大賢者二羽
・・・・・・・大賢者が居た。
小さな健一と、生まれたばかりの花音を送ったばかりであるらしい
父は、それでもほんの少し眉根を寄せただけで
驚いた様子もなくこちらを振り向いた。
懐かしくなかったわけでは無い。
けれど、父に逃げられないようにその気持ちを隠した。
「オヤジ」
呼びかけた瞬間口元を微妙に『ム』の形にして
去ろうとした父に、健一は失敗を悟り慌てて引き止める言葉を
ひねり出した。
「愛・・・いや・・・
ね・・・姉ちゃんの赤ん坊を助けて欲しい。」
ひとまずは、健一が取った宿屋について来てくれた大賢者だったが、
健一が大人になったことにより
二人並ぶと、ますますそっくりの顔の初代大賢者は、
いきなり『魔王』を、しかも一番トップの
『深紅の魔王』を召喚しようとした。
そのとんでもなさに健一は、
思わず初代大賢者から、大きく身を引く。
「な・・・何してるんだよ!!」
初代大賢者は、どの辺が気に入らないのかそれとも
全てが気に入らないのか無表情に不機嫌だった。
出てこなくてよかった・・・
命の危機が回避された・・
そう思いながら、何か一言を言って行動に移して欲しい
と、健一は、切に願った。
次に、初代大賢者は、ためらいなく宿屋のベッドに寝かされた
愛恵の頭から胸から、体中をペタペタ触った後、
再び頭に戻り手を置くと目を閉じた。
(診察・・診察・・・)
健一は、そう唱えながら止めたくなった自分の体を抑えていたが、
口ずさむ音を聞いて、
初代大賢者が『夢渡り』をしているのが分かり、
健一は、静かに何かが起きるのを待った。
ジリジリとした長い時間の後、ようやく目を開けた初代大賢者が、
言葉を発すかと、健一は、息を詰めて初代大賢者の顔を伺った。
「・・・・・・・?」
「・・・・・・・・。」
無言のまま初代大賢者は、健一の顔を見ることもなく身を翻した。
「ちょっと待て!」
そのまま再び姿を消しそうになっているのだと察して、
長いマントの端を踏んづけて健一は、初代大賢者を止めた。
幼い時は、本当に何を考えているか分からない父<初代大賢者>
だったが、今では、分からないなりに何となく読み取れるものがあった。
全ては自分も成長して、小学校の先生などをしていた成果かもしれない。
「愛恵は、・・・・姉ちゃん赤ちゃんの魔障を受けた
この子は、俺に預けられた
姉ちゃんの赤ちゃんの魔族としての力の鍵を持っている
だけじゃないんだ!!」
なんとしてでもこの場に引きとめて力を貸してもらおうと、
健一は、簡潔に興味をひきそうな言葉を初代大賢者に投げかけていく。
「・・・・姉ちゃんの赤ん坊の魔障を受けて、魔鳥を生んだ。」
初代大賢者の動きが止まった。
「・・・・その前に、姉ちゃんの赤ん坊、あんた性別確かめた?
慌ててたもんな・・・性別、両性だったぜ・・・」
初代大賢者の旋毛のあたりがピクッとした。
どうやら、少し興味を感じたようだ。
「この子のこと、姉ちゃんの赤ん坊が好きになっちゃってさ、
両性の恋愛対象ってどうなのかな~?
この子が魔障を受けたときに、黒い羽に包まれるようにして守られた。
そうそう・・・
魔族と人の混じった者の成長速度ってどういうのかな~?
ああ、姉ちゃんの赤ん坊は、あっちの世界で成長は、少し遅いものの
ほぼ人の子と同じ速度で成長してたなぁ。」
一歩前に出ていた初代大賢者の左足が、
右足の元に戻った。
「魔力の目覚め・・・に関しては、
姉ちゃんの赤ん坊は、あっちの世界で魔力に目覚めなかったけど、
こちらに来て目覚めた。」
無言で見ている
初代大賢者の耳に届くように少し声を大きくして健一は続けた。
「姉ちゃんの赤ん坊の性質は、
魔族のものよりほとんど人の子の性質を持った。
その魔障で、人の身のこの子から
生まれた魔鳥は、卵状の黒い羽の塊のようなものから生まれた・・・」
口元がほんの少しだけ動いた(ような気がした)。
知的好奇心が何より強い初代大賢者が、興味を引くように続けてゆく。
「そして・・・・・」
健一は、大きく息を吸い込んで言った。
「姉ちゃんの赤ん坊は・・・『花音』は、
姉ちゃんにソックリに・・・・・
つまり、母ちゃんにそっくりの姿に成長した。」
初代大賢者は、どいう経緯なのか
何故か母との間に、姉と健一をもうけたのだ。