不等価時間と、等価な時間軸 続
「………う?」
「ようやくお目覚め? ティア、体の調子はどう?」
その問いかけに、どこかシビれた頭でその声の主を探す。
自分の体が、まるで高重力下にあるかのようになぜか重たく感じているようにチヅルには見えた。
「……チヅ…ル?」
ようやくチヅルを見上げたティアは、うつろな目で長い時を共有してきた親友の姿に、なぜか違和感を持った。
シルエットが違うのだ。
もっと、こう…スレンダーな印象だったはずだ。
「う……、体が重い…。熱は出ていないはずなのに…、なぜ?」
額に手を当てて、熱の確認をするティア。
そんな自分のことなのに、客観視できないでいるティアにチヅルが即答する。
「ティア、あなた寝ぼけているの? 熱なんかじゃないわ。もっと重要なことよ。それにそんな大っきなものくっつけてるんですもの? 私もそうだけど、一から鍛え直しよ。」
そう言ってチヅルはティアを指さした。
「大っきなもの……? ………う? …わぁ!」
チヅルが指さした場所に視線を落とすと、胸が邪魔で自分の足元が見えなかった。
数瞬の後、ティアの口から出たものは…。
「何じゃこりゃー!」
チヅルは肩を落として、
「あぁやっぱり、あんたも同じこと叫んだね。」
と言った。
あのとき、ティアの痴態を放っておけなくて男性陣をお使いに出したまではよかったのだ、だが、魔の手はすぐそこに迫っていた。
「あっ、んんぅ…。手?、ティア……、ダメっ! あぅ! ……。」
すでに感染していたティアが、自身が呑み込まれたンンンな感覚の中で無意識のうちに縋り付いたモノこそ、チヅルだった。瞬時に二次感染したチヅルが、あーーな感覚とともに桃色に染まっていくのを自覚しながら、「ひらけ! ゴーレム!」という言葉に気力を振り絞って最後に確認したのは、灰色の壁の展開だった。
閉じられた屋根を見上げながら、チヅルは安堵していた。
コレで思う存分、と考えてすでに毒されていることに気がついた。
「うぅっ、思考がピンクだわ………。あの子たちもコレを経験したのかしら。第二次性徴前かな? 後かな? んっ、はぅ……。こ、この膨張…率って……。」
冷静なのか、そうでないのかイマイチ分からないチヅルであった。
「やっと、データが来たわ。それにしても、チヅママも大っきくなったよね。ね、コヨミママ、そう思うでしょう?」
ややこやしい名前呼びをするシュガーを、コヨミが冷めた視線で答える。
「シュガ姉ぇ、私の方が年下なんだからママ呼びはしないで欲しいな。それにあなたたちの待ち望んでいたデータなんだから、ロストしないようにしないと怖いおじさんたちがやって来るわよ?」
転送されてきたデータは、魔テリアルとして、ゴーレム倉庫の内壁の一部と、カチューシャの中にいたスライムの核だったため、ゾーディアクからのものではなくステア産の物質だったためにこちら側での改良も可能であった。
「本当だね。あっちから送られてきたNスーツはわたしたちよりもボンッ、キュッ、ボンだし……、いいなー。」
後に、しばらく活動採取したあと地球産の収穫物を持って、ゾーディアクに戻っていった彼女たちは羨望の目で見られることになる。
持たない者たちが、持つ者となったが故の……。
「おっとと、モンライ流の体捌きでも、重心が流されてしまうわね。足捌きを利用しても、体幹の補正が大変だわ。」
メロンを抱えたティアとチヅルの苦労は、かなり後まで尾を引くことになる。