39, マキシ・マクド・マクシ・マキシマなる放浪者
彼は、今の世界が嫌いという訳ではないのだが、この大地に在れることが堪らなく愛おしいとも感じているのに、満たされない思いもまた感じていた。
贅沢な悩みだと人は言うだろう。
だが、あの激烈な戦いの中に在って明日をも知れない身の上だというのに、彼は、その戦いの中に存在する強敵に心躍らせていたのだ。それは、目の前にいる存在もそうなのだが、遙か後方でありながら、目の前の存在に重なるように感じられる存在にも同様に彼の心を浮き立たせていた。
わずかの差で彼は生き残り、目の前の存在は消えてしまった、否、後方の彼を護るかのように、意識の皮膜を拡げてくる。まるで自分たちをも護るかのように。
こんな相手に惚れられる者は、さぞかし………。
そのまま、後方の彼に意識を送りたかったのだが、それが果たせないまま、戦いは唐突に終焉を迎えた。
「君の護りし者の意思は、すでに君と共に在る」
そういったメッセージを送りたかったのだ。我々の耳の上に存在するツノは、それを可能にするし、後方に存在する彼も何かしらのそういった能力を持っているようで、わたしには可能だと思ったのだ。
だが、結局はそれも叶えられないまま、『あなた達の代価は支払われた。次の大地が待っています』……という、メッセージによって、我らは今の大地にたどり着いた。
ここはかつて、我らが住んでいた世界とは比べものにならないほどに小さなものだが、わたし達にはとにかく土が必要不可欠だった。
作物を得る、土に遊ぶ、泥を食う。
そういった他愛もないことが、ひどく嬉しいものだった。
だが、大地を得て、我々も次世代の者も変わってしまった。
たまに何処かの世界から降臨して来た者たちに対して、悪戯を仕掛けるようになったのだ。かつて、我らが他種族からのその行動に悩まされていたというのに……。
これも時代の流れの成せる業なのか?
今日もまた、降臨した者がいるらしい。
だが、妙な感覚も巻き起こる。
いつか……、どこかで……、遙かな過去の中か……。
いや、言い訳はあとにしよう。
この感覚は、あの時の感覚にひどく似ている。そう思った瞬間にわたしは執務室を飛び出していた。厩につくと愛馬を引き出し、その感覚の繋がりを目指すように駆け抜けた。
だが、そこに有ったのは巨大なディノニクスタイプの頭だけ?
「客人たちはどこだ? また、例の企画とやらか? マグナ・マキマキ・キフォン都市長、出てきて説明しろ」
この祭りと称する悪戯には、わたしの息子も率先して参加している。
だが、今、あいつの姿は見えない。
これは相手の方が一枚上手だったか……クス。この都市の南側に広がる広大な原始林には、この手のディノニクスが多数生息している。それをここまで頑丈に出来る技術は大したものだ。
「これは……。」
そう、呟いた者が居た。角の無い、だが、何処か近しいものを感じる者だ。
違うな、わたしを包むヴェールの一部が懐かしさを感じているのだ。
「そうか、お前がヒリュキ……か?」
その者は振り向くと同時に何もかも分かっているかのように頷いた。
「そうか……。あなただったんですね。」
この地でなければならず、この時でなければならない絆がそこに在った。
「「パット、会えたぞ……やっと。」」
“本当……、二人とも、久し振り。”
空耳か、と思ったのも仕方ない。そんな風にメッセージが流れ、二人の意識はあの時代に遡っていった。
悲しい別れでありながら、受け容れつつも、受け入れられない、そんな出来事を二人は追体験していた。
あの日の出来事を。
今なら分かる、意思と恣意の交感。
そして、何故か未来に繋がるイメージ。
それは、光の扉という符号。以前のメッセージも、関係する同じものだった。