「風切りのレン」その1
やっと着いた飲み屋、座って注文したら隣は女二人。で、始まり。
あんた、半信半疑だな。
そりゃ、そうだな。俺みたいな薄汚れた、むさいおっさんがウダウダ言ってるって思えば、誰だってな。
だがな、俺の目ん玉よーく見てみなよ。
そう、ビビっただろ?緑の瞳の真ん中に六芒星だ。一回見りゃ忘れないな。
コイツがあれば、俺の人生はいつだって……ま、そりゃいいか。
さて、取り敢えず、
あんたの得物、早速見せてみろよ?
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「あーもームカつく!あたまっくる!ぜーったい!ぶっつぶす!!!」
「もう判ったから……でも、なんでだったんだろ……」
よくある光景ちゃ、そうだな。
一人が怒り狂い、一人が取り成す。
片脇は所謂、壁役の職業だろう。頑強な鎧と、バランスの取れた穂先の優美な武器。
あー、何て言ったか、ポールアックス、いや、何だか……、
でもあれは、いやあれじゃあ、ねぇ……
「……あんた、ねぇあんただよ!さっきから何ジロジロ見てんだよ!」
あ、目と目が合ったら始まるのが喧嘩か?いやそんな出会いはお断りだが。
「やめなって!もー、ジルチ、あんた変だよ!ずーっとイライラして……」
取り成す彼女は補佐役か、控え目なのに自己主張はハッキリ……と。
「あー、悪かった。だけど俺は美人は好きだが、見てたのはアンタの武器。」
ま、リップサービスは大切に、と。
「び、美人は……ま、そうね……って武器?」
「そー、そっちの武器って、ハルバードってんか?確か。」
言われてジルチ、と呼ばれる彼女は、脇に立て掛けたそれを手に取る。
「コイツは確かにハルバード、だけどね……ホントは、もっと凄いんだよ。」
愛おしげにそっと掴み、布を掛けた穂先はそのままに。
「それはいいけど、あなた、何でジルチのコレがそんなに気になったの?」
補佐役の娘が問い掛ける。ま、それも道理だ。
「俺はそのハルバード、いや……【風切りのレン】の声が聞こえたから……」
「……ッ!!」
俺がそう言うと、ジルチはこちらから目を離さずに、穂先の布を取り払う。
「あんた……返答次第によっちゃ、首が飛ぶよ……?」
「ジルチ……!」
「ジーニアス!あんたは座ってな!!」
おー、怖い怖い……。あ、そっちはジーニアスってんだ。
「【風切りのレン】の名前、知ってるのはあたしとジーニアス、あと母さんと……あのクズだけなんだぜ?どう見ても……母さんとジーニアスの二人と知り合いには見えない。……とすれば……、」
「すまん。君ら誰とも知り合っていない。つーか、知らない。」
「……あ?」
正直に言えばこうなるのは判り切ってる。だが、言わなきゃもっと面倒なことになるがな。
「もっと言えば、判るんだよ俺。……聞こえるからな、レンの声が。」
ギョッ、として、二人が揃って俺と、レンを見る。
「「はぁーーーあ!?」」
あはは、面白いなぁ、みんなこーなるから。
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簡略な説明。
ジルチ、レン振るレン振るジルチ、レン切れなくて焦る。
今まで何でも切れたレン、ジルチ切れなくて何にも出来ない。
ジーニアス驚く。仕事無くなるジーニアス困る。
そんなのが三日前から。
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「……信じられないけど、信じるしかない……か。」
ジルチは手にした【風切りのレン】を弄びながら。
ジーニアスは手にした書物を捲りながら。
「あぁ、絶賛信じていいキャンペーンだ。安くしとくぜ?」
俺は胸を張ってそう言い切る。
「あんたの【風切りのレン】は、お肌の曲がり角……だ。」
(やっぱ、信じらんない……絶対、信じらんない)
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研げば判るんだよ、研げば。