「ロイと二人の弟子」其の壱
新章!三~五話程度の中篇が続く形式になりますが宜しくお願い致します!
あれから色々と有りました。
まず、弟が産まれました。人間です。名前は【エルベ】と名付けられました。私と違って出産まで十ヶ月掛かりましたが、すくすくと、普通に育ってます。……何だか不思議です。
父さんが自らの肩書きを改めました。
ハッキリと「正ムルハグ国所属・認定魔剣研ぎ師のロイ」と名乗るようになりました。様々な件で自分が周囲に与える影響が無視できない状況だと理解したようです。至極当然妥当だと思いますよ?
キュティが養子縁組しました。
説明するのが面倒だ、と言い続けて最終的に、父さんと母さんはキュティを養子として迎えることにしました。結果、私のお姉ちゃんになりました。……体型で決めたらしいです。凄く頭に来ました。
私は……「正ムルハグ国所属・認定魔剣研ぎ師見習い」になりました。
……別に何をする訳でも有りませんが、「無気力で怠惰な毎日を過ごさせるつもりは全くない」と言われて強引に見習い扱いにさせられました。そんな訳で父さんのカバン持ちが仕事の大半です。キュティも同僚です。
そんな訳で一年があーっと言う間に過ぎました!わたくしカレラ・デ・ロイは絶賛修業中!成長中!たぶん!
(キュティです。カレラは身体的な成長は微々たるものながら見受けられます。私はその気になれば巨乳族に成れますが、現在の立ち位置に満足しているので改変はしません)
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「退屈だなぁ~。カレラー、下から何か食べ物持ってきてよー?」
「やだよ~。キュティが何か持ってきてよー?」
私らは父さんが家に居る時はもっぱらこんな感じ。
出掛ける時は平和な場所なら三人だけで、多少の用心が必要な場所にならディンゴやアマンダさんやその他の専門家を連れていきます。
とは言っても、アマンダさんは大抵アッチの仕事で居ません。ディンゴも時々居なくなります。
……あーあ、退屈だなぁ。何か面白いことないかなぁ~?
「あぶぅ~、かぇりゃ!あばぶぶ~!!」
あ、エルベが来た!つたい歩きしながらやって来る、恐怖のヨダレ魔神め……
「ほらほら二人とも!家に居るとき位はお手伝いして!キュティもよ!」
エルベがやって来れば当然、母さんもセットでやって来るさ。
「は~い、キュティ、居間の燭台監視任務は中止!晩御飯の分は働かないとね~!!」
「ふは~い、私は洗濯物を取り込んで来るから、カレラは洗濯物を取り込んで来て!」
「……同じ場所に行かないの!効率悪いわよ!」
はぁ~い……。
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暫くの間、退屈で平凡な日々が続く。
平和で、のどかな日々……でもね、きっと父さんが我慢出来ないわ。
「……カレラ!キュティ!荷物をまとめて準備しろ!」
居間で円卓の監視任務に就いていた私達に、緊急召集が掛かる!!
「はいよ!準備万端でっす!」
「キュティも替えの下着持ちました!」
「……準備がいいのか悪いのか、ちっとも判らんが出発だぞ!」
父さんが先頭に立ち、母さんは呆れながらもエルベを抱きながら、
「仕事熱心なのは判りますが、たまにはゆっくりなされば宜しくて?」
「すまんなシュリ、武器屋の旦那が変わった魔剣を見つけたらしい。是非見に行きたいんだ……な?」
「……もぅ……、エルベがロイの顔を忘れちゃいますよ?…………ん、んむぅ……♪」
あー、はいはい、ラブラブでよござんしたね!
「……父さん!先に外で待ってるよ!」
暫くしたらドカン!と扉が開いて父さんがばんばん先に歩く。……ってか私達を置いてくとか意味判んない!
一度言い出したら止まらない、パパは研がなきゃ意味がない。
退屈を全て放り投げられたから、内心小躍りしつつキュティと二人で荷物を持ち、エルベを抱いた母さんに見送られて、私達は歩き出す。
最近思うけど、父さんは我慢の繰り返しみたいだ。出掛けたくてウズウズして、帰りたくてウズウズして、母さんとアレでウズウズして……。
でもそれは私達も同じ。たぶん三日間の往復日程だけど、旅行く道すがら、何があるのか楽しみだなぁ~!
さて、今日はどんな道のりで進むのかな?キュティと一緒に父さんを追っ掛けながら……どうやら父さん、今日は街道に出て乗り合い馬車を掴まえるみたい……だな。
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……がらがらがら……馬車は進みます。今日の馭者はロッテさん。珍しい女の馭者さんだ。
「皆さん!次の中継点はエンリギ、ここまでの料金は一人銅貨十五枚よ!」
十人程の乗客から三人が手を挙げて料金を払い、馬車を降りていく。
「ねぇ父さん、あの人、この馬車の用心棒だよね?」
馬車の出入り口がある一番後ろに陣取り、こちらに全く注意しているようには見えないが
…………おや?
「ん?父さん、どしたの?」
…………魔剣?
「……あ、判った!あの人、魔剣でしょ?違う?」
流石は我が娘、目の向け所が
「……あ、判った!あの人、好みでしょ?違う?」
キュティ、流石は我が娘(養子だけど)、目の向け所が似てる……悲しいが。
そう、見た目だけでは判らないが、魔剣で……しかも、かなりの手練れで……見目麗しき容姿、って奴だ。
そんな魔剣の用心棒さん、俺の視線に気付いたのか無言は貫いているけれど、明らかにこちらに対して注意を向け始めたようだ……ジロジロ見すぎたか?
「あの!魔剣さんは好きな研ぎ師は居ますか?肉と魚はどっちが好き!?」
バカキュティがいきなり立ち上がり、用心棒さんに向かって近付いて隣にちょこんと座り、ややストレートからの変化球……な質問。
「…………すまんが、質問とか……お?」
頭からフードを被っていたその魔剣は、こちらを見ると俺の顔をじーっと眺めてから、不意に立ち上がるとつかつかと近寄って来て、
「ロイかッ!?ロイだなッ!!」
言うが早いかガバッ、としがみつき抱き付いてくる……、しばらく突然の幸運な瞬間を味わってしまったが、カレラとキュティの視線を感じて思わず身動ぎした時、彼女も動きに付き従って身を離した後、
「…………もしかして、忘れてしまったのか……?私の……ことを……」
……修羅場の予感か?修羅場なのか!?
我が娘達、俺は……浮気はしてないぞ!……たぶん。
不意に彼女は頭に着けていた大きな髪留め(カチューシャって言うのか?)に手を掛けるとスッ、と取り外し……、
……ぴょこん。
全体は茶色、先端は焦げ茶色の獣の耳が飛び出した。
バッタリ出会った彼女は魔剣【獣の剣】のカノン。さて、ロイは彼女をまた研ぐのか?次回「ロイと二人の弟子」其の弐をお楽しみに!