見抜きし者
「リュウ、計算して。主星ルフラ七七の再突入角度と衛星撃破のポイントを」
一年前の対抗戦でリュウは彼より強い女性に出会った。同系統の武術を修め、常に精進していた。
息詰まる決勝戦の最中、相対していたリュウは見惚れた。彼女の隠れた資質と技とそして…。
「了解、艦長」
階級は違っても、言葉遣いはなかなか変えられないリュウだったが。もっとも、存分に力が発揮できる環境として歓迎されてもいた、チームのみんなにとっても。
今回の任務は、つい最近になって資源衛星の軌道が楕円化し、主星ルフラ七七を重力カタパルトとして、近傍空間に向かって射出されようとしていた事実が確認されたためだ。
資源衛星内の重心の移動が軌道の楕円化に拍車を掛けた。
主星ルフラ七七の第五惑星のサンバナに居住する人類の資源開発による重金属の乱掘によるものと、見解が発表された。重金属の鉱床は今は既に閉鎖されている。
この衛星で掘られていた重金属は宇宙を航行する艦に必要不可欠な触媒だったため、乱掘を逃れられなかったのである。
この第七特殊観測艦『レディアークⅡ』には、サー・アン・リュウ火器管制員兼主計長、ティア・ムーン一級課長が艦長を兼任、チヅル・ファイア課長補佐と工場長、ワタル・ミズノ主任電磁探査員、ウッディ・メルヴァン火器管制主任、ゴルディア・ツ・ロイ戦術戦略員、アーシィ・チ・ローヴァ機関主任の七人が艦橋に詰めている。
ディアーク級三番艦『レディアークⅡ』も艦歴が還暦に近づいていた。
この艦の最後の仕事がルフラ七七の資源衛星の撃破と星屑の処理である。
「計算終了。衛星の目、照準内にあと三九秒」
「さすがね」
優秀な格闘家は最小限の攻撃で最大限の効果を引き出す。
宇宙最強の武術と言われるモンライ流の使い手である彼には、その目が見えるのだ。
機械の目の性能を超えて見つけ出すためにウッディ火器管制主任とよく意見がぶつかるが、実績が積み重なることで何とかなるだろうと、ティアは見ている。
ティアにも同じ目が見えているからだ。
「衛星の目、照準内。一番主砲、高熱モグラ弾、発射!」
高熱モグラ弾は、対象物の中心核で高熱の圧縮エネルギーを爆散させ、破壊させる砲弾だ。
以前の戦いでの対魔騎士戦の時に試験的に開発されたものだった。
正式名称を高濃縮熱核弾More=Grand=Cannonと言う。
「開発者の熱意は買うけど…。高熱モグラ弾で行きましょう」
鶴の一声で決まってしまった。ティアの仕業である。以来、ゾーディアク内での正式名称になった。
開発者はその名前のありえなさに涙目であったという。
そのウッディの射撃をミズノ探査員が補佐するべく、二番主砲の用意を始めている。
「二番主砲、高熱モグラ弾装填完了、拡散照射!」
モグラ弾の拡散照射は爆散した衛星のかけらを掃除していく。
第七特殊観測艦『レディアークⅡ』は、艦歴こそ六〇年に至る古参だが頑丈な強襲揚陸艦として、既に七度もの大きな戦いを経験している。
艦首に一番主砲、二番主砲を上下に備え、突破力も高い。
艦後部には、飛行甲板も備えている。
搭載機は現在、ゾーディアク主力機として配備されているニンフィアMPVを十機。
進水当時は姉妹艦を十二番艦まで数えたが、現在現役で残っているのはティアたちの操艦する十二番艦であった第七特殊観測艦『レディアークⅡ』だけだ。
ディアーク級は、紡錘型のボディと申し訳程度の翼を装備し、艦の一部が大気圏突入離脱可能のカプセルになる構造をしている。
その艦の前方に上下二段に主砲が装備されているため、常に発砲する際には艦の機動が必要となる。
混戦の際には、それが弱点となっていた。
他の十一艦が失われたのはその弱点を突かれたためである。
だが彼らが生き延びてきたのには訳があった。
チヅルの工場長就任と、ティアの卓越した判断力によるものだった。
一番主砲はそのまま継続使用し、二番主砲の上下の隙間を利用してビーム衝角兼用の反射材を設置した。
普段は反射材が四分割して納められているが、ビーム衝角の形成時には二番主砲の前に展張、展開する。ビーム衝角自体は通常の2/3になるが一部のエネルギーを防御に使えるのは画期的だった。
それは艦各部に設置した小型反射材によるビームの網を作ることで一種の反射膜の役を持たせた。
それは『レディアークⅡ』だけで試験装備を始めた頃の話である。
さらに改良を加え、小型反射材の角度を微妙に変えることで弾幕としても使えたのだ。
前艦長は難色を示していたが、ティアの課長兼任の艦長就任によって実行された。実績が上がるにつれ、艦隊内の艦艇にも早期の装備をと、望む声が高まったのは仕方のないところであろう。
既に全艦艇に装備が決定済みである。順次、換装予定である。
チヅル・ファイア、日本系の名を持ち古き言葉で署名する事のできる才女である。
単独行動を取りやすい強襲揚陸艦というものは、長期の活動を補佐するために艦内工場を備えている。戦闘と戦闘の間に、チヅルは彼女自身の士気を上げるために艦内工場に詰めている。現在はそこが彼女の事務所だ。
既に支給品になっている|赤外線探視(ノクトヴィジョン兼用)サングラス、電子銃からミサイルまで搭載可能なエネルギーパックや宇宙服の内骨格であるNスーツの改良も手がけており、『レディアークⅡ』の女性乗組員の協力を得て、モニタリングを続けている。
構成メンバーのウッディもアーシィも射撃では、常に五指に挙げられる腕前だ。
ワタルはアーチェリー、ゴルディアは操縦に秀でているが、通常の任務ではそれを発揮できる部署にはいない。苦手意識を無くすためのそれぞれの自覚だ。
彼らが受ける指令はそれなりに危険を伴う。
チームとして、最大の実力を発揮させるためにも常にある種の緊張状態が必要で、持続させなければならない。
そのために設置されているのがチーム対抗戦なのだ。
そして、この作戦の終了時には新造艦のレディアーク級一番艦『レディアークⅢ』の艤装が終了し、引き渡される予定だ。
もちろん、チヅルの考えた装備をてんこ盛りにして……。