不等価交換と、等価な時間軸
気象魔法とのコラボは、まだまだ続くよ?
ヤケに突っかかってくる年下の少女が画面の中で笑みを零す。
途端になぜかこちらは、癪に障る。
年下の割には大きな彼女の胸部装甲が気にならない訳ではないが、それはそれとしてそれ以上に気になる存在と変化していた。
そう、彼女が伝えた言葉がきっかけ。
「工場長さん?」である。
だって、チヅルのことをその名で呼んできた、あちらの小さな彼女の正体にチヅルは気づいてしまった。
『気にはなっていたのよね、彼女のこと……。』
そうなのだ。
不覚にも、異世界化した地球にいるチヅルにも相手が誰なのか分かってしまった。
『ファクトリヱ』という呼称を自称していた当の本人としては、分かり易すぎる呼び掛けだった。
だって……、艦内工場の稼働報告のための日誌にサインするときは必ず用いたものだった。
三姉妹が居て、ライトンを手なずける人物が居る。そして、彼女の言動。
「いつだって、私たちは一緒だった。じゃあ、今でも一緒っていうことでしょう? コヨミさん?」
チヅルが問い返した。
問い返されたコヨミは、「そうみたい、一人合流が遅れているのだけど、ね。」と呟いて苦笑いしていた。
「ドラゴンステーキは、届いた?」
コヨミの言葉にチヅルはハッとする。
あちらのシュガーたちが「人生初」とか言っていた相手は彼女たちの「母様」……。
詰まるところ、こちらで言えばティアだ。
ということは…………。
「て、てててててててて、……ティアの料理ってこと?」
そのものの言い様は、推して知るべしであろう。
「そうよ。それに関しては、あなたも一緒だったでしょう? わたしも、彼女も気づいてからは競争だったもの。旦那様獲得のレースは過酷なのよ?」
遙か彼方からの通信とは思えないほどのクリアな会話に、入ってきたあちらの情報になぜかアタフタしてしまう。
それに、今はワタルがメインで料理を作り、彼女たちは饗しているだけに胸が痛かった。
そんな会話には一切入らないで、Nスーツを詳細に検分していたティアに異変が襲う。
「こんな破れ方をするなんて、膨張率の度合いを超過しているわ。どうやったら、こんな弾け方になるのかしら……。それこそ、一気に膨張した……?」
などと、ブツブツ言いながら手に取って矯めつ眇めつ原因の究明に入っていたティアは、自身の拙い、もとい貧弱、もといスレンダーな胸部装甲に、むず痒いような痛いような不思議な感覚を感じ始めだした。
『地平線女神の希望』の発症であった。
「あぅ…、アタタタタ、痛い? でも…、痒っ。何これ……んっ、あ、やっ。」
ティアの嬌声に男性陣が顔を赤くしながらも視線を外せないでいた。
その感覚にティアは呑み込まれ、自分の体をかき抱いて蹲ってしまった。
「あ…、始まっちゃった……。男性陣を追い出さないと、大変よ。あなたもなっちゃうといろいろとまずいわよ。」
という、コヨミの忠告にチヅルは素直に従った。なんせ、コヨミはコレの経験者のはずなのだから。
「あんたたちは、服を集めてきなさい!」
そう言って、男性陣に即座に指示を出して、表に叩き出した。
「わ、分かった。サイズ的なものも含めて、さ、探してくる。」
リュウを筆頭に男性陣は駆け出していった。ちょっと前屈みになってしまっているのは仕方のない反応のようだった。
「全く、あいつらは……。う……ンン……。」
そう言っていたチヅルにも、異常が発生し始めていた。何とはなしに体が熱いような気がしていたからだ。
とは言うものの、いま繋がっている通信だけは切ることが出来ない。
切ってもいいが、現在同期している時間、時代に再び繋がるなんて奇跡、起きるはずもない。
かといって、このまま悶えているティアに触れる訳にもいかない。
チヅルまでが感染したら、こちらでは対処のしようがないからだ。
だからといって、ティアの痴態が相手に流れっぱなしというのも、問題がありすぎる。
「感染してしまったか……。」
そう、画面の向こうから聞こえたのは幼くとも、威厳を漂わせる声。
だけど、懐かしいと感じる声でもあった。
チッン!
「いま送ったそれを展開したまえ。遮音性の高い倉庫だ。家具付きのな。古いなじみからの贈り物だよ。この通信はこちらで保持しておくから。あとは男性陣と少し詰めておくよ。」
「新型倉庫を渡すなんて……。セトラくん、太っ腹ぁ!」
コヨミが叫んでいた。
「新型だから渡すんでしょうが、旧型には付けていない装置がついているよ。」
「自爆装置?」
コヨミは特撮も見ていたのか?
「自爆なんかしないよ?」