等価交換と、不等価な時間軸
二作が交差してますのでこのお話も、そちらと一緒です。あしからず。
『ドラゴン・ステーキ? ご飯? 父さま、わたしたちも出前したい。母さまの手料理なんて、そうそう味わえないもの! って言うか、人生初? ジェル姉ェもキー坊も要るでしょう?』『『もちろん!』』
小さな窓の向こうから聞こえてきた声と言葉は、衝撃を伴っていた。
三つ子だって聞いた……。自分たち以外で『ジェル姉ェ』も『キー坊』も居るなんて、あり得なかった。
「「「うっ…そぉ?」『ジェル姉ェ』?」『キー坊』?」
画面越しに届いた、彼女たちにとって耳慣れていた言葉の羅列に、異世界化した地球に居る三人娘は目が点になっていた。
その様子をスクーリン越しに見ていたコロニーに居る方の三人娘の関係者としては、頭の痛い事態になったことが見てとれた。
コロニーに居る方の三人娘が出前を要求したのは、『父さま』であり、『母さま』の手料理なのだから。
しかも「人生初?」とか言っていたし…な。
ああ……、芋づるか………orz
俺がこちら側で戦々恐々としていると、爆弾発言が……。
「ひょっとして、ガァ姉ェも居る?」
小さい方のクッキーの言葉は引き金を引いた。
「『何回言ったら分かるの? わたしはアヒルじゃないって言っているでしょう!』」
二つの画面から、タイムラグ無しで飛び出した言葉に、その場が凍った。
「「「「「「「……は? いま、重複した?」」」」」」」
「はぁ……。なるほど……、ライトンが帰ってこない訳だわ。」
何かを諦めたような、何か達観したようなチヅル・ファイヤー様が異世界化した地球の景色をバックにアンニュイに微笑んでおられました。
「彼女たちが、そうなのだとしたら…、彼女たちが言う『父さま』と『母さま』ってそういう事よね?」
ドラゴンステーキを転送し終えた俺は、地球に居る方のチヅルとの会話に捕まっていた。
「まぁ……、そういう事だね。」
そばには、俺の嫁たちが集まってきていたが。
「セトラ君はね、わたしのダンナ様なの。色目を使わないで!」
「コヨミ……。」
俺の腕にしがみついたコヨミ=チヅルの発言に、スクーリンの中のチヅルが柳眉を逆立てる。
「いい度胸ね。あなた……。」
なにか向こうのチヅルの背後で黒い何かがザワザワと蠢いていた。
いくら彼女が過去の自分自身だからと言って、わざわざ挑発するのもどうかと思う。
「もう、あなたには追いつけないんだから。」
そう言って、胸を張って見せていた。
え、何のこと?
「はあ? ………あ! そ、そそそそそれは?」
「気付いたようね。『地平線女神の希望』っていう名の風邪のおかげ。あなたたちが感染するかどうかは運ね! それに必要な食材もあるのよ。」
こちらのコヨミ=チヅルは一〇歳、スクーリンで対峙しているチヅルは確か一六歳だったはず。
その胸部装甲には、すでにチヅルが挽回できるかどうかが不明なくらいに大きく差が生じていた。
それにしても、運って……。あちらには、ショッツが居ないし、風邪の菌も………。
いや、まて……。
アイツら、それを分かっていてスーツを渡したのか?
「く…、くくくく、くー。」
チヅルの地団駄が聞こえるようではある。
「万が一、感染しても、その食材の有る無しでは、伸び率が違うわ。わたしは二つだったけど、こちらの人で六つも大きくなった人が居るもの。」
コヨミ=チヅルは、その可能性を示唆する。
「でも、Nスーツの改良も出来ないような人たちには、教えてあげないわ。だってそうでしょう? 工場長さん?」
その揶揄するような口ぶりに、眉を顰めていたチヅルは謎の呼び掛けに、ハッと何かに気づく。
それは、過去に自分が拝命した艦内工場の工場長の読み方をそう呼称していた。
自分の腕を見せる場所として。造れないものなど無いという自負とともに。
愛用していたもの。
そして、自分以外は絶対に知らないこと。
「そういう事なのね。」
チヅルの目に、炎が見えた気がした。