乙女対乙女
クリスマスも過ぎました。うにゃ~!と書き残してあったので投稿しておきます。研ぎ師は来年も少しづつ書きますよ!?
砂上を滑りながら巨人が転がり、一瞬の沈黙が辺りを支配した後、
「うおおおおぉおお~~ッ!!やっぱり【女王蜂】は強いなッ!!」
観客がダンダンと足を踏み鳴らし、口々に喚声を挙げる中……【女王蜂】と呼ばれる女性はしかし、やや半身の構えを解かない。
それまで微動だにしなかった巨人がやおらムクリと起き上がり、首を巡らせて彼女の姿を捉えた瞬間、四本の腕を地に叩き付けその反動で下半身を浮かせて身を捩りながら反転し、【女王蜂】と正対する。
髪の無い頭部、そして黒く陽に焼けた全身から湯気を立てつつ相手を睨んでいたが、それも束の間。
……ふ、と息を吐き、駆け出したのはあろうことか【女王蜂】の方だった。
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「おおおぉ~~ッ!! ロイ見てみろよ! あのネーチャン、ヤル気満々だなっ!!」
興奮気味に声を出すシュリ、対して沈黙したまま勝負の行方を見守るスミレ。ロイは二人に挟まれながら固唾を飲んで双方の動きを注視していた。
スタタタタッ、と足並み速く駆けながら軽々と巨人に向かって跳躍した【女王蜂】は空中で手を伸ばし、巨人の頭へと飛び付く。抱え込むように顎の下に手を掛け全体重を首へと載せる。四本の腕を掻い潜りながら側頭部から後頭部へと廻り巡って反対側までぐるりと移動し、あろうことか耳を掴んで肩から滑り降り、巨人の背後に向かって身を振りながら二対の上腕の一本を抱え込むと、肘に肩を載せて身体を沈ませて、掴む腕を前へと差し出しながら軽く身体を浮かせて関節を極める。
「うごぉっ!? ごあああぁ……っ!!」
見れば巨人の親指と小指を左右の掌でしっかと握り締め、その掴む手に力を籠めて相手を拘束していくが、そのまま遠慮無く投げる。
関節技、そして拘束技を駆使した投げ(注・反則です)は、体格差を埋めて有り余る威力だった。投げを打つ瞬間、後ろ側から相手の膝裏に足を当てて体勢を崩し、更に合わせた背中を押し当て沈めた身体を跳ねさせて強引に相手を浮かせる。
小さな全身を駆使し、巨大な相手を意のままに操りながら動きを制して投げる。その結果は受け身も取れずに後頭部から真っ逆さまに落ち、砂に半ば頭を埋めながら全身をやや痙攣させながら硬直していた巨人が、ゆっくりと闘技場の真ん中に身を倒して横たわる。
「……ふおおおおぉ~~ッ!! 凄いぞ!! 凄いなぁロイッ!! お前もやってみろ!!」
興奮しながらしゃっしゃと手を差し出してはしゃぐシュリだったが、スミレは沈黙したまま【女王蜂】を見詰め、そして、
「……私に相手をさせてくださいっ!!」
身体を伸ばし精一杯手を差し上げながら、高らかに叫んだ。迷い無く、そして揺るぎ無く……。
「…………えっ? そ、その娘さんが……おいおい冗談だろ……止めないのか!?」
見物客から挙がる当然の反応を受け流しながらスミレは塀の上に手を掛けると、全く重力を感じさせない身のこなしで宙を舞い、反対側の闘技場の中へと身を躍らせ着地した。
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トントンと足裏で砂の締まり具合を確かめたスミレは、運び出されていく巨人を眺めてから、対峙する相手の姿を再確認する。
あれだけの立ち回りをしながら、全く息の乱れも無く平然と手を前で合わせて組み、無表情のまま微動だにしない。
(……まるで人形のようですが、それは見た目だけ……中身は虎か鵺だと思って対戦することに致しましょう……)
体重移動を兼ねて前後に身体を揺らし始めたスミレに呼応するように、【女王蜂】は浅い足踏みをしながらユラユラとリズムを取る。
(成る程……こちらの呼吸に、自らの呼吸を合わせて取り込む算段ですか。侮るつもりは有りませんが……)
対してスミレは割り切って、超非常識な方法で迎撃することにした。
「……ふっ、…………ッ!!」
目にも止まらぬ早業で繰り返す瞬速の猛打、【無呼吸打撃】だった。
本年も有難う御座いました!来年もちょこっとづつですが更新する予定です。ポイント最大値作品なんで(笑)