【4】
お茶会の時、フェルディナンドに連れて行かれるシェランを見て不安を覚え、こっそりついて行った。そして、ついて行ってよかったと思った。その時に抱きしめた彼女の体は見た目よりずっと華奢でやわらかかった―――。
で、今この状況である。夫婦なのでベッドが一つしか用意されていないのはわかるが、実はまだ夫婦の契りを結んでいない。そしてリーフェイとて健全な男である。することはしたいし、それが好きな相手ならなおさらである。そんなわけで、リーフェイは眠れぬ夜を過ごしていた。同じベッドのごく近くで、シェランは穏やかに寝息を立てている。それを起こさないようにこっそりため息をついた。
シェランは割と大人びた顔立ちをしているが、目を閉じるとやや幼く見える。おそらく、釣り目の影響が無くなるからだろう。リーフェイはそっと手を伸ばすとシェランの滑らかの頬に手を滑らせた。
すると、ぱちっとシェランが眼を開いた。内心焦ったが、シェランは微笑むと、すっと自分の唇に人差し指を当てた。何だ? シェランの唇が弧を描く。
その蠱惑的な笑みを前にして、ああ、とリーフェイも気づいた。彼も鈍いわけではない。シェランが指を3本たて、それは2本になり、そして1本になった。
リーフェイの上を剣が通過した。これは動いていたら斬られていたな……。そう思いながらリーフェイも身をひねって背後の襲撃者に蹴りを加えた。
「あんたたち、自分がだれを相手にしているか、わかっているの?」
アイク語で言った。こんなセリフを言わせるためにシェランにアイク語を教えたわけではないのだが、まあいいか。
シェランが剣を振るうところを見るのは、実は初めてだ。噂に違わぬ腕だ。しかし、『虐殺姫』というよりも、どちらかというと舞姫の方がしっくりくる洗練された動きだった。
しばらくそうして遠慮のないシェランの動きを感心しながら見ていたのだが、自分の背後にも襲撃者がいることに気付いたリーフェイは襲撃者の腕を取るとそのまま床に投げ伏せた。腕をひねり、少し迷ったが襲撃者の肩を粉骨骨折させた。さらにもう1人の襲撃者の肋骨に掌打を叩き込む。これもばきっと嫌な音がした。
「ちょっと! 引くんならこれも連れていきなさいよ。全員の首かっ飛ばすわよ」
「くっ」
襲撃者たちは目元だけで不機嫌を表しながら倒れた仲間を背負った。さらにシェランは言い募る。
「雇い主によろしくね。今日は見逃してあげるけど、次があったら容赦しないから」
それは伝言というのだ、シェラン。襲撃者たちがいなくなった後、シェランも不機嫌に吐き捨てた。
「犯人丸わかり。やるならもっとうまくやりなさいよねぇ。ばっかじゃないの」
「……俺には分かりませんでしたが」
そう言ってみると、不機嫌でもシェランは節度がある。床から鞘を拾い上げて剣を収めた。
「ウー貴妃を思い出すってことよ。ああいうのは……」
そう言ってシェランが眼を細めるのが夜目に見えた。
「シェラン様!? 大丈夫ですか?」
リュシアが寝室の扉をたたいた。シェランはいつもの間延びした口調で「平気よぉ」と言いながら扉を開けに行った。彼女は相手を斬っていたはずだが、返り血も浴びていない。
「シェラン様……って、何があったんですか!?」
「襲撃。犯人がわかってるから騒ぎ立てないでね。明日も続くようなら宣戦布告に行くわ。目がさえちゃった。甘いものが食べたいわねぇ」
「そんなのんきな!」
リュシアが訴えたが、とりあえず寝室をきれいにすべくシェランとリーフェイは応接間に出された。シェランが自分で紅茶を入れる。
「リーフェイ。ミルクティーでいい?」
「いいですよ。っていうか、入れれるんですか?」
「エレオノーレさんに教えてもらったのぉ」
ああ、お茶会の最後の方にエレオノーレと楽しげに話していたのはそれか、とリーフェイは納得した。思ったよりまともな紅茶が出てきてリーフェイはほっとした。
「今、ほっとした顔したでしょ」
「……わかりましたか」
「まあいいけどねぇ」
そう言ってシェランはリーフェイの向かい側に腰を下ろした。
「話には聞いていましたが、見事な剣の腕ですね」
「2番目の兄に教わったの。兄の軍に従軍したのが、最初の出陣だったわねぇ」
「ふつう、公主は出陣しませんよ」
リーフェイは軽く微笑んでツッコミを入れた。2番目の兄の話をするとき、いつもシェランの眼が優しくなる。それだけその兄のことが好きだったのだろう。そう思うと、兄弟だがちょっと妬ける。
黄の皇国第17代皇帝ジョウシェンの第2公子・琅耶。年はリーフェイと同じだったはずだ。生きていれば。彼が亡くなったのが、シェランが凶行に至る一因となる。
ランイェは人柄で知られた。生真面目で家族思い。文武両道を地で行く好青年。それが彼を表す最もふさわしい言葉だろう。
ゆえに、味方のいない後宮で、シェランは彼になついた。彼を見て育ったシェランは、だからこそ、ひねくれながらも優しい性格に育ったのだろう。……たぶん。これはリーフェイの憶測だ。
「ふふふっ。お兄様にひどく怒られたわ。わたくしが13歳のときね。もう母は亡くなっていたから……」
ふっとシェランはあらぬ方向を見た。彼女らしからぬ憂いの表情がその整った顔に浮かんだ。
「この国にも、後宮があるわね。わたくしのような子が、生まれないといいけど」
「……」
安易に大丈夫だともいえずに、リーフェイは沈黙を選んだ。フェルディナンドは女好きだ。おそらく、シェランのような子は産まれるだろう。
「わたくしが家族から愛された記憶はお兄様の記憶だけ。そんなわたくしが、あなたと家族になっていいのかしら……」
ああ、その問いには答えられる、と思った。リーフェイはカップを置いて立ち上がる。シェランの前に膝をつくと、彼女の頬を両手で包み、視線を合わせた。
「大丈夫です。俺はあなたを愛していますから。それに、あなたは自分で思っているよりも、いろんな人に愛されていますよ」
だからこそ、みんな彼女が皇帝になることを望んだ。にっこり微笑んで言えば、目に涙を浮かべたシェランも微笑んだ。袖の端でその涙をぬぐう。
「そう言えば、言ったら失礼だけど、リーフェイも戦えるのねぇ」
気を取り直したシェランに言われ、リーフェイは微笑んで彼女の隣に腰かけた。
「俺も護身術程度は習っていますよ。シェランに比べれば弱いですが」
「元文官だもの。それくらいで十分だわぁ。そういえば、ユーシァも気功の達人だって聞いてたものね」
「ああ、兄は強いですよ。俺は気功は合わなかったんですけどね」
だから、拳法を習うことにしたのだ。実はかなりの実力者なのだが、それは黙っておく。シェランに比べればやはり大したことはないからだ。
「あと、飛び道具も割と得意ですよ。銃はわかりますよね?」
「ええ」
「あれも撃てますし、弓矢も使えますよ。剣や槍は微妙ですけど」
「わたくしはむしろ、弓矢は苦手だわぁ。銃なら割と使えるのだけど」
「腕力の問題ですかね?」
弓も銃も腕力がないと打てない。何故弓だけダメなのだろう。2人して首をひねった。
不意にこてん、とシェランの頭がリーフェイの肩に乗った。眠ったのかと思ったが、目は開いていた。
「眠いですか?」
「いいえぇ。でも、しばらくこうさせて……」
そう言ってシェランは身を摺り寄せてくる。ずっと思っていたが。
「シェラン。男に対して警戒心がなさすぎです」
「え?」
驚いたようにシェランが身を放した。キョトンとした表情を浮かべたシェランは本当にわかっていないようだ。誰か、彼女にその辺の教育をお願いします。
「警戒はしてるわよぉ?」
「その警戒ではありません。身の危険……じゃないな、貞操の危険は感じていますか?」
「何それ」
はい来た。そんなことだろうと思いました。リーフェイは心の中でため息をついた。とりあえず、重要なことから確認することにした。
「ちなみにシェラン。子どもがどうやってできるか知っていますか?」
親が子供に聞かれて困る質問の一つである。まあ、妓楼に売られそうな娘を助けたりしていた、と言っていたし、妓楼の存在を知っているのならたぶん知っていると思うのだが。
「それは……」
シェランが唇を震わせて頬を赤らめてうつむいた。知っているようで何より。
「知っているならいいんです。男というのはそう言うことが好きなんです。シェラン、今の恰好がどれだけ扇情的かわかっていますか? その格好で男にしがみつくのはやめた方がいいです」
シェランが自分の恰好を見下ろした。夜着の上に1枚羽織っただけだ。リーフェイも同じだが、体の線がよく出ている。これで抱き着かれた日にはたまらない。こちらはお預けを食らっているのだ。
「ええっと。リーフェイもダメ?」
「むしろ俺がダメです。襲われてもいいんですか?」
「?」
首を傾げられた。リーフェイは笑顔が引きつるのを感じた。駄目だ。幽閉されていた皇帝は超箱入り娘だった。リーフェイは言葉で説明するのをやめ、代わりにシェランの腰を引き寄せた。
「何っ、……っ!」
疑問を発しようとしたシェランの唇を唇で覆った。リーフェイの胸を押し返すシェランの後頭部を固定し、むさぼるように唇を重ねた。嫌われるかもしれないな、と思いながらシェランの唇を舌でこじ開ける。びくっとシェランは体を震わせた後、おとなしくなった。
「ん……ぅ……っ」
シェランの唇の端から喘ぎ声が漏れた。ちょうどそこに寝室の扉が開く。
「シェラン様。掃除……! 失礼しました」
掃除を終えたらしいリュシアが頭を下げて再び寝室の向こうに閉じこもった。
唇を離すと、頬を上気させ、瞳を潤ませ、肩で息をしているシェランが睨み付けてくる。
「そんな顔で睨まれてもかわいいだけですよ」
「うるさいわ!」
「これ以上先のことをされてもいいんですか?」
「いい笑顔で言うな、腹黒!」
とりあえず、シェランのリーフェイに対する印象が一つ分かった。腹黒いとわかって求婚したのか。物好きな娘だ。
シェランは上着を引きずって立ち上がると、立てかけてあった剣を手に取った。そして、だれに言うともなく言った。
「寝るわ!」
寝室の扉を開けてリュシアと入れ替わるように中に入った。あの中で寝る気になれるシェランは純粋にすごいと思う。
「……リーフェイ様、すごいですわね」
「それ、嫌味?」
リーフェイが苦笑して尋ねると、リュシアは首を左右に振った。
「いいえ。シェラン様から素の感情を引き出すのはとても難しいんですの。私にはできませんわ……」
確かに、本音が漏れている気はした。と言うか、リーフェイの前では割と本音ダダ漏れである。
「私が言うのも角違いですけど、シェラン様の事、よろしくお願いします」
「どこまでやれるかわからないけど、やってみるよ」
リーフェイは苦笑して請け負った。
「リーフェイ様、どうしますか? 寝室に入られます?」
「さすがの俺も、今寝室に入る勇気はないよ。俺はここにいるから、リュシアも寝ていいよ」
「そう言うわけには行きません」
しばらく似たような攻防が続き、結局リュシアが折れた。たぶん、眠かったのだろう。
「……では、申し訳ありませんがシェラン様をお願いします……」
「ああ。おやすみ」
リーフェイはひらひらと手を振って、赤の帝国の歴史書を開いた。
「おーい。リーフェイ」
気が付くと、リーフェイはソファに横になって眠っていた。専門書は思ったより眠気を誘ったらしい。声のした方を見ると、シェランがリーフェイの頬をつついていた。
「……おはようございます」
「おはよう。別に寝室に入ってきてよかったのに、なんでここに寝てるのよぉ」
「さすがにあの状況でシェランのいる部屋に入って行ける勇気はありませんよ。俺は普通の人間なんですから」
「よく言うわぁ」
シェランがおかしそうに言った。起き上がると、毛布が掛けられていた。たぶん、リュシアかな。
今日は会議の続きのはずだが、会議は午後からだからかシェランはまだ軽装だった。シェランはリーフェイが読んでいた本を取り上げる。リーフェイはその横で堂々と着替えた。
「赤の帝国史ね。この国は歴史が長いものねぇ」
「赤の帝国は初代女王イルメラから絶えずに続いていますからね。黄の皇国では易姓で何度か支配氏族が変わっていますから、そのたびに皇帝の数えが一に戻るんですよね」
「そうねぇ。今は巡り巡ってまたリー姓に戻ってるけどね」
シェランは19代目だ。再生リー氏王朝としてはだいたい400年くらいか。その前はフー氏王朝だった。
「でも、翠の王国は赤の帝国より長いはずですね。翠の王国は文字が存在しない時代から、その原型があったという話ですから」
帯を結びながらリーフェイは言った。シェランの声が言う。
「エレオノーレさんは69代女王だって言ってたわねぇ。っていうか、原型があったのは翠の王国の方ではなくて、『オーダー』でしょう」
「よく知ってますね」
「一時期亡命を考えたからね」
さらりと言う言葉が重いんですってば、だから! と突っ込みたいのをこらえて、着替え終えたリーフェイは振り返ってシェランの方を見た。
「もともと、『オーダー』は異能を持った者を集めた異能戦闘集団です。まあ、要するに魔法使いの軍隊みたいなもんですね。4人の伝説の英雄が現れる前から存在する、歴史ある組織です。まあ、最近は避難場所みたいになっているらしいですが」
『オーダー』、俗にいう『黒の王国』では国籍や前科は問われない。『黒の王国』内部で法律は存在するとのことだが、あくまで逃げてきたものを問わずに受け入れる。だからこそ、シェランは亡命を考えたのだろう。ただ、地理的に問題があって、黄の皇国と翠の王国では赤の帝国を間に挟む形になる。
「世界の平和維持集団だって聞いたけど」
「痛い宗教の人みたいなもんです」
「なるほど」
通じた!? 投げやり気味の言葉が通じて、リーフェイの方が驚いた。
「今ので通じたんですか?」
「うーん、何となく通じたって感じ」
「……そうですか」
シェランは意外と外交向きかもしれないな、と思った。外交では凶悪と称される笑みを振りまいているようだが。あの笑みは、凶悪と言うかど迫力である。切れ長の釣り目が強調されているのだ。
そして、午後になるとシェランはその凶悪と称される笑みを浮かべる会議に出ていった。その間、リーフェイは暇なので本を読んだり、他国の方々と交流したりしている。中立国・翠の王国の話を聞ければいいのだが、女王エレオノーレは会議、彼女が連れて来たお客という名の人質は彼女の13歳になる息子だった。ちょっと年が開きすぎだ。リーフェイが話しかければ、不審者と間違われる可能性がある。
結局、客室で本を読んで過ごした。
「今日も決まらなかったわぁ。早く帰って引きこもりたいのにぃ」
ぐったりした様子でシェランが帰ってきた。引きこもってどうするのだろう。まあ、皇帝は基本、引きこもっているから間違いではない。
「お疲れ様です」
「もう。誰もわざわざ赤の帝国を敵に回したりしないわよぉ。早く締結文を書きましょうっ」
シェランはソファに寝転んでそのやわらかい材質をバンバンたたいた。「血判状でも何でも書いてやるわよぉっ」と叫んでいる。血判状はないだろう。
「まあ、どの国も自分たちに都合の良い条件を引き出そうと必死なんですよ」
さりげなくかばってみるが、シェランはばさっと切って捨てた。
「赤の帝国相手にそんなことをしてどうするのよぉ。フェルディナンド2世が好きなんて見せるわけないでしょぉ。多少不利は目をつぶって、早めに条約結んだ方が有利だと思うのっ」
リーフェイはちょっと感心した。
「シェラン。ちょっと感心しました。その通りです。でも、それは我々が黄の皇国と言う帝国の人間だから言えることでもあるんですよ」
「どういうこと?」
素直に首を傾けるシェランに、リーフェイは微笑んだ。
「国力の差です。我が国は内乱続きでしたが、国自体は広く、しかも、今はシェランの政権がしっかりしています。ですから、国力としてはかなりのものがあります。一度、他国と比べてみるといいですよ」
「……そうね」
「で、元となる力が大きいため、多少不利でもなんとかなるんですよ。でも、そうではない国の方が多い。だからもめるんです。国力の強さと言えば、翠の王国、空の公国もそうでしょう」
空の公国は典型的な軍事国家。翠の王国は『オーダー』と呼ばれる異能集団を国内に抱えている。『オーダー』の騎士は10人で国を一つとれるともいわれている。利害関係を結んでいる翠の王国の国力は大したものだ。主な産業は細工である。
「白の王国はぁ?」
「微妙なところです。島国ですから、どうしても国力が限られてくるんですよね。でも、まあ、ウィリアム3世は王都の近代化を成功させていますからね。最新の技術のほとんどは白の王国から入ってきますから、フェルディナンド2世もないがしろにはできないでしょうね」
「そう言うもの?」
「そう言うものです」
「へえ……」
シェランが興味深そうにうなずいた。身を起こしていたが、またソファにパタッと倒れる。
「わたくし、時々こうしてリーフェイから講義を受けるべきかもしれないわねぇ」
「別にいつでもお教えしますよ」
公務がなければ暇だし。そう言うと、「そうねぇ」とシェランははかなげに微笑んだ。それから勢いよく起き上がる。
「どうしました?」
「忘れてたわぁ。今日も夜にお客さんが来たら、ちょっと皇后様の所に行って来ようと思うのよぉ」
「ああ、それがいいと思いますよ」
リーフェイも微笑んで同意した。同意せざるを得ないだろう。と言うか、もう今日の時点で行ってきても良かったくらいだ。シェランは寛大である。
「手土産は何がいいかしらねぇ」
そう言っているところを見ると、今日もくると思っているのだろう。手元に剣を置いて寝ていた。簪が魔法道具の剣と言うことだが、それは奥の手なのだろう。
「んじゃ、お休みぃ」
シェランはそう言って横になった。とりあえず寝るつもりらしい。リーフェイも「おやすみなさい」と言って目を閉じた。
リーフェイはシェランに小突かれて目を覚ました。まだ暗い。どうやらシェランが言うところのお客さんが来たらしい。シェランの合図で同時に身を起こした。ベッドに剣が深々と刺さった。
「シェラン。前から思っていたのですが、回避行動がぎりぎりすぎです」
「いいじゃない。よけれてるんだから」
そう言う問題ではない。
「昨日、次があったら容赦しないって言ったわよねぇ? さあっ。死にたい奴からかかってきなさい!」
シェラン。それはまるっきり悪役のセリフです。
心の中でつっこみを入れつつ、リーフェイは邪魔にならないように脇に退いた。容赦しないと言ったのは事実なようで、シェランはばっさりと相手を切り捨てている。リーフェイも背後から手をかけられたので、そのまま背負い投げを食らわせた。
「だからぁ。昨日も言ったでしょ。片づけていきなさいよ。証拠残していく気ぃ?」
相手はだれかわかっているのに、証拠も何もないだろう。リーフェイは苦笑した。しかし、片づけが大変なのは事実だ。今日も寝室を見てリュシアが悲鳴を上げていた。
「協力ありがとぉ」
シェランがニコリとほほ笑んでリーフェイに言った。リーフェイも微笑む。
「俺の出る幕はなかったですね」
「ふふふ」
あ、笑ってごまかした。お互いににこにこしながら不思議な雰囲気が漂う。
「ねえ、リーフェイ」
「なんですか?」
「外交問題って、どこからだと思う?」
その質問をされた時、自分はとんでもない女と結婚したのかもしれないと思った。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
たぶん、シェランは私が今まで書いたキャラの中で最強の部類に入ると思います。
たぶんこの人、ちょっと頭がおかしいです。




