研ぎ師と魔剣の進化論・其の四
やれやれ……やっと更新出来ました。レギュラー二本と短編一本を平行同時投下するとか無謀でしたか……それではどうぞ!
何時からだろうかなぁ~表面的な年齢がカレラに追い越されたのは?
何だってって?だいたいさぁ~カレラもロイも小難しいことばっかり考えてるから疲れるんだよねぇ~。
カレラなんて生後何年だったっけ?見た目と実年齢が噛み合ってないから困るけど、中身はすっかり老成しちゃってさ……義姉としちゃ追い越され感ありありで困るわよ、ホント。
フラン?どんな国なんだろ……名前だけだと発生由来惑星の地名に似たような箇所が存在してたような……旧過ぎて詳細不明。
ま、百聞は一見に如かずでしょ?触ればイヤン♪でも嫌じゃない……みたいな?ツンデレ?
相反する意思が同時に混在し互いを常に内包しながら表層に巴になりながら……ドーマンセーマンだっけ?陰陽よね、確か。清濁合わせ飲む……あ、それってカクテルじゃん!
……あ、船が着いちゃう!!バーテンさん!お代わり!!(バーテンダーですから……略さないで下さいよ……もぅ……)
…………ふいいいいぃ~ガソリ○満タン~!!ごっちー♪(御代をペチ。)
(はいはいどうも……向こうは気付いてなかったね。まぁ、此所でパートしてるなんて気付く筈ないけど……さて、船も到着したみたいだから仮眠したら向こうの店に戻りますか……ふわああぁぁ……ぁ。)
……あれ?あのイケメンバーテンさん、どっかで見たことあったような……おかしーなー記憶力悪くない方なんだけど……ま、泥酔してると別か?
カレラ~今行くから~!義姉ちゃんを置いていかんといて~!
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やや鉛色に近い空から注ぐ太陽の光はやや弱々しく、その光を照り返す海の色も暗い。風もなく波は穏やかなので、フランのある大陸北部沿岸部まではあと半日も掛からないだろう。
直に港へ到着する船内は、乗客が各々下船準備を始めている。ガタゴトと荷物を運ぶ家族、降りてからの予定を話す老夫婦、帰りしなに最後の一杯をねだるキュティ……もー!信じらんない!!ハイハイハイハイ!!そこ!もう船が到着しますよ!
へばりついていたバーから引き剥がすようにキュティを連れ出して部屋へと戻り、私達も下船準備……と言っても纏めた荷物を持ち出す位なんだけど……。さて、やっとフランに到着ですか……。
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私達の乗った船はゆっくりと港に入り、太い縄を幾本も使って係留される。その姿はまるで巨大な生き物を捕らえる為に張り巡らされた網のよう……。
その様子を眺めていると、ヘルヴォスさんが船員さんと使用人っぽい方々を引き連れてやって来る。
彼女は黒の毛皮のショートコートとスカートで、黒い毛皮の丸い帽子まで被ってる姿は物凄く大人びていて、あんな風に恋愛話に飢えている様とは別人のよう。
「カレラさん!もうじき船もフランに到着いたしますわ……下船の準備は全て整っていますか?」
「ん……?あ、そーだ!書類の提出と魔剣の保管庫に行って回収しなきゃいけなかった!!」
私は慌ててヘルヴォスさんに「ちょっと行ってきます!」と一声掛けてから下船の証明書を提出する為に船長室へと向かうことに。
「……なんだ君は、ここから先は立ち入り……あっ!失礼いたしました!」
船長室へと続く通路を歩いていくと、途中で若い船員さんに止められたけれど直ぐに預けていた魔剣を取りに来た私だとくれたみたいで後ろにある扉の前までエスコートしてくれた。
「……それではココとココ……、はい、完了です。それでは保管庫へどうぞ……」
船長さんに見てもらいながら書類にサインして、二人の船員さんを伴って保管庫のある船室へ……分厚い扉の向こうには、四角い箱が幾つも並んでいて一番手前に私の三振りが仕舞われている。
「よいしょ……あ、大丈夫ですよ?結構力持ちなんで~♪」
うんこらしょ、と三振りを革のケースに収めて留め金で固定して……。出掛ける時にハイン爺ちゃんから「三振りで国盗りが出来るぞ?」とか言われてたような……物騒な冗談。
肩紐で担ぎながらケースを持ち帰り、通路のベンチに転がるキュティの横に腰掛けつつ港に係留されるまで待つ。
「傾注!!お嬢様、……お帰りなさいませ。」
船が到着して私達の荷物を運ぶ船員さんを引き連れながら(ヘルヴォスさんの荷物が半端じゃなく多い!!)下船した私達を、厳めしい格好の五人組が出迎えてくれた……。
「……良しなに。お出迎えご苦労様です。エルマー、父上はどうしていますか?」
船上の様子と全く別人みたいに、落ち着いた物腰のヘルヴォスさん。言葉は抑揚も控え目で、正に由緒正しい御家柄……って感じ。
「はい、お嬢様。お父上は……酷く落ち込んで居なさいます……お早めの御帰宅をお勧め致します。」
やや下向きに腰を折りながら話すその人は魔剣だった。……凄いなぁ~喋る間に身体の一箇所たりと動かさず、微動だにしない……。
「全く……父上の子離れは何時になるのやら……情けないわね」
ヘルヴォスさんは溜め息混じりにそう言うと、荷物が多いから【ポーター】を寄越すように言っておいたのだけど、どうなのかしら?と聞いていた。……ポーター?
シュー、……シューッ!!ゴゴゴゴ……トトゴゴン……。
巨大な四つの鋼鉄の車輪を付けた荷車が蒸気を吹きながら近付いてくる……馬車?いや馬なんて何処にも付いていないし……何あれ!?
「カレラさんはポーターを見るのは初めてかしら?」
ヘルヴォスさんは私の顔色を見てそう訊ねてくる。見たことなんてないわよ!車輪だって身の丈位はあるし、荷車として見てもどれだけの荷物が積めるか何て、検討もつかないわよ!
でも当然ながら周りの人は見慣れたものなのだろう、船員さん達も無言でポーターに近付くと後ろに開いた荷室にホイホイと荷物を積み込み、ヘルヴォスさんに何か言った後は船へと戻ってしまったし。
「ねぇ、ヘルヴォスさん?あのポーターってどうやって動いているの?」
「あれ?あぁ……ポーターには大きな水槽が積まれていて、それを魔剣の力で沸騰させてその水蒸気を利用して動いているのよ。けれども騒々しくて乗り心地も悪いから人の移動にはあまり用いられないわね……」
確かに言う通りかも……ゴドゴドと地響きを鳴らしながら、私達から離れて行くポーターは、走るよりも遅く、歩くよりは速いみたい……沢山の荷物は積めるみたいだけど……。
「さ、それでは私達は一度屋敷に向かいましょう!道すがらフランの御案内も出来るでしょうし!」
パン、と手を打ち鳴らしながらヘルヴォスさんが声を掛けると、エルマーさんと四人は私達の周りを囲むように先に立って歩き出す。
そろそろ良いかな?私はヘルヴォスさんに一声かけてから、肩紐で提げた鞄を開けて三振りの魔剣を取り出して……、
「窮屈じゃなかった?皆さん……長旅、お疲れ様です!」
「…………ここが、フランか。何処と無く懐かしいような……気のせいか。」
「ふああぁ……あ。あー、肩が凝っちゃうわよ……全く……あら、キュティさんお久し振りじゃない?」
「……あ、イケメン発見だわぁ~♪ねぇ、カレラちゃあ~ん……いい?」
……ボイルさんとアヴァロンさんは変わらないけど……水月さんは……我が世の春ッ!!ですねぇ……相変わらず毎日が求婚期な方……。
「……カレラさん、まさか……この方々は……魔剣!?」
ヘルヴォスさんには一言位しか言ってなかったかも……ええぇっとぉ……
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こめかみを揉みほぐしながら、ヘルヴォスさんは暫く眼を瞑ったまま考えていましたが、どうやら彼女なりに答えが出たみたいです。
「……カレラさん、あなたが魔剣を連れて来ているだろうと言うことは、予想しておりました……でも、まさか……三振りも携えているなんて……予想の埒外で御座います……。」
ヘルヴォスさんは随分と困惑したみたいです。何せ船旅とは言え、魔剣は二振り以上持ち歩く際は許可証が必要なのがどの国でも常識(だから専用のケースに入れて持ち歩いたんだけど……)だし、アヴァロンみたいに一部の人にとっては強烈な魔剣も有るし……まぁ、今は擬人化してるから少しはマシだよね?
「……初めまして。私はボイル。縁があって今回の旅に同行することになった。短い間だがカレラ共々世話になるが、宜しく。」
いつもの茶色と緑色の斑模様ではなく、濃い青色の制服みたいな格好に四角い帽子を被ったボイルさん。言葉は丁寧だけど……何だか周りを警戒してるみたいな雰囲気。知らない土地だからかなあ……。
「ん?自己紹介するの?……私はアヴァロン……まぁ、物見遊山みたいなものだから気を使わなくていーわよ?」
胸元がドカンと開いたピチピチの上着と膝の所でキュッと締まったスカート(勿論サイドスリットがズバッと入ってる……)、そして寒さ対策なのかキルティング加工の厚手のチョッキ姿のアヴァロンさん……何と言うか……全部黒で統一されていなきゃ、見てるコッチが恥ずかしくなる位の大胆な服装……。
「ん~?……私も自己紹介しなきゃ、いけないの~?それよりもぉ~、アッチのイケメン紹介してよぉ~♪……ダメ?……私は水月ですぅ~♪」
今日はちゃんと人の格好してる水月さん。……最近知ったんだけど、好みの異性が居ると、普通の人間の格好を維持するみたい。服装の見た目は白いヒラヒラが沢山付いたドレスみたいな感じなんだけど……おへそ見えてます。
「……皆さん、流石に魔剣ですわね……フランの寒さをものともしないのですから……カレラさん、もし寒く感じたら上着をお貸し致しますから、ご遠慮なさらず仰有ってくださいね?」
ヘルヴォスさんに言われて自分の服装を見直すと、確かに少し油断していたかも……いつもの緑色の外套と、茶色いマフラーそれに手袋とブーツなんだけど……スカートがちょっとだけ丈が短かったかも……?
「ハイ!……今は大丈夫ですけど、後で借りると思います。」
「ハイ!今すぐ借りられたら借ります!!」
……あ、忘れてた!キュティ居たんだっけ!
後ろを振り向くと、同じような格好で手袋とマフラーを身に着けていないキュティが、何故かにこやかに微笑みながら小刻みに震えていました。
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「いやぁ~コレ暖まるねぇ~♪」
「ホットワイン、気に入られました?お代わりもありますからご遠慮なく?」
ヘルヴォスさんの連れた魔剣さんから差し出されたカップを、美味しそうに飲みながらニコニコのキュティ。もっとも、乗り込んだ馬車の中は快適な暖かさなんだけどね。
色々なことに、色々な能力を使って生活の中に溶け込んでいる魔剣の方々。私の第一印象は少しだけ柔らかくなったけど、やっぱり魔剣一振り一振りが何を思って働いているんだろうか?と気になっていた……。
流れるフランの街並みを眺めながら、私達は当座の宿泊先になる予定のヘルヴォスさんの家に向かっていくことになった。
ではでは次回其の五、をお楽しみに!そろそろ戦闘描写も入れたいなぁ。