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研ぎ師と魔剣の物語  作者: 稲村某(@inamurabow)
第一章ロイ篇・荒砥石で刃を付けよう
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「聖剣・王殺し」その1

始まります。いかがわしい話は深夜に相応しいか、と。



 「だからその様なものは在りはしないといっておる!」


……ま、名前が名前だし、そう思ってたけどな。


「そもそもそのような免状、一体どこで手に入れて来たのだ……!、アレセウス殿のことだ。判ってはいたが、だが……ブツブツ……」


偉そうな家臣が何やら言っているみたいだが、落ち着いて聞こえないふりをする。その程度の分別がなきゃ、やっていける訳はない。



「……第一、この内容が……信じられんッ!!」



【彼の者は如何な邪剣とて容易に手懐けることにて、我が国の宝物庫の封印せし王殺し(キングスレイヤー)を任せることをここに赦す。  第一書記アレセウス・ハイス】


確かにこれは真贋の疑いない本物ではある。蝋印も本物だ。


だが、よりによってあの剣である。



他所には明かしたことのない秘中の秘、我が国の恥部とすら言われる邪剣である。


「……もし万が一、外部に知れたら、国が滅ぶような代物だ……このいかがわしい者に見せるべきなのか……」


……聞こえるように言うなっての。


✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳



その昔、ある人物の手元に、一振りの聖剣があった。


それは如何な魔物も退け、稀代の王を支えた国作りの剣。


だが、国を興した王が亡くなった後に、二人の跡継ぎが次々と病死し、迎えた婿との間に産まれた子も病死するに至り、呪われた剣として封印された。


城内の一部の者だけが知り得る宝物庫の奥深く、人目に付かぬ場所に厳重に保管され、ようやく代が変わっても王が変死することも無くなった。


それ以来、剣は「王殺し」と呼ばれるようになったのだが……、



✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳



「あんた!ほんとーに、けんならなんでもとげるって、そーいーゅーことで、いいんだよな!!」


酔っ払ったオッサンに、自分の話を少しだけ話したのだが、これが食い付く食い付く。


「そっかー、いやぁー、魔剣っとはぁー、そんなにほんぽーなんだな!!いやぁ、うらやましぃのぅ!ヒャッハッハッハッアハ!!」



聞けば使節で隣国に来たが、家臣がウザかったから撒いて居酒屋に逃げ込んできたらしい。やるなオッサン。


やたらバタバタと駆け込んで来て、相席させろと懇願されたので、持っていた布切れを被せて頭に巻いて、ゲラゲラ笑え、さぁ飲め飲め。


追ってきた家臣もまさか傍らで、ゲラゲラ笑いながら真っ赤な顔したオッサンが、自分の上司だと気付かなかったようだ。


オッサン素面ならお前ら首だぞ、普通なら。



散々飲み明かした後の朝、家臣を引き連れたオッサンが宿に来て、書簡を渡して去っていったのだが、


「おい、アンタ!ありゃ隣の大臣らしいじゃねーか!昨日のばか騒ぎ、大丈夫だったのか!?」


心配した主人に叩き起こされて手渡された書簡を読んで、初めて重鎮相手にやらかしてしまったことに気づいたが、


ま、気にしない気にしない。どーせ魔剣に絡むこと。


俺じゃなきゃ誰がやる、だ。 



✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳




ヒンヤリとした空気、そりゃそうだ。地下室だしな。


さーて、ご対面……、


「あのー、どうしても立ち会いたいんですかねー?」


「当然である!我が国の○○○○たる秘剣が」

「伏せ字にすんなよ……。却って恥ずかしいんじゃないか?」


別に研ぎ仕事を他人に見られてても恥ずかしくはないんだがね。


ただ……コイツはどう思うか、だな。



目の前には、呪符でぐるぐる巻きにされ、もうホント……緊縛寸前のお姿の、


一振りの魔剣。



 俺はちーっとも、そうは思ってないが、……《呪われた聖剣》が居る。



✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳




「はぁ、はぁ、はぁ……、」


荒い息で、


「あ、あ、……あぁあーーーーーーっ!!」


たまに叫びながら、


正座している白い太股の上に、


「……くっ……、な、なによ、……、」


ギザギザの石くれを載せられた、


「……こっちを、見るな……っ!!」


白い肌襦袢一枚の娘さん(年令不詳)が居ました。



「ぐっ……あなた……この国の……人じゃ、ないわね……!?」


「あぁ、そうだよ。呼ばれてきました、研ぎ師の……」

「研ぎ師!!あのド変態で容赦なく誰彼構わず研いで廻ってる犬以下の万年発情人間とかいう!」



「        」


「……え?……もしかして、……違いました?」


「……いや、研ぎ師は合ってるから……なんだか辛くなってね……ははは。」


いいながら、取り敢えず膝上のギザギザ石を取り除く。もちろん白い太股には赤い跡一つない。ま、あんな石じゃ歯こぼれしそうにもないが。



「……あ!いや、申し訳ない!!……あのレンから……いや、なんと言うか、そう、あれです!すごく親身に話してくれて……あと、彼女、沢山研いでもらって、……その、ものすごく、よかったって……言ってたから。」


「レン!あの魔剣、そんなこと……言ってた……って?」


「そう!魔剣ネットワークで色々言ってたよ?すーっごくよかったから、みんなやってもらったら?って!」


「……魔剣、ネットワーク?」


「……え?これ、もしかして言っちゃいけなかった!?」


知らねえよ……と、言うか魔剣ネットワークとか何だよ。




聞いたら魔剣同士は動けない分、お互いの情報交換は頻繁に行っているらしい。


と言うか、しつこいがネットワークってなんだ?



「……あ、とにかく!レンから信頼できるって言われてました!」


「そっか……で、今更だけど、御名前伺っても?」


「あ、久々に人とコミュニケーションとったから……喋りすぎでした?」


少しだけ恥ずかしげにそう言うと、



「私の種別は魔剣……ストームブリンガーです。使用者の願望と引き換えに、寿命を分けて頂く存在だっ…………たんだけど、見ての通りの……不自由な姿です……」


うん、確かに不自由そうな格好だ。


足首と腿を縛られ、胸元にも容赦なくぎゅーぎゅー呪符が締め付けてる、マニア向けの魔剣サンである。



……あれ?名前と俗称がかけ離れてね?それとストームブリンガーって……、確か、悪魔が憑いてる魔剣じゃなかったか?願望を叶えるが対価を頂く魔剣といえば。けれど、どこにも悪魔が居るようにも思えないが……。



「あ、あなた、私のこと知っていらっしゃるのですか!?」


……たまたまだよ、たまたま。



さて、それじゃ、始めますかね?


俺は商売道具を取り出し、傍らで固唾を飲みつつ見守る魔剣に近付くと、自由を奪っていた呪符を切り離し、


「……ふぅ。それじゃ、改めて御名前を伺いますよ?名無しのお姫様。」


「御名前……?あ!私は……シュリラザ・エリンコフ。」


「長い。シュリだな。そんじゃ始めるぞ、シュリ。」



「……はい。」



こうして地下の宝物庫で、研ぎ仕事が始まる。


「……意外に地味なんだな、研ぎ師の仕事道具とは。」



あ、忘れてた。外野が一人居たっけ。

ではまた。

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