「花嫁修業娘」其の弐
暑いですね……更新いたします。
「……な、なんでプリム様が!?」
まだ混乱していたのか、要領を得ないリーゼさん。聞けば、どうやら私は密かに逃げ出して助けを呼びに行ってることになっていた……らしい。リーゼさんの中では。
……ゴメンなさい、私は貴女も、他の人もほったらかしにして逃げたり出来ない性格だし……。
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リーゼさんの他にはやはり、あの二組が捕まっていた。一人はローレンヌ嬢、もう一人はアレッタ嬢。二人とも私と同じように登城途中で……あれ?
も、もしかして、私達は最初から狙われて誘拐されたのかしら?
二人に尋ねると、王様からの登城に応じて向かっていた途中らしい……あ、これ確定だね。はあああああぁ……。
とすると、この誘拐劇は城内の時事に詳しい者の犯行ってところじゃないかしら……?
《プリム、相手についてもう少し情報を集めるべきであろう?》
【プリム、二人の女性から詳しく話をきいておくべきであるぞ?】
帯剣しているソドムとゴモラから言われなくても、もう少し話を聞き出しておきましょうか……。
「……あの、私よく判らないんですが、お二方は何か心当り御座いますか……?」
名前をいきなり尋ねたりはせず、緊張を解そうとするかのように
気さくな体で聞いてみると……、
ローレンヌ「心当り……で、御座いますか……?……私は全く身に覚えも御座いません……」
アレッタ「私も……当家は然程豊かとは言えませぬし、拐かされて身代金をねだられたとしても……それに、私は七女で御座いますし……」
あ、れ……?おかしいなぁ?ここはどちらかが「実はお金持ち」か、「実は古代帝国の末裔」だったりして、うわぁ~そりゃ大変だぁ、ってなるはずなのに……?これじゃ全くの人違いじゃないの……。
「ね、プリム様……何と言うか、ここは逸早く逃げるってことにして……」
リーゼさんの言う通りにしようと立ち上がりかけたその時、馬車の扉が外から開けられ一人の背の低い男が入ってくる。
「……この中に、プリム・エルメラルダと言う者が居る筈だ。名乗り出よ」
……はいぃ!?わ、私なの!!?
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「…………まぁ、無理なことだろう。この状況で名乗り出られる」「判りました!私がプリムですよ!あーもう!!」
イライラとしながら自分と余り変わらない背丈の男に向かい、両腕を挙げながら諦め顔で名乗り出る。
「……でも、私なんて何の為に必要としているの?ただの……町娘みたいなもんだし、高貴な出でもないのよ?」
エルメラルダ家、と言われてどのような血脈の家柄か、即答出来る者は限られている。そもそも家系上の最後の一人がプリムなのである。
その源流は、竜と戦った魔剣士から続いていると言い伝えられ、様々な逸話を残してきたのだが……それを知る者は限られているのだ。ちなみにハイン翁すら知らなかった。
それは何故か?……それはその魔剣士の血脈が「女性にのみ」受け継がれてきた、という特殊性にあったからだ。【魔女の血脈】と揶揄すらされてきた時代もあったという。
「知りたいか?そなたを何故探しているのか……?」
背の低い男の眼に妖しい光が灯る。まさか……私をどうにかするつもり?
一瞬だけ感じた身の危機は、続く男の言葉が見事に打ち消した。
「それはな?エルメラルダ家が代々女のみに受け継がれてきた濃い魔剣士の家系でありその魔力は亜人種に匹敵すると恐れられてきたのだ何故か男には受け継がれずひたすらに女性のみに受け継がれてきたのだそれが何故かは研究の短さもあり未だに解明はされてはおらぬいずれ解き明かされる時が来るやも知れぬ私が考察するに昔から女系の家柄は濃い血筋を残す例も多い戰女の伝説すら唱える輩もいるが流石に同意は致しかねるなちなみに私はエルメラルダ家ではなく魔剣士の研究では右に出る者は居ないと自負しておって」「……はぁ」「なんだ?そのつまらぬ者を見るような眼差しは!全くこれだから最近の若い者は真実を探究する真意を理解できる崇高さを持たぬ者が多くて困るのだ寄りによって探し続けたエルメラルダ家が戦禍により絶えたとの噂を聞いた時は我が道は尽き果てたかと落胆したが」
「……ラム卿、その辺にしてやれ……意識が途切れ掛けてるぞ?」
馬車の乗り口から新たにやって来た男が、その長い長い独白に終止符を打たなかったら、プリムを始め居合わせた女性たちは貧血でも起こして倒れていたかもしれない。
「……名乗らぬ無礼を弁えぬ輩ではない。俺はゴードン、ムルハグの【元】第四位継承者……だ」
後から現れたその人物は、中年をやや下回る位の年廻りに見えるが、どこか年齢を感じさせぬ不思議な感じを与えていた。
「まぁ、そなたからは今回の《首謀者》と見られても仕方がない、と言えるだろうが、な……」
悪びれる風もなく、ゴードンと名乗った男は正体を明かしてから、プリムに向かって丁寧に会釈をしつつ、
「重ね重ねの無礼を承知で申し訳ないが、暫しの間、その身を預けて頂けぬかな?」
慇懃な物言いながら、有無を言わせぬ口調であることを意識したプリムは、不承不承ながら承諾することにした。
「……ただ一つ、約束して頂きたいのですが、こちらのお二方にはお帰りになっていただきたいのです。宜しいですか?」
「……ふむ、確かに……それもそうですね。では、ローレンヌ嬢とアレッタ嬢には、ご退場していただきますか……では、御無礼を御許しください」
恭しく頭を垂れて見送られる二組の女性達。馬車から降車した後ろ姿を見送ると走り出した馬車であったが、
《プリム、今先程別れた二組だが……》
(いいわ……判っているから、なんとなく……)
【……口封じであろうな……】
相手の都合を考えぬ輩ならそうするだろう。身の安全の為ならば。
プリムは傍らで不安げに座るリーゼの手を右手で握り締めながら、その暖かさを離さぬように優しく、しっかりと包むように左手を添えた。
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登城途中で姿を消した二令嬢の噂は瞬く間に広がり、同時に行方不明となったプリムとリーゼの捜索も始められた……の、だが。
……問題は、その担当者が余りにも意外な人物であった為、周囲からは「木乃伊取りが死霊王になる、だ」「いやいや捜索する為に新たな行方不明と死者が増えるぞ」との心配の声があがる。
「……失礼な。私はそこまで酷いことにするつもりはありませんよ……全く」
それでは次回「花嫁修業娘」其の参をお楽しみに。