「波紋流し螺鈿飾り・無銘」その1
魔剣探して幾年月、とうとう自分の魔剣を持つに至った。でもコイツがまた変わった奴だった……。
「シュリ、お前らって仲間の魔剣がどこに居るのか逐一判るのか?」
屋台で買った鶏肉の串焼きを手渡しながら、聞いてみる。
「ん。あんがと。近くなら判るぞ?っても、あー、あの辺に居るのかなー?位だな。そうでなきゃ千本の魔剣が広い倉庫一杯になって毎日会議してるみてーじゃん。やだろ?」
「いや、それは天国だな。」
「あー悪かったな、あんたみたいな変態にゃそう見えっか?」
もにゅもにゅと口一杯に頬張りながら喋るシュリ。
そもそも魔剣が人間に化けること自体、余り知られていないことなのだが、シュリは余りにも違い過ぎる。規格外の魔剣だ。
「……喋るか食うかどっちかにしろよ、ほら。」
みっともないから、口の周りのタレを拭いてやる。もうホントにベタベタである。
「ニヒヒヘへ……くすぐったいって!もぅ。……ちょっとしょっぱいなぁ、これ。」
贅沢な奴だ、と思う。だが、別に腹は立たない。
見た目は真っ白だが綺麗な長い髪の毛で、瞳の色が真っ赤なこと以外は若く美しい女性である。
服を買い与えたら、「……んなことしてもアタシは契約で一緒に居るだけだ!安い女と同じに見られちゃたまんないぜ!」とか言ってたが、
白色のツーピースを着ながら鏡の前でくるくる廻っていたぞ、案外と浮かれていたように見えたけれどな。
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二人で同じ部屋に宿を取ると、「お二方は御夫婦ですか?」と鍵番の娘が聞いてくる。違ったなら何だと言うんだ?
「えぇ!姉の知り合いの従兄弟なんですがしつこく口説かれましてね~♪今も離れて寝たことなんて一回もなかったわガッ!?」
良く回る口を前から鷲掴みにし、
「はい。違ったなら何かあるんですか?」
「あ……、はい、お食事は一緒にご用意するので、その分を前払いしていただきたいのですが。」
「あー、なるほどね。」
……早い話が、泊り逃げ防止の為だろうかな?
案内されるままに二階へと進む。シュリを鷲掴みにしたまま。
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「……プハッ!!死ぬかと思ったじゃん!!お前何すんだよ!?この魔剣殺し!」
「あんな程度で死ぬかアホ。お前こそ魔剣なんだから、一人や二人は斬り殺してきただろ?」
「……ないよ。」
え?無いのか?聞き間違えではないよな?
「お前、本当に願望の為だけの魔剣なのか?」
「あーそうだよ、アタシは殺し専門じゃなかったから……」
ん?そうすると、例の王の件に若干の矛盾が出るな。
「シュリ、お前は三代前の王と契約して、散々敵を殺し回った、そう言うことになってないか?確か。」
「あぁー、あれね~。……あれは《波紋流し螺鈿飾り・無銘》って殺人狂の魔剣にやらせた。役割分担OKってとこ?」
何が役割分担だ。だが宝物庫には其らしき魔剣は無かった。こちとら伊達に魔剣の研ぎ師なんて言っていないのだ。もしあれば直ぐに判る。
「それじゃその……無銘って奴は今どこにあるんだ?」
「だっらしねぇーなぁ!波紋流し螺鈿飾り・無銘だっての!……アイツはね、魔界の入口の門番が持ってるよ、今は。」
ま、魔界……?
……マジか?
「魔界って、そりゃ遠いんだろうなぁ……、魔界だし。」
「あ?んなとこ直ぐ近くだよ。この世の至るところに繋がる入口はあるぜ?」
そ、そうなのか……驚いたな。
「明日の朝になったらちょいと見に行ってみよーぜ!久々だから楽しみだな!」
魔剣の楽しみ基準は良く判らん。
……晩飯はまぁ、さておき、部屋にベットは一組しかないんだが、オイ。
「…………。」
……何紅くなってんだよ、シュリお前魔剣だろ?
「ロイ、あー、今夜は約束のメンテナンスをー、その、してもらわないとな……覚えてるだろ?……マッサージとかさぁ……。」
あれは、魔剣としての研ぎ直しじゃねーのかよ!?
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「あ、おはよーございます。朝食は如何なさいますか?」
「はい!二人分をしっかり頂きます!!ねー、ロイ?」
……すっかり嫁気分のシュリ。お前、人間生活を完璧に謳歌する気だな?
ま、いーか。何だかんだで夫婦ってことだし。
……昨日の夜、何してたかって?朝っぱらから言う話じゃないさ。
さて、今日は魔界へ行ってみるか、ってそんな軽く行けるような場所なのか?
些か不安ではあるが……。
剣の名前は別の自作品にも出ています。探してみてください。