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王子様は一級死亡フラグ建築士 ~城からパクってきた銀のスプーンが黒く変色した件~  作者: 藤原ゴンザレス
鳥籠の中の二人

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混沌から生まれ出た生き物

 まだ薄暗い早朝、俺は中庭に騎士学科の学生を集めた。


「エドワード・リンチ、キャロライン・リンチの両名が逃亡した。リンチ兄妹には高確率で殺し屋が差し向けられている。これは実戦だ」


 俺は言い切った。

 リンチ兄妹にとっては逃亡のチャンスだ。

 だが法院にとってもリンチ兄妹を抹殺し事件を闇に葬る最後のチャンスなのだ。

 法院の立場なら俺でもリンチ兄妹を殺すだろう。

 学生たちがざわついた。


「実戦と仰いましたが、我々の任務はリンチ兄妹を捕縛することですか?」


 当たり前の質問だ。

 彼らは将来の上級士官だ。

 ミッションの目的を知る権利のある身分だ。

 それに同級生だ。

 どうしたって気になるだろう。

 だから俺は断言した。


「リンチ兄妹を助けるんだよ!」


 騎士学科の連中はにやあッと笑うとヘルメット被った。


「陛下といると退屈しません」


 ダズが言った。

 どういう意味だ?


「悪いな。俺のわがままで迷惑かける」


 俺はとりあえず謝った。

 先に謝る。

 これがゲスい人間関係の作り方のコツだ。


「いいやアンタ最高だぜ!」


 ダズが俺の背中を叩いた。

 おっとほめられちった。


「陛下、リンチ兄妹は本当に兄妹ですか?」


「いいや違う……ってお前ら気づいてたのか!」


 俺は驚きの声を上げた。

 なんでみんなリンチ兄妹が恋人だって知ってるの?


「まあ、なあ……ほら、見りゃわかるだろ……」


 あっれー?


「野暮なことは言わねえのがマナーだろ」


 なんで知ってるのー?


「あーあ、フィーナ様苦労するわ……」


 君たち、あとで語り合おうな。

 拳と拳で。

 好き放題言いやがって。

 俺だって気づいてたけど黙ってただけじゃねえか!

 なにその態度!


「訓練と同じだ。騎槍を持っていけ!」


「おう!!!」


 俺たちなんちゃって騎士団は士気がみなぎっていた。

 普段から何度も騎士団ごっこをした成果が出ている。

 そんな中、ダズは俺にこっそり耳打ちした。


「ところで……実戦になる可能性は?」


 そりゃ気になるだろうな。

 そのくらいは教えてやってもいいだろう。


「限りなく低い。なんせエドワードは手負いだ。まだ近くをウロウロしてるはず」


「ですよねー」


 ダズは笑った。

 やはり少し怖かったらしい。

 まあ、そんなもんだ。

 いくら騎士学科だからと言っても実戦なんてやりたくはない。

 騎士学科の連中は全員が競技ルール不適合者の俺の餌食になっている。

 お坊ちゃんの剣法にしては痛みと言うやつを経験してる。

 実戦の恐ろしさを疑似体験しているのだ。

 だからダズのこの言葉に俺は好意的だ。

 恐れを知ってさえいれば怪我をする可能性が低くなるからな。

 そんな決起集会をする俺たちに騎士が近づいてくる。

 第二軍の騎士だ。


「陛下。ご準備が整っております」


「わかりました。従騎士の用意は」


「整っております」


「ありがとう」


 従騎士ってのは騎士(おぼっちゃん)のお目付役だ。

 彼らは庶民出身の騎士だ。

 仕事内容は多岐にわたる。

 騎士の剣や鎧の管理をし、戦術の指南をし、ときには体を張って助ける。聖人のような人たちだ。

 俺だったら日頃から剣や鎧を陰で売り払って蓄財して、主人がピンチになったら迷わず置いて逃げるところだ。

 彼らはハッキリ言って騎士より有能だ。

 と、言っても経営者と係長に求められる才能が違うのと同じで、貴族はいなけりゃいないで困るのだ。

 今回は半人前の騎士のお守りとして特別ボーナスを支給した。

 『朝早くにごめんなさい』代だ。

 従騎士さん達は楽しくお仕事をやってくれるはずだ。

 これで安全は確保したのだ。

 もちろん俺にも従者はつく。

 マッチョな従騎士?

 違う違う。それは五年前の失敗からヤメだ。

 俺の近くに筋肉がいると自動的に俺が怪我をするシステムなのだ。


「お待たせしました」


 俺の従者はソフィアだ。

 女の子の騎士。

 趣味がいいだろ?

 それに父さんも陰から守ってくれている。

 ソフィアは自分の馬に乗ったついでにジュリエットを連れて来た。

 とは言ってもジュリエットは賢いので俺をちゃんと探してくれるのだ。

 俺はジュリエットに乗った。


「ソフィア! 狐狩りはなんて!」


 俺はソフィアに聞いた。

 狐狩りとは足跡や草の踏み跡などから逃亡者の逃走経路を予測する役人だ。


「足跡などから北に逃げたと思われるそうです」


「わかった! 南だ!」


「ちょっと陛下!」


 珍しくソフィアが怒鳴った。

 いきなり狐狩り役人の予想の真反対の命令を出すとは思ってなかっただろう。

 でもこれでいいのだ。

 ふふふ。そんな態度が取れるのは今だけだ。

 俺の名推理の前に屈服するがいい!


「俺の推理ではリンチの妹は俺と同類だ」


 まずリンチ兄妹はハイランダーの弟子だ。

 狐狩り役人のやり方にも詳しい。

 必ず妨害工作をしているはずだ。。

 リンチ妹はこれまで正体を隠していた。

 しかも人によって態度を変えるほど猫を被り慣れている。

 まさに俺そのものじゃないか!


「……混沌から生まれ出た生き物という意味ですか?」


 珍しくずいぶん踏み込むね。

 しかも間違ってないのがムカつく。


「まあその通りだ。俺たちの特徴はなんだ?」


「へそ曲がり」


 一言で過不足なく終わらせやがった。

 でも負けないもん。


「そうだ。つまり……」


「……人知を越えた混沌の力によって普通の方法では予測ができない?」


「そうだ。でも予想ができないわけじゃない。基本的には予想の真反対を選べばいい」


 でも一週回ってバカなので律儀に反対を選ぶはずだ。


「最悪の生き物ですね」


 俺の存在全否定!


「ま、まあそういうことだ。つまり狐狩りの意見をもらい俺に教えてくれれば、正しい進路を割り出せるはずだ」


「妙な説得力があったので従います」


 酷すぎる。


「南になにがある?」


「ヤンの街です」


 男女二人の逃避行なら街に潜伏した方が楽だろう。

 田舎なら新しい住民は注目されるが、一定上の街なら目立たない。

 首都の近辺なのが逆に徒になった!


「とりあえずヤンに行くぞ!」


 進路は決まった。

 れっつごー。


 俺たちは南に進路を取った。

 とは言っても怪我人を抱えての逃避行だ。

 確実にヤンの街で怪我を癒やすはずだ。

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