。と、思ったら、


「あ、これはもしかして……」


「シュリさん!これって共振!?」


「そう!ロイ!魔剣の共振だぞ!これは!」


察した二人から早々に結論が出た。



やはり、あれは魔剣、しかもかなりの強者のようだ。


なぜかって?シュリとスミレの出会いの時はこうはならなかった。



確かにスミレは「休眠期」に近かったこともあるが、それでも二振りの魔剣と共振をするなら、未だに現役の可能性も高い訳だ。


まずは聞いてみるか、宿の主人にでも……、



✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳



「あぁ、あれか?ありゃ、俺のじい様が使ってた剣だよ。」


熊のような身体付きの屈強な主人が教えてくれた。


注文の「メヌケの包み焼き・溶かしチーズ掛け」を取り分けてシュリと俺に差し出す。


「主人、メヌケってなんなんだー?」


「メヌケか?こりゃな、深い海に居る魚で、転移魔法を使って、誘き寄せた場所の海水ごと引き揚げるんだ。そーすると水揚げされたメヌケは目ン玉が飛び出すから、メヌケって言われるんだ。」


うーん、何か猛烈に才能を無駄にしている漁師の獲物なんだな、これ。



その力作を骨ごとバリバリ噛み砕くシュリ。お前……すごいな。


「ふん!ふむいなぁ!むゅにむゅにへめ!」


シュリよ、何を言ってるか全く判らん。あと骨は気にならないのか?


「ん?骨?そんなのあったか?旨かったから気にならなかったよ?」



見た目は可愛い娘だが、口の中はどーなってるんだ。ま、研いでるのが俺なら当たり前の切れ味なのか。


「それでご主人、あの剣は、今は使ってないんですか?」


控え目の声で訊ねるスミレ。目の前の「鉢盛りサラダ・肉増し」の迫力と釣り合わない速度だが、それでも着実に消えている。健啖健啖。


最初は肉なんて食わなそうな印象だったのに、隣のテーブルに運ばれてきたそれを見た瞬間、目が光った。そして肉追加。


「んー、使ってはいないが、ありゃ相当のやんちゃな剣だからな……悪いことは言わんが触らない方が身の為だぜ?」


モグモグしてるスミレに心配げな表情で告げる主人。


なかなか優しいが、コイツは魔剣だよ?



「それじゃ、次はねー、……あ!そうだ!」


シュリはメニュー見ながら何か、思い付いたようだ。



「あの剣、この娘のだよ!」


✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳




「……で、一体何がどーなりゃそうなるんだ?」


スミレの姿を見れば、誰だってそう思うだろう。



肩に掛かる程度の長さの黒い髪の毛は、髪留めで纏めてある。


腰の辺りで纏められた朱色のワンピースはシンプルだが、仕立ては手抜きのない仕上がり。


見ようによっては、さる所のお嬢様に見えなくもない、かもしれないけれど、



指先から足まで見える肌には刀傷、そして一番大きなのが片目を塞ぐ傷なのだから、どんなお嬢様なんだ?



「あんた、そもそも……あれを持てるのか?俺にだって楽に振り回せる訳じゃないぜ?」


言いながら、脚立を立てて剣を取り外す主人。


確かに、両手持ちの幅広い剣である。その力強い刃先はどう見ても、華奢に見えるスミレの手に合うような代物には見えない。



「さて、それじゃ……コイツをどう扱うつもりなんだ?」


ズッシリとした重みを感じさせる刀身から発せられる殺気が、見ている傍からハラハラしそうな予感……、




「あ、ハイ。ありがとうございます。」


ヒョイと片手で掴み、


「例えばこうですか?」


剣の重みは鍔の下に集約される。そこを起点として握り扱えば、振り回すことも可能だが、スミレの剣舞はそれを凌駕していた。


それは自分の身体と剣を入れ換える瞬間に剣を振り下ろす、そうした技なのだろうが、それは完成された舞いであり、予測不能の竜巻でもあった。



「では手始めにそのテーブルを真っ二つに」

「ちょちょちょっ!!待った待った!!」


慌てて止めに入るシュリ。



「この娘、腕は確かだけど、ちょっと世間知らずの節があってさ……で、」


そこから始まったシュリの話は、他人事と聞いていれば、なかなか聞き応えのある物語、であった……。




没落した貴族の娘が、再起を目指して武者修行に励み、道すがら二人の仲間(俺とシュリだ)を集め、こうして旅をしていたのだ、と。


いつの間にか集まった野次馬からは、「言われりゃ物腰が上品だよな?美人だし。」とか、「あんな華奢な身体であんな剣を振り回すなんて凄いぜ!美人だし。」とか。お前ら単純だなぁ。



「……そういう話なら、こちらも意地を張るつもりもないさ。じーさまもきっと気前良くアンタに使えって言ってるさ、きっと!!」


気付けば喝采を浴びながら、スミレが恭しく剣を渡され、俺達二人に可愛らしく微笑んでいた。



✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳



「……なぁ、シュリよ、どこからあんな嘘八百並べたんだ?」


「あん?ありゃ~、歌の歌詞だよ。」


なんだって?



「誰だって知ってる歌だよ。あの後、そのお嬢様は武勲を立てて国を興したが、若くして死んじゃうんだ。それを哀しんだ仲間が祈りを捧げ、彼女は聖剣になって末長く国を護った……って。」


「なんだ、元ネタがあったのか……。」


「でもね、アタシは……この歌嫌い。だって剣は幸せにならないじゃん。」


確かに……剣になって国を護るより、こうして旅をしている方が幸せに……、まぁ、それはいいか。




「ねぇ!ねえ!スミレ!剣はどーなの?聞いてくれそうなの?お話!」


三人で部屋に戻り、早速スミレを質問攻めにするシュリ。


「そうだ、それ、どうなんだ?実際。」


スミレは暫く剣を握り締め、ふ、と表情を堅くして、



「……この方は、火の化身だそうです。」


なんだって?


「ファイアースターター、火を奉るサラマンダを封じた魔剣だと言っています。」


なんか、すげぇなぁ。


「すごいじゃん!スミスミ大勝利だね!」


お前の喜びの表現も、すげぇなぁ。


「それで、ガルゴスんとこに行ってくれるの?」




「……それはまだ、判りません。」


「あー、じれったい!じれったいよ!スミレ、アタシも説得を」

「駄目だ、それじゃガルゴスとの約束を反故ほごにしちまうな。」


「……あ、そっか。この剣が打ち明ければバレちゃうね……。」


「だから、私が一対一でお話しします。皆様は手出し無用です……。」



キッ、と目付きが変わり、スミレは意を決して、魔剣の領域へと踏み入れていく……



「……ねぇねぇ、どー考えてもこれって覗き見、だよねぇ?だよねぇ!?」


「否定はしない、だが、干渉せずに観察するのは……これしかない、だろう?シュリよ。」


「うむ!実に素晴らしい推論と言えますぜ旦那!だが、覗きは覗きですよね?」


そうだが、不純な気持ちでなければ、それは正義。


✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳


この領域はまた、個性的な場所だな。



すごいな、ホント。


なんせ、至るところに黒焦げの骸骨や、焼け焦げた肉片が転がっている……イメージなんだろうけど、ねぇ……。



その真ん中に、肌も露な赤髪の女性が玉座に座って、スミレを見ている。



スミレの方は、自分を具現化した優美な刀を杖代わりにして、仁王立ちしている。うん、凛々しい。


「おいお前!この場所に何の用だ?つまらん理由なら焼き尽くすぜぃ?」


「……失礼千万重々承知、重ね重ねの無礼は初めてならば、誰でも必ず通る道。我が名はすみれ、またの名を波紋流し螺鈿飾り・無銘と申します。」


「ふん……少しはまともな遣り手らしいが、生兵法は怪我の元だぜ?滅びたくなかったら引き返せ。なぁ?」


「そちらこそ、長く座りっぱなしで果たして」


「……!」


「……!!」




「……ねぇ、ルイしゃん、あの二人さぁ、」


「あぁ、明らかに……、」


「「口喧嘩しかしてない!」」


さっきから、ピーチクパーチクやりあってるだけで、斬り合いの一つもやりゃしない。



長いが、別に危機感も何もない言葉の応酬。……だが、次第にそれは微妙にズレ始めてきた。


「おい、スミレ!その……お茶……ってのは、旨いのか?」


「はい、あれは確かマンドラゴラの雌花ですと。」


「うぉお、そんな銘品を、手軽に淹れることが出来るのなら、きっと剣の腕もかなりのものか?」


「それは長く使役の関係にあった私が保証できますよ?あと、凄い筋肉質です。」


「なにぃ!?筋肉質なのか!それで牛頭なのか?」


「えぇ、牛で、しかも礼儀正しい紳士です。」


「なんと!その見た目で紳士なのか!?ギャップ凄いな!!」




「楽しそうだな。行こうかシュリ。」


「うん。なんか、邪魔しちゃ悪いよね。」


二人で手を繋ぎながら帰った。



✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳




「おぉぉ、これが……新しい……魔剣!!」


ガルゴスの手には、あの両手剣が握り締められている。



「ちなみに、この魔剣の名前、レベッカって言うらしいよ。」


「うぅむ、何だか猛々しい名前だな。だが、気に入った!」



ガルゴス的には良いらしく、気に入ってくれたようだ。


ま、そりゃよかった。



「スミレ、今まで世話になったな……」


ガルゴスは、こう言う所が魔族らしくないな。



「これからは、新しい主人の元で、伸び伸びやってくれ。月の光に揺れる、優しい草花や、日の光を弾く、人々の明るさを見たりさせてくれ……。」





「スミレ、今まで、ありがとう、な。」




「はい、ガルゴス様も……、お元気で!」


爽やかに笑いながら、二人は、別れた。


✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳



「シュリ、スミレは寝たのか?」


「うん。今さっき、な。」



笑顔で別れたが、その後スミレは泣き続けた。


泣いて泣いて。


自分があれほど世話になったガルゴスに、何も恩返しもせずに来てしまった。申し訳ない、忍びない、と。




「スミレはなぜ、それでもガルゴスの元を離れたんだろうな。」


「んー、判るわけないじゃんか。そんな難しいこと。」




「でもさ、シュリはこー思うぜ?ガルゴスが元気なら、スミレも元気になるよ。」


「……深いような、深くないような。」





後日、シュリに聞いたが、ガルゴスが魔界の門番に返り咲いたらしい。


なにせ、俺とシュリで頭の鈍くて悪そうな連中に、「あそこには物凄い財宝があるらしいぞ?」と吹聴して回ったからな。


「イヒヒ♪あんだけ詰め掛けりゃ、魔界も忙しくてガルゴスを暇潰しさせておけなくなるよね?ロイもワルだよな!」


「なにいってやがる、お前こそ「湖の精霊の私から奪われた秘宝を取り戻してほしいの……!」とか言いながら姿消したり、確信犯だぜ?やり方が。」





「ロイさん、シュリさん、やり方が……でも、ありがとうございます。」


スミレは少し元気になったようだ。でも、一つだけ困ったことがある。



「……で、ロイさんは私を武器として見てますか?それとも伴侶として見てますか?」


なぜか、嫁として認めてほしいらしい。


「ロイ!二号もアリだから心配ないぞ!あ、ロイが二人いればいいのか。お前望めよこのアタシに!」


バカかお前。




次回は「獣のツルギ」を研がせて頂きます。

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