警備
その日のうちに騎士の卵たちによって警備が敷かれた。
ただしこういう自制心が足りないくせにやる気満々の連中に武器を与えると悲惨な結果になるのは歴史が証明している。
俺は恐怖政治を敷くつもりはない。
それに万が一大怪我をされたら俺が責任を取らねばならない。
骨折くらいまでは名誉の傷ですむんだけどね。
警備ロボットを買ったけど、その警備ロボットが盗まれたら大損害ってのと同じ心境だ。
だから俺は騎士の卵たちに呼び子の笛と刃引きの剣、それに刺股を与えた。
二人一組で巡回して、あやしい人物がいたら呼び子を鳴らして近くで巡回している別の班を呼ぶ。
確実に勝てる状態にしたら取り押さえるという作戦だ。
断言するが、犯人を捕まえる可能性は低いだろう。
だが騎士学科が巡回しているという安心感は犯人の逮捕以上の価値があるのだ。
安心というものは社会にとって財産なのだ。
騎士学科の学生にも「民を守る」という経験をさせることは成長を促しよい効果を与えるだろう。
自分たちが正義であるという自尊心は、たとえそれが虚構だとしても忠誠心や帰属意識を生み出すのだ。
それに命令に従うっていう経験を積んでおくのも重要だ。
騎士学科は大貴族のボンボンが多い。
わがまま放題で育ってる連中なのだ。
だから王様すらこの扱いよ。
今から規律や命令というものに慣れてもらうのだ。
最初は楽しく正義の味方ごっこから……
ってあの連中は小学生かー!!!
子どものスポーツ教室かーい!
俺はツッコミすぎてぜえぜえと息が切れる。
まあ、気を取り直して行こう。
俺はヘルメットを被る。
なんで俺がヘルメットを被っているのか?
それは俺も警備に参加するのだ。
言い出しっぺだからな。
「なぜ陛下がこんな地味な作業を……」
ソフィアが虚ろな目でブツブツ言っている。
ソフィアが文句を言うのは無理はない。
王様が学生と一緒になって警備というのは常識外れだからだ。
もちろん常識を持っている大人は反対した。
当たり前だ。安全を考えたら俺でも反対をする。
だけど俺に必要なのはガキを納得させることだ。
それにはトップも一緒になってイベントを楽しむことが必要なのだ。
「大丈夫だって。危なくなったらソフィアを置いて逃げるから」
「陛下。後で小一時間ほど組手につき合ってください」
殺される!
「じょ、冗談だって。不審者を見つけたらすぐに笛を鳴らすよ。あとは予定通り」
「くれぐれも不意打ちにはお気をつけください」
うんソフィアの闇討ちに気をつける。
「そうね。鎖かたびらにヘルメットとチョーカー着用さらに板金胸当て装備だし死にはしないかなあと」
「動き回るだけで訓練になる重量ですね」
全部で10数キロはあるだろう。
歩くだけで筋トレになる重量だ。
「まあね。武器は槍と同じ長さの刺股だし。警備だと思って舐めてかかったら筋肉痛で動けなくなるようにした。悪意で」
「第二軍の新兵へのしごきと同じですね」
「まあね。でも俺も同じ事をやるんだ。文句は言わせないけどな」
そう言いながら俺は手に持っていたカンテラの中を見る。
油はまだ余裕があった。
「ほいほい。油は大丈夫ですよー」
「ずいぶん夜間の作業に慣れてらっしゃいますね?」
「ソンナコトナイヨ」
「夜中にこそこそお出かけを楽しんでらっしゃったのではないですか?」
「チガウヨ」
男には一人になりたいときがあるのだよ。
まったく!
まだまだお子様だな!
「そうそう。ソフィアちゃん! お父さんに兵士を貸してくれてありがとうって伝えておいてくれるかな!」
俺は露骨に話を逸らした。
明日からはギュンターところの兵も警備をしてくれることになったのだ。
「はい陛下!」
ソフィアは目をキラキラさせた。
このお父さん大好きっ娘め。
ごまかすならギュンターの話題を振ればいいのだ。
ふふふチョロいぜ!
「でもお出かけの件は後でじっくり聞かせてもらいますから」
ダメだったー!!!
さて、雑談をしていると俺たちは男子寮の外についた。
俺たちの持ち場は男子寮の外の巡回だ。
王様だから寮の近くとかという配慮は一切ない。
クジで決まった正当な持ち場だ。
俺たちはカンテラで照らしながら慎重に進んでいく。
まずは寮の前の広場だ。
寮の前には人の気配はない。
いつもだったら夜でも一人二人は酒盛りをしているのだが今日は誰もいない。
外出禁止令が出ているからな。
人がいないというのはここまで静かなものなのか。
闇の中、遠くでフクロウの声が聞こえた。
次の瞬間、俺とソフィアは無言でお互いの顔を見て頷いた。
俺はカンテラの火を消す。
俺たちは足音を消して壁沿いに進む。
「声が聞こえましたね」
ソフィアがささやいた。
「ああ」
俺たちは男子寮の裏をうかがった。
カンテラの光が見えた。
誰かがいるが光源が明るくないためあまりよく見えない。
いや「誰かが」じゃない。
声の主は二人だ。
「どうして私を見てくれないの!」
「無理だ!」
二人は言い争っている。
声からすると男女だ。
痴話喧嘩だろうか。
「それでも私は!」
ぐはは! いいぞーもっと争えー!
リア充は消毒だー!!!
「ダメだ僕たちは!」
その時、ふっと炎が強くなった。
「兄さん!」
ふぇ? 兄さん!?
炎に浮かんだ女性の姿。
それはキャロライン・リンチだったのだ。
そしてもう一人の男。
それはエドワードだった。
キャロラインがエドワードに抱きつく。
「キャロル……」
そういってエドワードはキャロラインを抱きしめた。
俺は途端に口の中がカラカラになった。
え、エラいもん見ちゃったー!!!
と思った瞬間、ソフィアがスタスタと彼らの方に行こうとしていた。
俺は慌ててソフィアの手で口を塞ぎ壁の方へ連れていく。
「ふがふがふがー(なにをするんですか? 捕まえないと)」
「いいから黙ってろ。見なかったことにしろ。わかったな!」
俺は必死になってささやいた。
あああああああ!
頭痛い!
事件とは関係ないけど大問題だー!
いじめ自殺なんてものじゃねえ。
金で解決できないレベルのすっげースキャンダルだー!!!
近親相愛はこの世界には早すぎるんじゃー!
俺がいた2015年の日本でも肉親との恋愛はタブーなのだ。
この世界ではもっと厳しい。
死刑もありえるほどの大罪なのだ。
簡単に言うとヤってたら死刑。ヤッてなければ引き離されるだけだ。
もちろん俺も学園の責任者として責任を追求され、方々に頭を下げて回ることになるのだ。
行く先々で嫌味を言われて、ことあるごとに揚げ足を取られるのだ。
これは社会的死亡フラグだ。
またもや一級死亡フラグの大セールがやって来やがったのだ。
悪夢だ……
まさに悪夢だ。
断言するが俺は他人の趣味や趣向に口を挟む気はない。
BLだろうが百合だろうが近親相姦だろうがお互いの合意があれば好きにしてくれ。
合意がなければ妄想の世界で好きにやってくれ。
俺はプライベートには踏み込みたくない。
俺がガタガタ震えているとソフィアがもごもご喋る。
「ふがふがふがふが(離してください)」
「いいか。二人に気づかれないように立ち去るぞ。わかったな」
「ふがふがふがふが(わかりました)」
俺は手を離す。
ソフィアは叫ばなかった。
だがその代わりに潤んだ目でこちらを見ていた。
え? なに?
そして顔を赤らめたソフィアは……
「……ばか」
と小さくささやいて顔を背けた。
……え?
なんで変なフラグ立ってるの?
そして俺の死亡フラグも立ってるの?
フィーナに殺されちゃうよ俺。
こうして俺たちは大きな問題を抱えながら静かにその場を離れたのだった。
やったー! 洒落にならない問題が二つも増えたよー!
もうね! 世界は俺を憎んでいるに違いないのよ。
俺近いうちに死んじゃうんじゃないかな。ストレスで。




