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王子様は一級死亡フラグ建築士 ~城からパクってきた銀のスプーンが黒く変色した件~  作者: 藤原ゴンザレス
城からパクってきた銀のスプーンが黒く変色した件

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牢屋

 俺の目がぱっちりと開いた。

 頭が痛い。寝過ぎたようだ。

 俺は起き上がると頭をポリポリとかいた。

 フィーナはいない。仕事をしているのだろう。

 俺はボケた頭で考える。

 ライリーに会わねばならない。

 少しビビっていたのは否定しない。

 だがここで逃げては真相はわからないだろう。

 俺は会うことに決めた。


「ゲイル。いるんだろ」


「ええ。いますよ」


 ゲイルは部屋の隅で闇と同化しながら椅子に座って本を読んでいた。

 ……今、生まれてから3番目くらいにびびったぞ。


「ライリーに会う。ギュンター将軍の所に行くぞ」


「公式ですか? 非公式ですか?」


「非公式だ。ライリーとの会話は聞かれたらマズイ。ギュンター将軍にアポを取らないとな」


「では外の第二軍の騎士に繋ぎを頼みましょう」


「頼む」


 俺が同意するとゲイルは外の兵士に伝言を頼むために外に出ていった。

 俺はゲイルが座っていた椅子を見る。

 本が置かれている。

 俺はベッドから降りて本を手に取る。

 滑稽本だろうか?

 俺は表紙を見る。


 『王の剣』


 また王の剣か……いい加減うんざりだ。

 俺はパラパラと本をめくる。

 どうやら『王の剣』そのものの本ではなく歴史の解説書のようだ。


 『王の剣』は今も王城に保管され……


 なるほど。『王の剣』は保管されているのか。

 でも刀身の短い両手剣なんて見たことないぞ。

 どういうことだ?


「はいはい伝えましたよー。今からでも大丈夫だそうです。迎えに来てくれるそうなので着替えをしましょう」


 俺が本を読んでいるとゲイルがやって来た。


「おつかれー」


「殿下、なに勝手に人の本読んでるんですか」


「『王の剣』」の解説書だね」


「ええ、芸事ってのは話が生まれた背景も知って理解することが重要なんですよ」


「そうなのか」


「ええ。重要なんです」


 なんだかごまかされている気がする。

 俺は核心を突くことにした。


「『王の剣』なんていらないよ」


「なぜですか?」


「もし、剣があって手に入れても俺が王になるには諸侯と王の信認が必要だ。じゃなきゃ戦争が起こる。それに俺はランスロットを王にするつもりだ」


「どうしてですか?」


「ゲイルも王も隠してるけど、俺には王になるのにもっと致命的な欠陥があるんでしょ?」


 欠陥の内容こそわからないがそれは確実だった。

 だから王とゲイルはこそこそと裏で工作をしているのだ。

 いやゲイルだけじゃない。

 ギュンターとグレイ公爵も気づいているに違いない。


「殿下には欠陥などはありません。そういう言い方で傷つく人がいることをお忘れにならぬように」


「ローズ伯爵のこと? 大丈夫だよ。あの人は俺が偽物でも関係ないよ」


 ローズ伯爵なら結果的にフィーナや家族が幸せなら文句は言わないだろう。あの図太さは見習いたい。

 ところがゲイルは俺の発言を聞いて心が痛そうな顔をして微笑んだ。


「違います。もっと大勢いますよ」


「誰?」


「お母上ですよ」


「あ、ああ……」


 確かにその通りだ。

 シェリルに聞かれたらお説教コースだ。


「以後気をつける」


「ええ。賢明です」


 俺たちはそこから少し沈黙した。

 お互いに思うところがあったのだ。

 俺はゲイルの隠し事を探ろうと必死になっていたし、ゲイルは俺の欠陥発言に怒っていたのだ。

 沈黙を破ったのは第二軍の兵士だった。


「殿下、お迎えに上がりました」


「はい。ではゲイル行きましょう」


 すでにゲイルは姿を消していた。

 俺はゲイルが陰で守っていることをわかっていた。



 牢の一室。

 ライリーが俺を睨んでいた。

 ライリーの横には都営地下鉄の路線図のように縦横無尽に傷が走った男がいる。

 その横には東武野田線のような傷の男。

 二人とも強面だ。

 俺はどう攻めるか考えていた。

 ライリーは騎士だ。拷問で口を割らせるのは難しいような気がする。

 考えながら俺は椅子に座る。

 殴られたのかライリーは顔が腫れていた。


「どうした偽王子。ずっと黙っているつもりか?」


 先に口を開いたのはライリーだった。

 俺は答えない。

 その代わりにライリーと俺とを分けている机をコツコツと指で叩いた。


「おい。なんのために来た? 口がきけないのか?」


 コツコツ。


「おい!」


 コツコツ。


「なにか話せ!!!」


 俺はライリーが苛立っているのを冷静に眺めていた。

 明らかに俺の方が有利だ。焦っているのはライリーだ。

 だがなぜだ?

 死ぬのが怖い?

 それとももっと違う理由か?


「ライリー。なぜ自害しない?」


「……」


 いきなりライリーは黙った。

 やはりそこが問題か。


「死ぬのが怖い? そんなやつが俺を狙うはずがない。暗殺なんて十中八九返り討ちだ。それがわからないほどバカでもないだろ?」


「お前になにがわかる?」


「なにも」


 ライリーには新たな情報は何一つ差し出さない。

 不安感を煽るのだ。


「ふ、ふふふ。こざかしい偽王子め……最初に会ったときとは別人じゃないか……」


「さあ、どうだろうな?」


 これは腹の探り合いだ。

 ライリーは俺から情報を得ようとしている。

 ただ死刑を待つ身ならそんなことをする必要はない。

 つまりライリーは外と連絡をしている。

 エリック叔父貴か、それとも別の人物か?

 それが問題だ。


「ライリー、お前に命令したのは誰だ?」


「あえて言えば国家だよ。国が偽王子を排除せよと俺を立ち上がらせた」


「あのさ、勘違いしてるようだけどさ。王族なんて国家が傾いたときに首をはねられるのが仕事だぜ」


 嘘偽りはない。

 政治なんて王族がいなくてもできる。

 王族が必要なのは責任を取るときだけだ。


「……ふ、ふふふ! まるで本当の王子のような台詞を」


「じゃあ聞くけど俺が偽王子だって言う根拠は?」


「……」


「『王の剣』の話か?」


「……なぜそれを知っている?」


 それを教えてやる義理はない。


「俺を殺そうとしているのは誰だ?」


「俺が言うとでも思うのか?」


「言わないだろうな」


 これまでの情報である程度犯人が絞り込めてきた。

 『王の剣』の話を知っていて、それでいて俺を殺す理由がある人間だ。

 やはり叔父貴が最有力候補だろう。


「ライリー、話したくなったら呼んでください。命は助けてやりますよ」


「ふ、言うとでも思ったか?」


 俺は席を立つ。

 そしてわざと思い出したように言った。


「あ、そうそう。私が腹を刺した兵士ですが、助かったそうですよ」


 本当は刺したのはゲイルだ。

 だがそれは関係ない。

 俺はニヤッと笑うと牢屋を後にした。

 あと数回で落ちる。

 俺は確信した。

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