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研ぎ師と魔剣の物語  作者: 稲村某(@inamurabow)
番外編・三人旅
149/153

潮騒の魔剣

一切研いでないのに、何故か感じる運営様の視線。いや、このラインはセーフな筈……たぶん。



 艶やかな肢体を投げ出して横たわるオルカ。その横に腰掛けながら携帯用の研ぎ師道具を取り出して、まず魔剣専用の研ぎ油を手に取り直接刃に塗り付けていく。


「……温かい、わ……この温もりは……アンタの体温なの?」


「そうだな……ずーっと懐に入れていたせいもあるし、油ってのはある程度の温度から伸びる特性があるからな。これは鉱物油だが、本来はワックス状でなかなか伸びない代物だが、多少の混ぜ物が入っているからこそ、こうやって使い易くなるもんだ」


言いながらオルカの直線的な刃筋にそって油を伸ばしていく。薄い被膜になりながら地金に馴染むと、次第に錆びた部分以外は美しい光沢を見せるのだが、人間のアザのようになった錆びの部分だけは光を反射することもなく、鈍く黒ずんで見えた。


彼女が訴えていた錆びの状態は、研ぎ師から見ても決して良くはなく、逆に何故こうなったのか、それがロイにとっては気掛かりなのである。


「ところでこの錆びに気付いたのは何時頃からなんだ?」


「うーん、たぶん……二ヶ月位前から……だったかな?何だか急に力が入らなくなって、魚を追っ掛けてもなかなか捕まえられなくなって……それで身体を見てみたら……錆び付いてたんだ」


魚を捕まえる、と言う表現に違和感を感じたロイは、オルカに訊ねる。


「魚?何の為に魚を捕まえるんだ?」


「……食べる為。食べても食べても足りないけど、食べないと動けなくなりそうで、怖くて堪らなくて……」


ロイの目の前で身を捩り寝返りを打つオルカ。その刀身から発する霊気は本来の器から見れば、涸渇しているに等しい量。錆付いてから……いや、待てよ?と、ロイは思い付いて彼女の刃先に指を這わせる。


「……ん?……どうしたの?…………あっ!?」


つ……、と彼の指先から赤い鮮血が流れ、オルカの鼻腔に濃厚な鉄分を帯びた匂いが訪れる。それは彼女……命を啜る魔剣にとっては限り無く魅惑的な生命の糧……活力の源に等しい香りだった。


「……本来なら、違ったやり方でその……糧を送り込む方法もあるんだがな……」


ロイの眼から見れば遥かに年下にしか見えないオルカには、シュリやスミレのような疑似恋愛感情を抱くことも出来ない上に、魔剣の領域内なら指先を実際に切りつけること等しなくとも、ただ無味乾燥とした遣り取りだけで済むのだが……、


「ああ……そんな、ワタシみたいな見ず知らずの魔剣の為に……」


「いや、何と言うか……乗り掛かった船って奴じゃないか?……何にしても魔剣が弱った姿なんて見たくない、ただそれだけだよ」


流れる血が滴り落ちると、紅玉のような雫が傍らに横たわるオルカの唇へと吸い込まれていく。

唇から舌下へと流れる血は、やがて彼女の体内へと消えていき……、


「はああぁ!……違うわ、確かに……人間の方が濃いぃ……それだけじゃないわ!絶対的な何かが違う!」


嘆息と共に吐き出される言葉には、先程までは見受けられなかった濃厚な魔素の艶と薫りが漂い、光を失っていた瞳に輝きが戻り始める。

我知らずロイの手首を掴んだオルカは、恐る恐る指先の傷に唇を近付けると、ゆっくりと口に含む。


オルカはチロチロと舌先を揺れ動かしながら、ロイの血液を嚥下していく。何故だろう……生き物を殺してただ経口摂取するだけとは違う、命の糧を直接取り込む行為の中に、過去現在未来と続く命の受け渡しのようなものを感じ、そしてその実感がジワジワと全身に広がっていく。


吸血とは全く違う、血液を介して魔素を授かる行為は、オルカに未知の歓喜を沸き立たせ、さざめくような余韻を残しながらやがて静かに退いていった。



「ああぁ……不思議ね……何でだろう?……たったこれだけの傷口なのに、直接命を注ぎ込まれたみたいに身体が熱いし、力が(みなぎ)って堪らないの!」


ウフフ……♪と、ほくそ笑みながら寝返りするオルカから今まで全く感じられなかった色香が放たれ、ロイは一瞬意識が遠退き眩暈を覚えたものの、いやいやイカン、と踏み留まりオルカを研ぐ作業を再開しようとしたのだが、


「……ねぇ、ロイ……そんなに慌てないで?……せめて指先の血が止まるまで、待っても悪くないでしょ?」


……目の錯覚だろうか?先程までのやや痩せ気味な幼さの残る体型から、明らかに下腹部や胸部を軸にふくよかさが増し、それに伴い妖艶さを増した顔付きのオルカが、そっとロイの片腕を掴んでいた。


「……ねぇ、さっきは《違った方法で命の糧を送り込む方法》がある、って言っていたけど……」


上半身を起こし、一糸纏わぬ姿を晒すオルカはそう言いながら、ロイに小屋へと自らを運ぶよう懇願し、




「……それ……どうやるのか、是非教えてくださらない?」


彼に抱き着きながら耳元で妖しく囁いた。



✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳




ええ、別に魔素の受け渡しを血液を介して行っただけですからね!しかも魔剣の領域で!……この後二人はどうなったかって?それは次回のお楽しみ、ですよ。

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