研ぎ師と魔剣の進化論・其の弐
カレラとキュティ、そして携えた魔剣達は海を渡ってフラン独立国へと向かう。季節は夏から秋へと移り変わるが、二人の行く手にはどのようなことが待ち受けているのか?
「ふああぁ~ッ!!カレラッ!海だよ海海海海海!!!」
キュティと私、そして選別した魔剣達を携えて、見覚えある港から船に乗ってフランに渡ることになりました。
……やや興奮気味のキュティ……どうやら海と言う物は見たことがないみたい。
「海って綺麗だなぁ~♪……ふぐぃッ!?……臭いぃ~っ!?」
……そりゃ打ち上げられた海草の臭いを嗅げば、臭いに決まってるでしょーが。
「キュティ!あの船に乗って行くからね?聞いてるの!?」
…ゎーぃ、ぅゎーぃ!
小さく見える位に遠くまで走って行って、波打ち際で転んでた……物凄~く心配……。
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……独立国家・フラン。
大陸から切り離された島。以前は転々と小島が連なり大陸と連絡橋で結ばれていたが、自らそれらの島を破壊して大陸から孤立させたらしい。原因は周辺国家からの独立を果たす戦争を仕掛けた際、相手側から前線を孤立させる為に島々を破壊……魔剣の力、を用いて。
「カレラ、この船……帆も何も無いのに動いてるんだね!!」
「ふっふぅ~ん!この船はね……」
「内燃機関かな~?いやいやもしかしたら外輪機関を魔剣の力で強引にブン廻してるのかも~?あ~見てみたい!!」
キュティが訳知り顔でウンウンと頷きながら二重反転回転翼かなぁ~?それとも水流噴進かなぁ~?とか言っている……さぁ、そこまでは知りません……。
収容客数・四百人。中規模の貨客船「キーン・ヴァイオレット」。乗組員込みで最大六百人収容可能で有事には兵員輸送船として転用可能だとか。焔の国といい、フランといい……船を戦争の道具として使うのが好きだなぁ。
「ねぇカレラ!早く食堂に行ってみよう!!これからお世話になる大事な場所なんだから挨拶に行かないとね?」
「そうね!……いや、ちょっと待って……?この船、予め乗船料金は前払いしてある筈……よね?」
「そうなのよ!……つまぁ~り!!【食べ放題】ってこと!!」
ばばぁーん!、とでも言いかねない位に上半身をくねらせながら背中越しにこちらを見つめるキュティ。
……何処かで見たような、とかは言わない。しかし……本当に我が義姉ながら食欲に忠実。二人で食事する時に目当ての食べ物が奇数なら、必ずこちらの様子を窺い【食うのか?要らないのか?】を眼で訴えてくる。つまり一個でも多く食べたいのた。
「……いや、それはいいけど……、シェフ次第では『天国と地獄』ってことに……ならない?」
私の的を得た指摘に暫く固まるキュティ……。
「……た、確かにぃ……やっぱり早めに挨拶に行こう!!菓子折持って!!」
「いやいや、媚びたって結局は同じじゃない?」
「「……ですよねぇー……。」」
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外縁部を占める客室から進み、中央部分に当たる場所へ進むと『中央食堂』へと出る。船内案内板が随所に配置されているから誰でも迷子にならずに済みますねぇ……ちなみに私達の部屋は二等客室の四人部屋。プチ贅沢気分♪
「うわぁ~♪……流石は【兵員輸送船】に転用できるだけあるわぁ!……質実剛健だわぁ……」
中央食堂にやって来た私達は、この船を利用する客が二種類居ることを意識した訳で……、
①→一等客室以上の利用者。基本的に国賓か富裕層。
②→二等客室以下の利用者。上は私達みたいな私用で使う人や、個人で個室を予約した客。あとはそれ以外。
②だって立派な客だぞ!……と、言いたいけれど、そもそもこの船は二等客室と一等客室とは階層で区切られて、行き来は階段を使わないと不可能。もちろん一等客室には各部屋に担当者が居て給仕のサービスがつくらしい……なんで知ってるかって?……この前、焔の国から帰る時にそうだったから!!
「何々……希望者は料理を選べば手渡される?……フムフム、……え、お代わり自由ッ!!マジでッ!?」
「キュティ……あなた、そんなに同じ料理を食べ続けるつもりなの?それと、この食堂は禁酒だってよ……」
「……禁……酒ぅッ!?」
私の言葉の最後を聞いて、へなへな……と崩れるキュティ。うーん、我が義姉ながら……誠にダメ人間……ホントは人間じゃないけど。
「お酒ならラウンジにカウンターバーがあったし、そこなら大丈夫なんじゃない?タダじゃないだろうけど……」
「……そうなの……?ならいいッ!!」
まるでくしゃくしゃにした紙の筒に、水でも垂らしたかのようにムクムク~♪と立て直し、即座にラウンジを目指して歩き出すキュティ。復活早い~ね。
やれやれ……この先がホントに思いやられるよ……。
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「むっちゃむっちゃ~♪もむもむ……ほむぅ!!」
何と言うか……キュティは食べ物を食べている時は幸せそのもの、と言った顔で満喫している。
「カレラ~!美味しいよ?特にこの鶏肉のハムがまたぁ……もむもむぅ~♪」
美味しそうにハムを頬張りながら満足げなキュティ。しかし……、
「ごきゅごきゅ~♪嗚呼……美味しいわぁ~♪まったりとしてそれでいて……スッキリとした喉越し……ブラッディメアリィ、お代わり!!」
相変わらずのザル状態……果たしてキュティは本当に酔っているのかしら?
「……ミルク。氷抜き。」
隣のキュティの、遥か先から聞き慣れないオーダーを飛ばす声。
……バーで、ミルク?
「…………ふぅ。やっぱり良く冷えたミルクには、氷なんて下衆で即物的な物は必要ありませんね……」
声の印象からその人は二十代手前……つまり私達と大して変わらない。そして……、
「……やはり、ムルハグなんて野蛮な国に赴かなくて正解でしたわ……。」
……何だか気に入らない物言いなんだけど?野蛮とか、わざわざ言わなくていーんじゃない!?ムルハグ領の港から出港してる船なんだからさ!
私はそのムカつく相手を一目見てやろうと、意を決して立ち上がったんだけど……、
「あら、これはこれは……ムルハグからの交換留学生の……失礼ですが、お名前、伺って宜しいかしら?」
相手は私を知っていて、私はそいつを知らなかった……何だかムカつくんですねど~!?
「……え?私はキュティ。正式名称はRZ349……まぁ、キュティでいいよ?」
「あら、それは失礼……そちらの【良く似ている】ご令嬢に伺ったつもりでしたのですが……わたくしはヘルクレス・ヴォル・スルヴァルト……平民詠みでしたらヘルヴォス、とお呼びになられて結構で御座いますよ?」
うわぁ~、なんかムカつく!!初っぱなから喧嘩売ってきてるわ、このご令嬢!!
「……私はカレラ。ハイン・デ・ロイの第一女にして、そこのキュティの義妹……世間からは「魔剣の研ぎ師」のカレラ、とも呼ばれています。」
……よっしゃ!私だってやる時はやる娘なんだから!ずーっと練習してきた甲斐があったってもんよ!?
「……これは失礼いたしました。何分にも私とて若輩者……失言も時には有ります故にご容赦を。……何せ、世間知らずもいいとこですから。」
そう言ったヘルヴォス、と呼ばせたがるその娘は、短目の髪の毛を掻き上げた後……、
「…………フラン独立国、スルヴァルト代表の娘ですから。」
あー、これは……面倒くさそうな人だ、うん。
「うひょ~♪ブラッディメアリー、お代わりぃ~♪」
あー、ここにも面倒くさい人が居た。はぁ…………。
ミルクのお供にはビスケット。次回「研ぎ師と魔剣の進化論」其の参、研がせていただきます。