「見習い研ぎ師の二人」其の五
いやはや……某○○れの○向愛の強すぎる漫画に心奪われていました暫くの間……。一度もやったことないのにね(兵器オタではあるが)!!それでは第五話いってみよー!
殺意で盲目になる。耳鳴りで音は聞こえず、ただ手の中に握り締めた魔剣の感覚のみ。剣の基本?間合い?何だい?それ。
殺し合いには不要。切れば死ぬし、斬られれば死ぬ。
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「……ロイィッ!!」
私が我を忘れて叫ぶ名前にも無反応。俯いたままで、じっとして凝固した闇のように身動き一つしない。
だが、闇に溶け込んだ黒い塊は、やがて灯りの中で人の形を取る。
……見慣れたロイに見えたそいつは、確かに人の形を模しては居たが、、頭の先から爪先まで全てに殺意を宿し、醜悪に擬人化された……魔剣の気配しか発して居なかった。
ぎらり、と灯りを反射した刀身からは、流れ出るように濃密な魔力が滲み出て、目を背けたくなる程だった。
暗く澱んだ一対の窪みからは、明確な殺意しか現れない。
「……デフネ、無事か?」
聞き慣れた筈の声は、虫一匹殺せないいつもの弱々しさは微塵もなく、我が身を案じる筈の言葉も、遠雷の如く現実味の希薄なくぐもった音でしかない。
「……ロイ、本当に、ロイなのか……?」
「……?……勿論、そうさ……でも、今は……先ずは【掃除】だな……」
顔の下部に開いた深紅の穴から絞り出すように発せられた音は、それだけ伝えるとギュッ、と、閉じ、
ひゅん、と風切り音を立てながら私の脇を走り抜けると同時に、背後から拘束していた塩男を横断面から両断、返す刀で腕の縄を切り落としていき、
その場から身体ごと後方の開いたままの扉に向かって跳躍すると、刀を振るって乱暴に扉を閉め、更に渾身の力を振るって蹴りを見舞う。
留め具を弾けさせながら外に向かって吹き飛んだ扉は、外に迫っていた塩男を二人ほど巻き添えにして四散する。
やがてわらわらと集まってきた塩男達。つい先程まで見当たらなかった連中が、松明に集まる蛾のように寄り集まって来る。
その数は先程とあまり変わらない……そんな……なんで……?
「くっ!くっくっくっ……残念だったなぁ……お前の救世主様も、これだけの数の……んぐッ!!」
声高に嘲笑いながら、ロイに手勢を差し向けようとした男の胸に、投げ付けられた魔剣。
見事に刺し貫いた剣に絡み付いていた黒い帯が次第に太く広がると、また人の形を取って立ち上がる。……何なんだ、一体何が起きてるのか……?
「……ヴードゥ、とか言うのか、その魔剣の名前は……」
人の形に戻ったロイは、あろうことか相手の魔剣の名前を諳じる。
「……な、何故、この魔剣の名を……ッ!?」
「……俺は魔剣の研ぎ師を目指す者、当然……《魔剣の領域》に踏み込むことも厭わないぞ?」
ロイはそれだけ言うと、目の前の男に突き刺したままの魔剣を無造作に引き上げ、相手を真っ二つに引き裂く……のだが、奴からは血の一滴も零れず、代わりに噴き出したの白い塩。
そして、手から滑り落ちた魔剣は地に落ちる寸前で、脇から飛び出した塩男が素早く手に取るとそのまま窓を突き破って脱け出してしまった。
その様子を見届けたロイは、男の傍らに立て掛けられていた私の魔剣を手に取ると、部屋の中央に置かれた大卓から敷布を剥ぎ取り、各々を私に向かって突き出しながら、
「取り敢えず、これを渡しておく。身支度には程遠いだろうが、急拵えだから仕方なかろう」
と、落ち着かせるように話し掛ける。
……それにしても、いつもの話し方と全然違う……ロイ、と言うよりも、遥かに歳上の男のように話すし、行動に躊躇も迷いもない……。
「なぁ、ロイ……さっきから何と言うか……人が変わったみたいで、気味が悪いぞ……?」
思わずそう言ってしまうと、一瞬固まったロイが、直ぐに氷解するように動くと魔剣を鞘に戻し、
「……やはり、バレていたか……こいつには悪かったが、少しだけ身体を貸して貰っていたのさ……」
そう言うとロイは外に向かって歩き出し、こちらに背を向けたまま、
「……ロイ、とか言うこの小僧……まだ魔剣の使い方も判らん若輩者だが、お前を救おうとして我が【魔剣の領域】まで平然とやって来てな……並みのガキなら即座に脳を焼いて廃人にしてやるつもりだったのだが……余りにも真剣だったからな……つい、仏心が出ちまった」
そこまで話すと魔剣の握りから黒い帯がまた流れ出て、ロイの身体に巻き付いていく。
「……細かい説明は省くが、この小僧の身体を暫く借り受ける。……これは、小僧を【魔剣の領域】と今世を跨ぐ為に必要な帯。……これにより、小僧の身体は限り無く魔剣と同化する……」
そこまで話すと、ロイの身体は見る間に細く延び、魔剣の握りから垂れ下がる長い帯となり地面にとぐろを巻く。
「……我は《玄武》。人の極性を引き出し原動力とする魔剣。今までも、これからも……我と小僧を突き動かしているのは、そなたを護らんとする小僧の想い……それを忘れぬことだ……」
帯は一瞬後にまた膨らむと、細い人の形を模し、それは信じられない速度で動くな否や、疾風のように屋敷から飛び出していった。
「……って!おいコラ!!何が護らんとする……っだよ!!だったら置いていくなって!!」
私は裂けた胸元にグルグルと布を巻き付けてから、ロイの消えた方に走り出す。
……全く!私が守るつもりが、すっかり逆転しちまってるじゃん!あー、恥ずかしいったらありゃしないっ!!
若干自棄になりながら、頬が上気していることを自覚して、更に恥ずかしくなる。まったく、何でこうなったんだろうか……?
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「クソッ!クソッ!!あともう少しでここに拠点が作れたのに……とんだ邪魔が入りやがったっ!!」
髪の毛の無い男が、山道を必死の形相で登り続ける。
彼は魔剣の力を借りて、この村に一つの循環する環境を作り上げる途中であった。魔剣の力は【塩で出来た分身を操る能力】。多量の塩を消費して分身を作り、意のままに操るのだが、最初は本当に単純な作業しかさせられなかった。
だが、塩の純度が高まる程に、複雑な作業も出来るようになり、自らの意思を乗り移らせたかのように個別の判断で動かせるようにもなった。
そこで一計を案じ、各地を転々としながらこの村に白羽の矢を立てたのだ。この村の一角には、塩分濃度の高い箇所があり、そこに地面の塩分を吸収して根塊に貯蔵する植物を栽培し、それを用いて分身の力と数を増やす計画を立てたのだ。
最初は作物を元に塩を作り出して資源とし、それで村の収益を上げるように差し向けて村人と共に、精製塩で儲けようと見せかけたのだ。
純朴な村人達は騙されて計画に利用され、気付けば分身の数は村人の数と同じ位まで増やすことに成功した。
後は簡単だった。逆らう愚か者を吊し上げ、一気に分身を増やしていき、村の完全な掌握に成功。そして村の実権を掴めるようになった時、忌々しいあの小娘共が現れたのだ。
「……あと、後少しで……俺の、俺の軍隊が、出来た筈なのに……っ!?」
急に寒気を感じて後ろを振り向くが、何も居ない。
……とにかくこのまま国境を目指して隣国に逃げ、また一からやり直しだ。
「くそ……あの小娘と小僧め……いつか必ず見つけ出して……」
「見つけてどうすると言うつもりだ?またぞろ吊し上げるか?」
声は若いが、妙に修羅場慣れした言い回しに、男の身体は鳥肌が立つ。
ゆっくりと振り返ると、そこには一振りの魔剣を携えた人影が見える。
だが、夜闇に佇む相手は服装に依るものか、姿形がはっきりとしない。
ゆらゆらと揺らめくように動いたかと思うと、そいつは一直線に踏み込み、極端に低い位置から一気に魔剣を振り上げる。
「があっ!……な……んて、重たい……剣筋……だっ!?」
男はこれまでにも幾多の死線を掻い潜ってきたが、その相手の太刀筋は完全に人間離れしていた。正に魔剣使い特有の、規格外の力。
一の太刀を止められたことに何の躊躇も見せず、相手は踏み込みを止めるとあろうことか男の後方に跳躍、背中合わせになったまま側方から両断するように二度三度回転しながら首元、腰、胸部を立て続けに撫で切り。
同方向からの斬り込みは予測内に収まる為、辛くも防ぐことは出来たものの、一太刀毎に火花を上げながら通り過ぎる剣撃は、背中に冷や汗を滴らせるに充分だった。
「……笑止!防戦のみは勝ちを拾うに非ず。然らば……切り捨て御免っ!」
魔剣の使い手は古風な言い回しでそう告げると、剣撃の速度を一段階上げる、
……今までは軽い調子合わせに過ぎなかったのか、一閃毎に加速していく魔剣の煌めきは男の周囲に拡大し、一撃、また一撃と掠める数が増していく。
「があっ!い……痛い…………くっ!……ひぃっ!」
受け損ねた剣が右手の小指を跳ね、左の肩を切り裂く。耳を削がれ膝を割られて姿勢を崩しながらも何とか急所を避けて逸らしたが、
次第に無慈悲な切っ先は男の戦意を削ぎ殺し、悲鳴の数と剃らし切れぬ傷の数が増していく。
何事か命乞いでもしようと呼吸をした男の眼は、相手の肩越しに走り寄る小娘の姿を認めたが、
「はぁ……はぁ……キツいって……坂道だぞ?……全く……おいそこの禿げ頭!」
そいつは何故かそう罵声を浴びせながら近付き、そして、
「今……何を言うつもりかは知らないけど、命乞いするにしてもよ……、」
……と、そこで言葉を切り、
「……村で殺した連中が、お前と同じように言ったとしても、それでもその願いを聞き入れたのか?」
「……ッ!?」
言葉に詰まった男の態度を見下しながら、
「……私を前にして、村の若い娘に指一本触れなかった、とそう誓えるか?」
その問いを聞いた瞬間、男は下卑た笑みを浮かべながら、
「……最初は何だかんだ言ってはいたが、女なんて股ぐら」
言葉の途中で不意打ちで突き込まれた切っ先は、狙い誤らず男の下腹部の下へと到達し、そのまま斜め上へと切り上げられる。
「……下衆の分際で、虜囚の婦女子を手込めにしたなら報いは当然だろう?」
男は子種と太股の動脈、そして腰骨を削られながらも倒れることを拒み、必死の形相で二人を睨み付けながら、
「……はぁ、……はぁ、……はぁ、くっ、……ふ、ふざけるなッ!……ち、力を手にした……奴なら……っ、か、必ず、俺と……お、同じように……」
「愚か者め……力を手にした若造は、この娘を第一に救い出さんと我が身を省みずに死地へと飛び込んだぞ?結局貴様はその程度の業腹に過ぎん……」
蔑むように男を睨みながらそう告げ、魔剣の切っ先を喉元に突き立てる。
動きを見失った男は一瞬、何もなかったかのように立ち尽くしていたが、直ぐに前へと倒れ込む。
……ぼご、ごぼ、と血の泡を喉に新しく開いた穴から噴き出しながら、やがて男は身体を痙攣させながら身動き一つしなくなる。
「……塵は塵に還り、やがて新しい命の苗床になる……さ。コイツは棄て置こう。……山が身の使い途を決めてくれるさ」
そう言いながらデフネは魔剣を死体から剥ぎ取ると、動かなくなった魔剣使いを山道の稜線から乱暴に蹴落とす。
死体は跳ね飛びながら麓を目指して転がり、途中の樹木の根元で止まる。
それを見届けた二人は、村へと続く道を無言のまま戻っていった。
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村へと戻った二人を待っていたのは、夜の大騒ぎの間に固唾を飲んで成り行きを見守っていた村人達だった。
塩男達が居なくなったことを確認すると、彼等がまず最初に行ったのは、解放してくれたデフネ達を歓待するではなく、村の入り口に吊るされた犠牲者を降ろすことだった。
口々に遅くなって済まなかった、と詫びながら男の亡骸を横たわらせ、静かに埋葬の手筈を整え始める彼等にデフネは、
「……自由貿易ギルドから派遣されてきた、ハイン・デ・デフネです。この男性は……」
初老の男性が葬列から外れ、丁寧に会釈をし、
「私はこの者の父親でございます。……倅のレリクスは、街にあるそちらのギルドに村の異変を報せに出向いたのですが、止せばよいのに村が心配で戻った所を……そして、村人達への見せしめとして……」
そこまで語った父親の眼から一筋の涙が零れたが、直ぐにデフネを気遣うように笑みを浮かべながら、
「……ですが、貴女のような美しくて若々しい方が我が村を救ってくださったなんて!!……まったく、こいつと来たらいつも機会を逃してばかり!!とっとと起きてあんたにプロポーズでもしてほしいもんだ!!」
と言いながら、デフネの肩を優しく叩き、
「まぁ、冗談はさておき、今暫くの間、村は片付けに追われるでしょうからお二方を歓待する準備も整いません故……」
と、困り顔で切り出したものだから、
「いやいや!私達は明日の朝には帰ります!!あくまで仕事でお邪魔しただけなんですから!!なぁ、ロイ!」
と言いながら慌ててロイの方を見たが、
「……あれ?ロイ、どうした?……なぁ、おいってば!!」
そこにはその場に横たわり、ピクリとも動かないロイが倒れていた。
慌てて駆け寄り顔を近付けて、周囲に気付かれないようにクンクンと鼻を効かせて匂いを確かめてみる。
懸念した血の匂いは無い……もし、気付かずに怪我でもしていたなら、敏感な嗅覚で即座に判る。どうやら外傷の類いではなさそうだ。
……なら、一体……?
……ぐぅ…………ぐぅ…………
規則正しい寝息を立てながら、ロイはその場で居眠りをしていた。
ロイが無事と知ったデフネだったが、心配した手前、なんだかやたらに気恥ずかしくなってきて、
「……し、信じらんない!人様がこんなに心配してたのに……っ!?」
プルプル震えながら拳を握り締めていたデフネの目の前で、唐突にグイッ、と上体を起こしつつロイは目覚め、
「……あれ?ここは……村の中?って、言うことは……デフネ、あいつは?」
キョロキョロと周りを見始めたロイだったが目当ての魔剣使いは見当たらず、
「……なんだ、またいつもみたいにデフネが倒したの?だったらもう安心安心……ん?なんだよ、義姉さん……?」
暢気にデフネに尋ねかけた直後、彼女は無表情のまま、ロイの襟首を掴むとそのままグイッ、と眼前まで引き上げながら、
「……あんたねぇ……!私が……どれだけ……心配したと……思ってやがる!?ああぁ~っ!?ふざけてっと、このまま首を捻り切ってどつき廻すぞッ!?」
荒々しい口調で問い質すデフネだったが、ロイの方はあまり激しい言動とは思っていないようで、
「ん?あぁ……何か村に着いた瞬間にホッとしたみたいでさ……気が抜けたら途端に力が抜けて眠くなったんだよ……変だろ?」
等と穏やかな表情でそう告げながら、
「あ~、眠たいなぁ……義姉さん、早く寝ようよ!明日は早く帰って報告しなきゃならないんでしょ?」
と、デフネにも休むよう諭してくる。
「……そ、それはそうなんだけど……でも……、」
「そうですよ!私共も自分のことばかり優先してしまって申し訳ありませんでした!では、直ぐにでも支度を致します!」
そう言うと、レリクスの父親は直ぐに手近な建物に入っていき、交渉によりそこの一間を借りて二人の宿にしてくれたようだ。
「一先ずお二方に足洗い用の湯を運ばせます。それで今夜は我慢なさってくださりませぬか?」
そこまでされては断るのも野暮と言うものだ。
ここは大人しく従うとしよう。そう決めてしまうとドッと疲れが出てきて、案内されるままに着いていった。
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「……ひ、うぅ……だ、ダメ……そこはコリコリしちゃ……よ、弱いから……」
「…………」
二人が泊まることになった一室、
……雫の滴る音と共に、デフネの抑えきれぬ嬌声が発せられる。
「……バカ……、だから……そこの窪みは……んぅ!?……あ、あぁ……」
「…………ねぇ、」
「……ッヒャヒャヒャハハハハハッ!!あ~ダメダメやっぱくすぐったいくすぐったいぃ~ッ!!ひぃ~!!」
「あのさ~、疲れたから足の裏を洗ってくれって頼んできたのは義姉さんなんだからね?」
……椅子に腰掛けたまま器用に笑い転げるデフネと、その前で困りきった表情のロイ。
白くてスラリとした脚を投げ出してきて、「疲れた!ロイ!足洗って!」と色気の欠片も見せずに頼み込んできたデフネ。仕方なく実行するロイだったが、端から見たら誠に恥ずかしい光景だったろう。
「あ~、悪い悪い。だって疲れてる時って、こんなに感覚変わると思わなかったからさ~!」
部屋着同然のキュロットを穿いた自らの脚をパンパン叩きながら、まいったまいった!とこぼすデフネ。
「でもさ、みんなからありがとうありがとうって、言われるの……悪くないよね……!?」
いつもは裏方だったロイが、表立って感謝されたのは初めての経験だったらしく、やや興奮した口調でそう告げる。
「んふふ……♪そうでしょ?……私もさ~、毎回じゃないけどさ……面と向かって言われたら悪い気はしないものよ!」
デフネも嬉しそうに笑いながら、……さて!今日の最優秀と言ったら……!と、ロイに目配せしながら、
「さ!あんたの【ブラック・サバス】を返してよ?……ねぇ……ロイ?どうしたの?」
デフネが差し出した手に一瞥もくれず、下を向いたまま固まるロイ。
「……あのさ、あの時、最後の対決?っていうのかな?あれから……ずーっと、手元にないんだよ……あの魔剣……ッ!?」
近付いてきたデフネに殴られると思ったロイだったが、
「……いいさ、あんたが無事だったんだから……さ。魔剣はきっと、またいつか気が向いたらひょっこり戻ってくるやもしれないさ!」
そう言うと、デフネは宛がわれた自分の寝台に寝転び、ゴロンと反対側へと寝返りながら、
「ロイ……今日は、何度も救ってくれて、ありがとね……」
それだけ言うと、直ぐに寝息を立て始める。
「……救ったのは、デフネだったからだよ……」
ロイもそれだけ、デフネの背中に言うと、自分の寝台に潜り込み、伸びをしてから寝入ったのだった。
それ以来、デフネはロイを顎で使うようなことは一切せず、ロイもデフネのことを【義姉さん】と呼ぶことは無くなった。
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「あひゃひゃひゃひゃ~ッ!!ほら飲めッ!!」
「も~、デフネさぁ~ん!絡み酒禁止っ!!」
困惑しきりのインキュバスのバーテンダーに同情しつつ、ロイは今しがた二人で思い出し合っていた昔話を振り返りつつ、
(……しかし、あの頃のデフネは本当に綺麗だったなぁ……今と何が違ってたんだろーか?)
「ヒャヒャヒャヒャヒャヒャッ!!じゃ、のまないなら脱げ!ほらほら早くしろぉ~ッ!!?」
「ロイさぁ~ん!助けてぇ~ッ!!」
「……そうか、昔は他人に恥事をさせるとしたら自分も付き合ったけど、今は自分からは脱がないし、それでいて強制はする、なぁ……」
今夜は長くなりそうだ……と思いながら、酒を煽るロイだった。
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と、言うわけで御一読有り難う御座いました。次回は久々に幕間。目標数突破は既にしていたのですが……そんな訳で次回もお楽しみに!