冬空と少女
雪合戦がしたいねぇ、というのがこの時期の彼女の口癖だ。その言葉に、雪は降らないでしょ、と返すのが私の役割である。いつだってその事実が気に入らない彼女は少し機嫌が悪くなって、夢くらい見せてよ、と私を小突く。
「ほんとに空気を読まないなぁ。冬ですかあなたは」
「私は冬じゃないけど季節は冬だね」
「こんなに寒いのに雪降らせないんだから、どっちも同じくらい空気読めてないよ」
まさか一季節と同じくくりに入れられるとは思わなかった。乙女らしくロマンチックなことが好きな彼女はなんでも人に見立てるのだ。霜で灰色に見える畑の横を歩きながら、まあまあと笑って息を吐く。
「夢見がちなのは高校生までね」
「またそうやって厳しくする」
「そうでなくても、頑張って勉強して県外の大学行けばいいじゃん」
「あー聞きたくないですー乙女心を勉強とおんなしにしないでくださーいー」
どれだけ寒くても彼女の機嫌を損ねても、この地域では滅多に雪が降らないのだ。それをモチベーションにして勉強に励めばいいのにと思うがそこを結びつけるのは彼女の乙女心に反するらしい。あーあーと彼女が吐いた白い溜息は、蜘蛛の子を散らすようにあっという間に消えていった。
「ちっちゃいころは雪合戦したのになぁ」
「へぇ、私したことないや」
「私超強いよ。いとこ三人のしたもん」
「それすごいね」
それから自慢げに雪合戦の思い出を語り出す彼女とともに、コンビニで一つだけ肉まんを買って駐車場で食べる。その間に肉まんとあんまんどちらを買うかでバトルが繰り広げられるのはいつものこと。彼女はあんまん派なので、今日は悔しそうに半分の肉まんをかじっている。
「そんで私がさ、頭使って後ろに回り込んで、背中におもっきし雪玉ぶち込んでやったわけですよ。あの子誰だったっけな」
「ちっちゃい頃の記憶って曖昧だよね」
「んー、でもそんなすごくちっちゃくもなかったかなぁ。たしか小四とか」
「その子が?」
「いや私が」
「え、嘘だぁ」
思わずきょとんとして否定したらきょとんを返された。なんでさ小四だよ、いやいや違うよと否定に否定を重ねてから彼女がむうと唸った。
「小四だって。そうだよ、私親戚の人に半分成人だねって言われたもん。うちに来た人に」
「でも小四のときに私、山の上すら雪が積もらなかったからって、家族で冬の山登り行ったんだよ。ここはゆずらない」
噛み合わない主張に議論がヒートアップする。どちらかの記憶違いなのは間違いないが、どちらも自信があるから厄介である。もちろん私は記憶違いなどしていないが。
「わかった、間違ってたら明日は私があんまん買う。しかも二個」
堂々巡りになることは目に見えていたので、取引を仕掛けてみる。案の定、彼女はすぐにきらりと目を光らせて乗ってきた。
「あ、言ったね? 言質とったよ? 絶対あんまん奢ってね?」
「絶対奢る。その代わりそっちが間違ってたら肉まん二個そっち持ちね」
「オッケー、絶対間違ってないもん」
ふんと鼻を鳴らす彼女の横で私も鼻を鳴らす。お互いむきになっているから、少しだけ沈黙が降りる。しかしまた違うことを話し始めると、そのあてどなさはすぐ消えていった。
あー、雪合戦したい。
雪降んないから。
また同じようなやりとりを繰り返しながら、冬空の下を彼女と歩く。
家に帰って、真っ先に押入れからアルバムを捜索した。普段から抜けていると言われる私だが、今回ばかりは自信があるのだ。明日は彼女に肉まんを買わせてやろうではないか。
そこまで考えてふと今日の、肉まんを頬張るふてくされた顔を思い出す。
……情けをかけて、あんまんにしてやってもいいかな。
彼女の笑顔のために。そう考えて、一人でくすくすと笑った。
さて、翌日どちらの懐が寒くなったのかは、皆さんの想像にお任せするとしよう。
初投稿です使い方すらよくわかっておりません間違いなどありましたらぜひ指摘していただければ……!
あと批評受け付けております叩きのめしてやってください……!




