全ての始まり二羽
健一と愛恵の可愛い小鳥の『フフ・ヤガーン(紫)』が居なくなった。
「フフ・・・フー坊~」
小さな声で呼んでみるがピ・・・とも、ピピ・・・とも返事が無い。
普通の鳥では無い、と言うか魔の鳥であるフフ・ヤガーンなので、
暗闇の中鳥目で迷子になっている訳では無いとは思うけれど
まだまだ小さなチビ雛だから健一は、心配になる。
(やっぱり紫の目で、『フフ・ヤガーン(紫)』って名付けは
単純だったから怒ったのか?)
黒猫に『クロ』って付けるようなもんだもんな、
フフ・ヤガーンが、ちょうど自分の名前が『紫』と言う意味だと知って
最近拗ねたところだったので、まさか魔鳥である
自分の存在を健一と愛恵の重荷に感じたとは、健一は気づいて居なかった。
「居たか?」
松明の光に潜んでいる草むらを照らされそうになって
背中に背負っている愛恵フードを引っ張ってから
自分の首も引っ込めた。
「いや・・・・こちらには居なかった・・・
汚らわしい魔族め・・・・どこに隠れたのか」
忌々しげな男の声に健一は、動きを停止させて
じっと立ち去るのを待つ。
目くらましの術を掛けているから大丈夫だとは思うものの、
術というものは万能な訳では無い。
緊張で体の筋肉がピキピキとなってくるが、
健一は耐えた。
汗が、首筋から脇の下に流れ落ちる頃、男達は、去っていった。
(また、引越しだな・・・フフ、場所が分かるかな?
まったく、年を取らないからとか、鳥が、賢すぎり、異様な雰囲気を
出してたからって、心が狭いよな~)
2代目大賢者である健一は、軽く考えていた。
草原の国、モルドル。
部族達の争いに幾度と無く草原は、血と馬のひずめに蹂躙されていた。
西の大部族イェニセイ
東の大部族オタル
北に勢力を持つハンガイ部族
先だってこの3部族を中心に国全体を巻き込むような
大戦乱が起こった。
それは、実は、一人の上級魔族と
それに付き従うもう一人の魔族によって引き起こされたものだったという・・。
この世界は、まだそれが起こる10年前の世界・・・・。
フフ・ヤガーンの丸い頬っぺたから大粒の涙が零れ落ちる。
「哀しい?哀しいのぉ?本当に楽しいね君って・・・・・
ザラドは、本当に面白い玩具をくれたよ。」
深紅の髪と黄金の瞳をした
9、10歳の外見をした美しい少年は、コロコロと笑うと、
フフ・ヤガーンの泣き顔を覗き込んだ。
少年は、フフ・ヤガーンの耳元にそっと唇を寄せると小さく囁く。
「ねえ・・何して遊ぼうか?僕の玩具の『紫の赤ちゃん』
どこかの村でも滅ぼそうか?それとも国と国を戦わせようか?
それともさぁ・・・君の大切なまあま<愛恵>を道連れにさ・・・
君・・・・死ぬ?」
少年の姿をした『深紅の魔王』は
人と魔の血と力が生み出したフフ・ヤガーンで
遊びつくす事に決めたようだった。