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王子様は一級死亡フラグ建築士 ~城からパクってきた銀のスプーンが黒く変色した件~  作者: 藤原ゴンザレス
城からパクってきた銀のスプーンが黒く変色した件

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急転

 俺はギュンターを連れて牢でライリーと対峙していた。

 先日の余裕など俺には欠片もない。


「ライリー、知っていることを全て話せ。じゃないと殺す」


 もうなにを言っているかわからない。

 俺は完全にテンパっていた。


「ほう……先日の余裕はどこに消えた?」


「針と金槌持ってこい! 口を割らすぞ!」


「殿下、落ち着いてください。騎士は肉体的な拷問では口を割りません」


 ギュンターが俺を止める。

 だが俺は本気だった。


「ははははは! この慌てた顔! とうとう偽王子が馬脚を現したか」


 偽王子。その言葉を聞いて急激に俺の頭は冷めていった。

 そうだ。なぜ俺がライリーに合わせなければならない。

 ライリーを俺のペースに巻き込むのだ。

 俺はボリボリと頭をかいた。


「うるせえ……ったくよぉ。マーサ殺しの犯人はわかってるんだよ」


「はあッ!?」


 ギュンターが素っ頓狂な声を上げた。


「殿下。どういうことですか?」


 さあ、答え合わせの時間だ。

 俺が名探偵役とか悪夢でしかないが他に名探偵がいないので仕方がない。

 俺の推理を見せてやるぜ。


「まずマーサ殺しは、別の場所で殺してわざわざ厨房に運んだとの報告があります」


 ゲイルの証言だ。

 あとで聞いたら漏らしたあとがなかったから殺害現場は別の場所だとゲイルは言っていた。

 ゲイルの言っていたとおり聞かなければよかった……

 法廷で使える証言ではないだろうが、ここでは関係ない。

 当ってさえいればいいのだ。


「つまり犯人は殺害現場を特定されたくなかった。そもそもマーサを殺害するなら隠蔽する手段はいくらでもあったはずです。調理中の事故に見せかけたり、酔わせて井戸に突き落とすとか」


 これもゲイルの証言だ。

 俺への殺人未遂とは違い、マーサへの殺害はあきらかに殺人とわかる手段が使われている。


「さてここで私への殺害未遂事件を考えてみましょう。実は私はこれまでに二度命を狙われています。その二度は毒殺を狙ったものでした。ギュンター将軍は気づいていたんでしょう?」


「はい。殿下を陰から守っている護衛の存在に気づきましたのでなにかが起こったのだろうとは思っておりました」


「さて、その二度の暗殺未遂は殺人であることすら隠蔽する非常に手の込んだものでした。マーサの殺害のように雑ではありません。それでここからが重要です。この雑さは、なにかに似てませんか?」


 ライリーは黙っていた。

 それがもう答えだった。


「第三軍有志による私への殺害ですよ。ねえライリー?」


 俺はライリーの顔をのぞき込む。

 ライリーは下を向いた。

 肩がピクピクと痙攣している。


「くくくくく。ただの子犬だと侮ったのが我々の間違いだったということですか!」


 おかしい。

 ライリーはやけに余裕がある。


「子犬だよ。お前らが母を追い詰めるまではな!」


 俺はライリーの胸倉をつかんだ。

 ガキが凄んでも怖くはないだろう。

 俺の目的は別の所にあった。

 ライリーの目を見たかったのだ。

 その目は俺を蔑んだ目だった。

 殺害を当てられたにしては余裕がありすぎる。

 おかしい。どこかが間違っている。 


「母? 追い詰める? どちらのことだ?」


「知らないのか? 正妃シェリルがマーサを殺した容疑で謹慎になったんだよ!」


 ライリーの顔がみるみるうちに真っ青になった。

 どうやら知らなかったようだ。


「な……なぜ……シェリル様が……」


「それがわからないから焦ってるんだよ。いいから黒幕を教えろ!」


「い、いや、おかしい! だが、なぜ……」


「いいから吐きやがれ!」


 俺はライリーの胸倉を揺する。


「だ、だが、レオン、なぜお前がシェリル様を助けようとする! ランスロット様さえいなければ貴様が王のはずだ!」


「最初から言っているだろ! 俺は廃嫡を望んでいるし、王に廃嫡を申し出た。遠方の国に婿養子に出すんでも、エリック叔父貴みたいにランスロットの家臣でもいいんだ。王位なんていらねえんだよ! 廃嫡を断ったのは王だ! 俺は母や弟の邪魔になんかなる気はないんだよ!」


 俺は必死だった。

 俺にとっては自分が王になって、シェリルが軟禁されるなんて、それこそ地獄だ。

 それだけは許せないのだ。


「う、嘘だ!」


 ライリーはあくまで否定する。

 どうやら背後にいる何者かに俺が王になるために工作をしているとでも吹き込まれているのだろう。


「本当だ。じゃあ聞くけど俺が王になりたい理由はなんだ? 権力? なぜ子どもがそんなものを欲しがると思うんだ? 王権を簒奪されたハイランダーだから? 俺が『王の剣』の話を知ったのはお前らの襲撃の後だ。ギュンターのヒントがなければ気づくこともなかった。だいたい暗殺未遂さえなければ俺はなにも知らないままだったんだよ!」


「そ、それは……じゃあ、なんで……」


「王子が廃嫡を望んだことをグレイ公爵からお聞きしたからこそ、私は殿下の力になるために来たのです」


 ギュンターが断言した。


 俺はライリーの胸倉を引っ張る。


「聞け。マーサ殺しの犯人はお前だな? お前のバックは……そうだな……グレイ公爵はないな。俺の味方じゃなければギュンター将軍を寄こすはずがない。母は……ないな。母は俺を排除したければ真実を伝えればよかっただけだ。そしたら俺はグレイ公爵の手を借りて姿を消しても良かったんだ。だから母は容疑者ではない」


「……」


 まだ黙るか。

 ここで揺さぶってやろう。


「お前がマーサを殺した理由は王への忠義からだ。マーサの流した噂が気にくわなかったのだろうな。俺の母親がメリルだって噂だろ? ああ、間違ってない。そしてお前は何者かに吹き込まれた。俺が王の息子ではないと」


 これはハッタリだ。

 だが俺には確信があった。

 たとえメリルが俺の本当の親だという事実を知っていたとしても、俺の王位継承権は揺るがない。

 重要なのは男親と生まれた順番だけだ。

 つまり俺は正当な王子だ。

 その場合は俺を偽王子と呼ぶ必要はない。

 だとしたらなぜライリーは俺を偽王子と呼ぶ?

 俺が偽王子となるのは父親が王でないときだけだ。

 つまりライリーは俺を王の子だと思っていないのだ。


「なぜ騎士がその結論に辿り着いた? ハイランダーの話は歴史学者でもあるギュンターが資料から辿り着いた結論だ。知っている人間は少ない……いや限られる……お前に俺を殺すように命令したのは王族なんだろ?」


「……違う!」


 もう一押しだ。

 だがどうしてもあの余裕が気になる。


「ライリーは騎士だ。貴族だけど王と直接会話できるとは思えない。つまり王以外の王族だ……ライリーが直接話ができる王族……第三軍の将軍であるエリック叔父貴だよな?」


 実はこの推理には大きな穴がある。

 とんでもない穴だ。

 もしエリックの命令だとしてもそれを立証する手段はない。

 証拠もライリーの人間関係だけしかないのだ。

 だがあやしいのはエリック叔父貴だけなのだ。

 だがなにを隠している……


「おい……ライリーちょっと待て……」


 俺の脳裏にありえない想像が浮かんで来た。


「エリック叔父が犯人なのは同じだ。だけど過程が違う。マーサ殺しの犯人が問題なんだ……おいライリー……もしかしてマーサを殺したのはエリック叔父なのか……?」


 ライリーの目つきが変わった。

 当りだった。


「なんでエリック叔父がマーサを……」


 俺はギュンターの方へ視線を移した。

 ギュンターも黙っている。

 いや、様子がおかしい。


「マーサはシェリル様を侮辱した。だから……」


 ライリーが白状する。

 だが俺はそこはどうでもよくなっていた。

 もっとなにか恐ろしい秘密があるのだ。


「みんな……まだ俺に隠していることがあるな?」


 俺の声は震えていた。

 嫌な予感がする。

 ギュンターが俺の肩に手を置く。


「レオン様……ライリーの代わりに私がお話ししましょう」


 こうして俺はさらなる闇に踏み込むことになるのだ。

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