49, 物々交換ですか?
あちらとこちら、必要な所は入れていこうかと。そのうち始めます。
「チッン!」
その音はいきなり聞こえてきた。
「えっ、なに今の音。なんか過去文明の映像データに出て来た音によく似ているわね。」
謎の音の解析をしたティアの声に反応したのは、チヅル。
「来たのね!」
チヅルの声が弾んでいた。
「来た? 何が?」
ティアは今ひとつ反応が鈍かった。
「通信販売の相手からのお知らせよ!」
ティアとチヅルの会話に、男どもは口を挟まない。過去に何度も誰かが口を挟んでは、双方からキッツイお言葉を頂く羽目になっていたからだ。
キィという音をさせて箱の扉が開いていく。
箱の扉を開けたのはチヅルで、覗き込んだのはティア。
ところがティアの目が点になった。
「チヅルぅ、リストが変わらずに有るだけだよぉ。」
その言葉に「えぇっ?」と呟いて青ざめた。
「そんな? バカな?」
何かの変化が有ってそのままなんてあり得ない。そんな考えを頭の中で巡らせながら、チヅルはティアからリストを引ったくった。
「こ、このリストは……、わたしの……じゃ、ないじゃない!」
リストの内容をそのまま精査する。
その中身のあり得なさにあのチヅルが絶句していた。
「セトラの欲しいものリスト」
胸サイズの大きい衣服 下着類を含む女性の衣服。
各年齢の物、各サイズ毎に、サンプルとして。
それに伴い発注する。
Nスーツ及びアンダースーツの発注生産。
Nスーツの魔テリアル、及びデータの変更。
対価は、要相談。
「Nスーツ? このデータの変更? 魔テリアルの材質も変更って? どういうこと?」
通信販売の相手先からのリストに疑問が生じた。
同じ科学レベルなのかと。
だとしたら、この箱だけでの遣り取りというのは、それこそあり得ない話だった。
チヅルの言葉のそれに反応したのはティア。
「え、Nスーツのデータ? あなた、このあいだ更新したばっかじゃない? なんでそんな事に?」
そう、問い掛けられて慌てて添付された情報を確認したチヅルに驚きが広がる。
中折りになっていた部分に詳細が書かれていたのだ。
「か、風邪で、女性のバストが二カップ大きくなっちゃったって、あり得ない! なんで、そんな羨め疚しいことに……。で、弾けちゃったって書いてあるわ。」
「弾けたぁ……。チ、チヅル……、なにそれ? 風土病とかなの?」
ささやかな自分たちの胸部装甲に、その事実は重たかった。
気になることの一つだったから。ずっと、気にしていたから。
リュウやウッディは、彼女たちの事実を詳細に知っているだけに何も言えなかったし、アーシィは自身の主義のためにノーコメントを貫いた。
ワタルも彼女たちの人種的なコンプレックスは理解できた。
自身の身長が物語っていたから。
そして、ゴルディアは黙して語らずを貫いた。
突いたが最後、嵐になるのは理解していた。実に懸命である。
と、リュウがある事に気付いた。
『セトラ………? 母の方の系譜に何人か、その名前があったはず。でも、十二人は居たような? 地球大壊滅以来、途切れていたのがなぜ、今になって……? アレ……、地球最後の人物の時に、近くにさっきの二人に似た姿の著名人が居る。……ヒリュキとシャイナーって地球連邦主席だったはず…………………………まさか?』
ダラダラと冷や汗を流して沈思黙考しているリュウに、チヅルがティアを伴って近づく。
「さっきから何を百面相しているのかな、リュウくん?」
その問い掛けにギクッと身を震わせたのはリュウ。くん付けで彼のことを呼ぶ者は居ない。居るとすれば、何かを見つけたときの彼女たちだけだ。
そして、その追及の顎から逃れられた者は居ない。
「どっかで聞いたことの有る名前と関連していた彼らのことを思い出していただけだよ。」
いたぶられる前に素直に話してしまおうと、リュウは考えてそう告げた。
「「彼ら?」」
「さっき、跳んでいった人たちだよ。ヒリュキさんと、シャイナーさん。」
リュウが告げると納得したようである。
「「ああ、なるほど……。」」
「「って、リュウ、セトラって人のこと知っているの?」」
「母方の系譜のどっかに十二人くらい居るけど……。そのリストの名前がその人と同じ人とは限らないでしょ?」
「「そ、それはそうなんだけど……、情報は多いほど良いのよ。」」
ティアとチヅルがシンクロしている。不思議な光景だな。
「それに、その当時の人はNスーツなんて知らないよ。」
言われて気付いたのか、ひどくショックを受けていました。
「「あ~、それもそうよねぇ。」」
「チヅ、ライトンから窓が来たよ。」
項垂れてしまったティアとチヅルの二人にそう声を掛けてきたのはウッディだったが、彼は彼でなぜか狼狽えていた。
「窓? ライトンは戻ってこないの?」
チヅルの問い掛けにウッディが困惑していた。
「あちらに、居るって言ってる。で、窓だけ送ってきた。」
彼が見せてくれた窓には、ライトンが抱かれているようで、抱いている当人の一部が映っていた。
「こ、これは……。ライトンが懐くって、ウッディ以外居ないのに。」
圧倒的で豊満な胸に抱かれていた。
『ふふふ、いい子ね、ライトン…。』
そこに居たみんなは、ハスキーな声が傍に居る誰かを思わせて。鳥肌を立てていた。
「…………さ、寒い。」