45, 箱のモノ…がたり -①-
「な、なに、何を言うておる。ワシは……」
見事な慌て振りに、周囲から失笑が漏れる。
「たかが、一つの国の冒険者ギルドの長でしかないあなたが、どうやって他の星に居る生命体とコンタクトを取れるというのか証明して頂きたい所なんですが……」
ティアの問い掛けにぐうの音も出なくなったジル・バードマンは嘆息していた。
「むぅ、つい新しい技術に目が眩んでしまったわい。……致し方ないな。ティアの言う通り、わたしがジルハマンだ。そして、その箱はわたしが正式に当人から譲って貰ったものだ。」
そう言ってガッチリと抱えたジルハマン氏でありました。
「はぁ……、でもそれどうやって使うんでしょうか? オレ使ってみたいんですけど……。」
そう根本的な問題を突いたのは、リュウだが、彼も先ほどから何やらジルハマンの抱えているその箱が、気になっている様子。
というか、その手に握っているのはリュウのおじいさんの母方の家系で伝わってきていたニッポン州の記念硬貨なんじゃないの?
焦るティアにリュウが、首を振る。
「違うよティア。これは記念硬貨じゃないけど、じいちゃんの形見なのは間違いないよ。ホシノ家の遺産さ。ほら…、レインボゥチームのリーダー、トーミ・レーナさんと同じ血統系譜のね。」
そうなのだ、リュウの実家のサームアンドゥ家は、今でこそ押しも押されぬ超巨大企業ではあるがその成り立ちは、地球という星があった頃のチャイナ州系企業のソン家とニッポン州系企業のアンドウ家のごくごく小さな出会いから始まった。そう社史の一番最初に記載がある。
何故トーミ・レーナがリュウの血統系譜に登場するのかは、ティアにも分からないがそれはやはり守秘義務なのだろうとは感じている。
そのうち、話せる事は話してくれるだろう。いつも、そうなのだから。
わたしにもまだ秘密があるのだし……、しょうがないね。
ティアがそう思っていると。
「ティア、何かこれメニューが選べるみたいだよ。………わぁ、プリンがある!」
リュウがそう言った瞬間だった。
「マジで?」
ジルハマンはもちろんの事、フェアリー種も「チャァ」や「ルゥ」までもが集結した。
「異世界のプリン……、あれ? プリンって地球の言葉じゃないの?」
不思議がるリュウにチヅルが答える。
「本当よねぇ……、プリン、プディング、ブリュレなど地球でも多彩にあるはずの名称なのに、いま居る地球には無くて、異星の世界には有るってどんだけなんだか……。」
「ともかく、出せるってジルハマン様が言っているんだから、試してみようよ。リュウのソレって三枚有るの? そんなに無いんだったら、あとの複製はジルハマン様に頼みましょう?」
そうティアはジルハマン様を見ながら、その眼ヂカラで「出来ますよね!」と、明確に問い掛けていた。
「う、うむ……、しょうがないのぅ……。リュウ、ちょっと一枚貸してみなさい。」
旧地球のニッポン州で製造していた五〇〇ギェン硬貨一枚をリュウが渡したところ、ジルハマン様は矯めつ眇めつという風情で、てっくり返しのひっくり返しのしていたが、何やら頷いた。
「うむ、確かにわたしの管轄している物質のようだな。もし、使えたのなら同じ価値のものは融通できそうじゃの。……ホレ、この通りじゃな。」
そう言うなり、彼の手のひらに五〇〇ギェン硬貨とそっくりなコインが、ぼやぁと形作られる。固定化する前に消えたが、ジルハマン様の力の一端を垣間見た気がした。
「なんやかんや有ったけど、ともかく入れてみよう。ん~と、あ、このスリットから入れるんだな。プリンを選んで……と。ポチッとな?」
リュウがブチブチと良いながら、コインを入れていく。ゴーレムボックスに吸い込まれた三枚の五〇〇ギェン硬貨は、無事にゴーレムボックスを作動させた。
「さてさて、鬼が出るか、蛇が出るか……、わくわくするな。」
「鬼ならその辺にいっぱい居るから、それは要らないわ。」
ティアの冷めた答えが返ってきた。
やがて、チーンと音がしたので、リュウが扉を開けた。
「こんなに出るとは思わなかったな。」
あの三枚の硬貨の効果はスゴイもので、『何人分?』という問い掛けがメニューに出たから、試しに全員の数を打ち込んでみた。
七人と、一人と、三人と三人、フェアリーの七人、ライトンを除いた使い魔の六体、締めて『二十七個』と打ち込んだところ、『久し振りに見たな、この硬貨。お礼だよ。』との文が付属していて、一人に三個は当たる計算の八十一個が送られてきた。
次から次から出るから、ジャックポットでも引き当てたかと思ったよ。
いや、本当にマジで。
「わぁ、まだ出てくるよ。もう止まって~!」
リュウを含めた全員の切実な思いでした。