38, レシャードなる放浪者
逸話によると、世界が統一戦争を行っていた最中の話、ある遺跡から光り輝く扉を開けてこちら側に来てしまった人物がいた。
栗色の髪を黄金の兜に押し込めて、晴れた日の空のような瞳を持ち、その体も黄金の鎧に包まれた一人の男が、こちらの世界に降り立った。
「ここは……。エテルナを助けにいかなくては……。何故だ? 体が重い……!」
「! い、今あなたはなんとおっしゃられた! エテルナ様のことを助けると、そうおっしゃられたか? 有難い、今は非常時ゆえ一人でも多くの武将が欲しいところ。」
レシャードは、いきなり声を掛けられて驚いた。
目の前に跪き、両手の指を絡ませて祈りの形を取った多くの騎士がそこに居た。
驚いた目で見られていることに、彼も驚き後ろを振り返る。
自分の後ろには黒い大きな一枚岩が突っ立っているばかりだった。
自分は光り輝く扉に吸い込まれてしまったのでは無かったか?
そう思い出しながらも、目の前に居る騎士みたいな男たちの身なりを観察する。
『鑑定』と、そう念じたはずだったのに、体からも魔力が抜ける感じがしたのに、一向に発動されないことに焦った。
しかし、この大地や森からは微弱ながらも魔力は感じる。
「そうか、ここの大地の魔力が痩せているのか……」
なるほど、浮遊の魔力も吸われたのか。ここでは濃い魔力のみが受け付けられるのだな。しかし、この者たちの望みが私と一緒とはどういうことなのだ?
魔法の吸われ方からして、私の居たところとは違うようだが……。
「!」
ここは、もしやエテルナが良く睦言で忘我の時に言っていたシャイナーとかの故郷か?
あり得る。既に帰る扉は閉じられた。では、その時まで、こちらにいるエテルナを護る。
「貴方様の御名をお伺いいたしても……」
そう問い掛けられてああ、と思った。この地はやはり異郷か、と。
彼方では、知らぬ者のないこの身の上だったからな。
「ああ、すまない。私の名はシャレー・ド・レシャード。よろしく、頼む。」
一応は笑顔で告げた。周りの反応は様々だったけれど、ね。
「まさか、レシャード様が……、お手伝いくださるとは。」
その物言いは何か不穏なものがある。こちらにいるヤツは、何をやっていたんだ。
「戦の前に出奔して行方知れずになっているはずなのに、ここから現れるとは、これも神のお導きか?」
その呟きを聞いて、私は頭を抱えた。戦う気がどこかへと雲散霧消した気がする。
まぁ、いい。汚名は雪がせて貰う。俺の名を騙るもののことなど知らん。
「戦場はいずこか?」
今はこちらのエテルナを護ろう。いずれは、繋がるやも知れん。
彼の者シャレー・ド・レシャードは史実の中にその名を刻んだ。
時の女王となられたエテルナ・カリーナ・フーテンの夫として。その勇猛な戦いは絵師によって描き起こされ、エテルナ女王の墓所として、有名な聖堂の壁を飾っている。
エテルナとレシャードの娘は代々パトリシアを受け継ぎ、宇宙に進出してもなお、勇猛に戦ったとされる。
エテルナ女王の墓所はあるが、レシャードの墓所は判明しない。時の狭間で戦っているという記述が残るだけである。