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研ぎ師と魔剣の物語  作者: 稲村某(@inamurabow)
第五章デフネ今昔他・篇……綺麗なお義姉《ねえ》さんは好きですか?
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「三者揃い」其の五

三者揃い最終話です。強さは果たして彼女の為となるのか?



 結局何だったんだろうか……あの薄気味悪い奴が黒幕だったにしても、表立った方のマキとか言う娘はあれから放心状態で覇気も無い。


元赤猫の方は、「久々の現世だし、顔が見たい奴が居るから暫くここに残る」とか言ってるし……自由な神だな、本当に。



ゼルダの方は「とにかく縄張り争いも決着したようだし、この者の処遇も決めなければならんな……よし、戻って約束通り朝酒と洒落込むとしようぞ?」だと。あ、ここにも自由な奴が居た。


私はゼルダに一度は流刑の沙汰を受けたけど、今は全くそんなことを蒸し返す様子もない。……ま、以前からそんな感じの奴だったけど。



ヴァルトラがよいしょ、と言いながらマキを背負うけど、抵抗の素振りもなくされるがまま。こりゃ確かに連れて帰らないと面倒の種にしかならなそうだ。



✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳


「只今戻ったぞ!……って何じゃ?皆はどこじゃ?」


ゼルダの屋敷に戻るとそこには朝方出会った男の姿もなく、顔にキズを負った女性が配膳をしていた。


「おぅ!ラージャは居ったか!して、皆の者は何処に?」


「あ、おはようございます!ゼルダさんにヴァルトラさん!……そちらは失礼ですがどちら様ですか?」


そのラージャと呼ばれた人は、丁寧な物腰で落ち着いた雰囲気の女性だった。顔のキズは確かに目立っているが、それ自体で美しさを損なっても余りある気品が感じ取れる。……それに、何か物凄い魔力を内包している気配もあるが……。


「おぉ!紹介がまだだったな!此の者はディー・フォンデ・ネィートリッヒ……うむ、デフネと言う名の多少ひねた奴じゃが、悪い奴ではないぞ?」


「あら!お知り合いだったんですね?私はラージャ、ここで皆様のお世話をしています。何か困ったことがあったら遠慮なく仰ってくださいね?」


気さくにそう言うと、そうそう!皆様は今朝がた起きた、広場での空間転移で削り取られた穴を埋める作業に駆り出されて行きましたよ?と言ったので、


「こちらこそ!……って、穴が……?」


「はい、なんでもかなり深く抉れたらしくて、流石は獣の象徴のマーシャ様やることのスケールが違う、と噂になっているとか……?」


そこまで言いながら、ラージャはチラリ……とゼルダの方を見ると、まぁ、噂ですが。とだけ言い、


「皆様、朝食はまだですよね?支度は済んでますから手を洗ったら頂いてくださいませ?」


と言いながら食堂へと戻っていった。



「……まぁ、犠牲者が居らなんで良かったのぅ。……何じゃ?」


ポツリと呟いたゼルダにデフネは苦笑いしつつ、


「ま、その通りだな!さ、それじゃ朝食によばれるとしようか!」


とだけ言った。



✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳



「……何ともまぁ……朝から贅沢なことで……これも魔導の類いなのか?」


湯船に浮かびながら、手にした杯を傾けるデフネ。中身はこの辺りの特産の葡萄酒らしく、わざわざ氷を詰め込んだ木桶に差し込んだ瓶は、湯殿の湯気で汗をかいていた。


「フム……、魔導を用いたのは極一部だけじゃ。湯は【温泉】とか言うて、地下から勝手に湧き出してくるからのぅ」


目の前のゼルダは、その中身にそぐわぬ未発達な身体を腰下だけ湯に浸かりながら、デフネ同様に杯を干していた。


「んくっ、んくっ、んく…………今年のこ奴(・・)は若いのに青臭さは無いが尖った個性もないな。……ま、悪くはないが良くもない、か」


ゼルダはそう言ってはいたが、既に半分以上を空けていた。


「酒の良し悪しはともかく、あのマキとか言う娘はどうするつもりなんだ?」


お互いの杯に葡萄酒を継ぎ足しながら、デフネは話を変えた。


「うむ、この屋敷で暫く面倒を見てよいと思うておる。何せ、ここには転移してきた者も居ることだし、他所よりは目も届くしな」


「そりゃまた随分と……転移してきた者?」


危うく聞き流しそうになり、デフネは慌てて聞き返す。彼女が身を置く環境では、そんな連中はついぞ見たことはなかった。


「おぬしも今朝方会うているぞ?あの若い男もその手の類いじゃ」


……そう言えば、マキと同じ黒い髪の毛だったな……ま、それだけで二人が同じ世界から来た証拠にはならないが。



「ま、今は遊ばせておくが、そのうちにこの屋敷の居候連中に預けて鍛え直すのも一興じゃな!何せ此処の連中ときたら……」


湯の中で二人はそんな話を酒を飲みつつ、つらつらと続けていった。



✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳



「はいはい!どちら様ですか……って、マーシャじゃないの!」


玄関まで出てきたラージャが扉を開けると、そこには割りと普通の服装に身を包んだマーシャが立っていた。


目深に帽子を被り、赤の半袖に肩掛け紐で吊った丈の長いスカート、そして素足に革のサンダル。どこから見ても、今朝方の警報の元凶だと気付く者は居ないだろう。それに今は静かに動き回りたいからか、物騒な殺気も剣呑な魔力も全く生じさせていない(元々魔力は微弱な方だが)。


「……ラージャ姉さん、あがっていい?」


帽子を下げながら辺りを見回して、周囲の様子を窺ってから素早く扉の内側へと身を滑り込ませる。


「もう……マーシャったら!来るなら予め言っておいてくれれば、前もって色々と招く準備も出来たのに……」


ぼやくラージャの姿にやや小さくなるマーシャ。先程の姿や勇ましく絶対的な自信過剰の態度からは程遠い様子だったが、そんな彼女にラージャは苦笑いしながら、


「……でも、ホント久し振りだわ……元気だった?」


当初の言葉は照れ隠しだったのか、すぐに笑顔を取り戻すと少しだけ背の低いマーシャをそっと抱き締めながら、優しく問い掛ける。


「もう……姉さんは心配性だなぁ……私達に不健康なんて存在しないことは、姉さんが一番よく知ってるでしょ?」


暫くそのままの二人だったが、ラージャの腕の中から解放され、被っていた帽子を脱ぎ、長く煌めくような赤い髪の毛を緩やかに広げながらマーシャはラージャに答える。



「私達はたとえお互いに殺し合ったとしても、次の日には分子レベルから再構築されちゃうんだから……」


「……そうね、でも……そうであったにしても、健やかに生きる、そしてそうなるように努力することは大切なことよ?」


「まぁね……痛みはある訳だし……一回だけ興味本意で地竜に喰われてみたけど、あれは地味に嫌だったなぁ……」


「マーシャ!あなたまたそんな無意味なことを……!」


「判ってる判ってるって!もう二度としないわよ!?」


気付けば二人はいつの間にか居間に移動して、腰掛けながらそんな他愛ない話に興じていた。



……或者は風呂の湯船に身を漂わせながら、又或者は部外者が聴いたら正気を疑うような話題を世間話のように……。



✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳



「……あ、気が付きましたか?御気分は悪くないですか?」


ヴァルトラが窮屈そうに身を屈めながら、屋敷の中の一室に設えられた寝台に横たわった麻紀に話し掛ける。


「…………ここ、どこ?」


半身を起こして周囲を伺う麻紀の様子を見て、身体の心配は必要なさそうだったのでヴァルトラは取り敢えず安心した。


「こちらは……うーん、そう!あなたが倒れていたので私がお連れしました。ご都合悪くはないですか?」


ヴァルトラは今は詳しく話すことは避け、彼女が知りたくなるまで伝えることは聞かれたことに終始することに決めた。ゼルダからは《今は勝手に歩き回らせず、手元に置いておくこと》にしよう、と言われていた。


「……私は別にどこにも居場所なんてないし……もう、帰る場所も、元の世界に帰る方法もないし……」


ポツポツと話す麻紀は、弱々しく呟くのみで、心ここにあらず、の様子だった。


「まぁ、それはおいおい決めていけばいいですから!今はあなたが目を覚ましたことを知らせなければならないので、暫し失礼いたします!」


そう言い残したヴァルトラは、ガタガタと慌ただしく立ち上がると、扉を開けてその巨体を器用に肩口から差し込むようにするりと外に出ていった。



「……あれ?今のひと……頭、無かった……?」


遅れながらその事実を思い返して、次第に募るモヤモヤとした不安が形に成りかけた瞬間、



「し、失礼しますっ!!ってうわぁ!ひっさびさに日本人だっ!!」


扉を慌ただしく開けて部屋に飛び込んできた若い男は、入るなり麻紀の姿に正直な感想を叫びながら、


「あ、俺はライル、()()()()()()では新井(あらい)(とおる)でした!ねぇ、マキちゃんは出身どこ?いつ頃の生まれ?」


やや興奮ぎみに話し始めたので、暫し面食らいながらも、


「あ、……えーっと、私はマキ、向こうでは町野・麻紀って名前だったわ……いつ頃の生まれ……?西暦(※①)だと……○○95年、……出身……は、町田……って、判る?」


「来た多摩丘陵民!俺、八王子だってーの!」


「は、八王子!?やだ近いじゃん!」


「だろ~?でもさ~町田ってどちらかって言うと神奈川っぽいとこない?」


「そんなことないですよ~!だって町田って言っても成瀬の方だったし~!」






扉の向こう側で中の騒ぎを聞きながら、ヴァルトラはマキの様子に胸を撫で下ろす。あれだけ賑やかに話が弾むなら、きっとライルのペースに巻き込まれて次第に元気を取り戻していくだろう。


(……でも、ラクシャさんが不在なのが吉と出るか凶と出るか……ですね)


ライルが自分が居ない間に他の女性と和気藹々としていたことを、果たしてどう受け止めるのか……?そう懸念はしたものの、ヴァルトラとしては若い夫婦には時として試練も必要かもしれない、そう思うことにした。


「……それに、お二人の間にはもうじき新しい命が授かる訳ですし、きっと上手くいく筈ですよね!昔から【子は()()()()()】って言いますから!……あれ?だったかしら?」



ヴァルトラは知る由もなかったが、時々ライルがそう言いながら「子供ってどこに居ても親の間を繋ぐって意味なんだぜ?」と言っていたのをそう捉えていたが、ちょっと間違って覚えていたのでした。



✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳


※①→西暦呼称はしていますが、特に今の日本との関連は有りません。ちなみに稲村作品では日本→旭本です。

時系列としては罠師の少しだけ未来の時代にリンクしています。それでは次回「鋼鉄の覇者」其の壱でお逢い致しましょう※※業務連絡・稲村作品「魔界のお城経営に……」は、ノクターンにて完全版として投稿することに決めました。……勿論18禁ですのでご了承下さいませ。

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