呆れるもの、驚くもの
久々です。
「俺のヒヨコ、白蛇の『メビュース』は、空間系だと思うんだけど、今のところは『位相制御』の効果の増幅がメインだよ」
そう告げるのはソルトだけど。
その『メビュース』はソルトの頭上に直径一〇セチくらいの太さで鱗の隙間から羽毛ののようなみっしりした白い毛でとぐろを巻いているために、チヅルは何とも言えない顔をしている。やはり何かを連想したのだろう、それは爆笑一歩手前の顔。
「わたしのヒヨコ、白ふくろうの『ボウル』です。見ての通り、まん丸ですが、耳が可愛いです。隠密索敵と、高速思考の補助がメインです」
ジェリィのヒヨコは、白い毛玉に黒い目と薄い黄色のくちばしを持ったフクロウ。瞼を閉じ、嘴を羽毛の中に入れると、『ボウル』の前後が分からなくなる。彼女の能力の補助をメインにしているが、これもまた何か隠された能力を持っているようだ。まじめに擬態したら、ゴルの『マリ』と見分けが付かない可能性が高い。
「ボクのヒヨコは、蜘蛛の『雲くん』。本体は雲の中に隠れているんだよ。糸投げとか高速組み立てとか得意かなぁ」
そう言って頭の上に浮かんでいる白い雲を指差すキィ坊。よく見ると長い透明な手足が白い雲の下に光を僅かに反射してたなびいている。初め、産まれたときはフワフワと雲の体だけで浮いていたそうだ。海の中のクラゲを思い起こしてしまう。
「あたしのヒヨコ、クロス・マペットの『クマP』」
シュガーのヒヨコ(?)は、パッと見が五〇セチ丈のヌイグルミなのに中身は包帯のようなものが詰まっている。シュガーの練習する型を真似してビシビシッと動いていた。それを見ているシュガーは、やや苦笑い。
「母様もあたしを見ているときはこんな感じなのかな?」
チヅルもハハハと苦笑い。
「僕のヒヨコは『迂つ環』という見てくれの銃というか砲台? 僕の力で制御しないと真っ直ぐに弾が飛ばないんだ。でも、こいつは分身出来るって言っているから、成長するのが楽しみだよ」
ミントのヒヨコは、想定外の手乗りサイズよりちょっとだけ大きめのミニ砲台だった。
竜の落とし子の尻尾みたいに丸い形のもので、ぷかぷかと空中に浮いてミントの周りを子犬みたいな動きをしていた。で、分身? 〇ァンネル?
「そ、そう…」
タラリと顔に汗しているチヅルに気付かずに、「狙撃銃モード……〇い撃つぜ」と、呟くミント。丸い形がちょっと変わって伸びた。
ハーヴの手の中にはレイピアなどに付いている鋭角的にゴツゴツしたナックルガードが直立で浮いていた。妙に手に馴染む形でゴツゴツしているそれは、片手だけの大きさでは無く両手で掴めるように微妙に大きく細長い。
ハーヴはそれを無雑作に両手で掴むと左腰に据え、右手を大きく振り出す。ナックルガードはほぼ真ん中から別れ、仕込み杖のような反りの少しある白刃が伸びた。長さ三〇セチに満たないそれから出た刃は、あり得ないほどの長さを持っていた。一メル半もの長さが有り、チヅルの目力による硬度の数値はダイヤモンドの数倍、もしこれが考えていたものと同じだとしたら神代の金属ということも考えられる。
「ハハハ……母さん、お察しの通り俺のヒヨコは想像通りのソードタイプでクリサリスの『空』、まだ蛹だから変態? 変形? するみたいだ」
ハーヴの苦笑いが分からないチヅルでは無かった。三種の神器はどうやら生まれ変わったらしい。ということは、ソルトの『メビュース』に隠された性質は、ミラーのようだ。
無限は鏡の中にもあるし、そういうことなんだわ。
理知的な瞳に微妙な諦め感を宿して、仲間達の様子を覗う。
「はぁ、わたしの苦労を台無しにしてくれるわね。ジルハマンという方も。いいわ、わたしも遊んでこようっと。行くわよ、『フェニック』?」
事ここまで進展してしまったら、後はもう、運を天に任せてしまう以外に何が出来るというのだろうか? 諦めの境地でチヅルも最前線にいる友の横まで駆け寄っていった。
「ティア、わたしにも頂戴!」
ひとまず、自分たちのような小さな餌を先を争って喰らおうとしている恐竜たちを撃退しなければ、まともに嘆くことも出来そうにない。
「『クマP』、着装!」
その掛け声とともに『クマP』の中身が飛び出した。その短い手足の先の穴から包帯らしきものを噴出した本体はそのままシュガーの背中にしがみついた。まるで〇クセリオンのように。
「はぁあああ」
腰を落とし、『クマP』を身に纏ったシュガーは左手にシールドを出現させ、右手を腰に控えて、気を練っている。小さな体が、『クマP』を纏っているお陰で大きく見えていた。
素早く踏み込みつつ右手を突き出せば、気の乗った拳で五メル級の数頭がもんどり打つ。
衝撃が体の芯を打ったのだろう起き上がれないでいる。そこに蜘蛛の『雲くん』が到着し、蜘蛛糸を編んで繭にしている。真ん丸だったフクロウの『ボウル』は、その形状を細身に変え、ジェリィの手の中から放たれては戻るブーメランを演じている。あんなことも出来るんだな。
同じブーメラン軌道を通るのはワタルのスワロー弓術。『シャンマタ』の能力なのか、ワタルの本来の力なのか不明だけど、確実に急所をとらえていた。
梱包され動きの止まった恐竜たちを転送するのは『ライトン』と『メビュース』。
『マリ』はデータを各員のホロキューブにデータを転送し続けている。たまに空まで上がってくる恐竜の頭を浮遊するために回転させている脚でカッティングしていた。
アーシィのわんこ『トリケラ』は『トーリ』『リルケ』『ケーラ』の三頭に別れ、サイズは子犬並みに小さくなるが、威嚇と牽制に終始している。アーシィは右腰に付けていた大型拳銃『Bb凹』に左腰のホルダーから複層バレルを取出し装着して飛行型を打ち落としていた。複層バレルは、それ自体に攻撃力は無いが、煌めく意思力みたいなもので、軽く丈夫な電磁誘導砲を構成し、砲台として支援していた。
「………………、あ、あれが、あいつらの本気ってヤツか? 今までと違うことは分かっているけど、こんなに……違うのか?」
去年の艦内のチーム対抗戦で大活躍したうえ優勝し、賭金と賞金のほぼ全てを手中にしたティアが凄いのは身にしみた。だけど準優勝のリュウが本来の姿を解禁した今は、そのティア自身の動作が霞んで見えるほどのものだった。
その細身の体のどこにそんなスタミナが潜んでいるというのか?
「あれは彼らの本来のスペックでは無いよ…」
周りの人間が蒼醒めているところに水を差したのはタガワ総帥。会長と二人して観戦していた。
「あの星は、あの大きな竜タイプが生存しているが、本来の一G重力下での条件では動くことさえままならないはずだ。あれを見たまえ、あの飛龍タイプは羽ばたくことすら行わずに飛翔し、旋回、空中停止を行っている。彼らは、濃厚な…海の中にいる」
タガワ総帥の言うとおりに一〇メル級の竜達は鈍重では無く、力強くそして素早い動きを遅滞なく行っていた。
かつての考古学者の定説には、大きさと重さの関係と行動の素早さの関係には踏み込んだものがなく、滅亡前の地球において最大級の鯨を追い立てたのは数サイズ小さいシャチで有り、三〇メル級のシロナガスに至っては餌は数ミルから数セチまでの海洋微生物。ゾーディアクのような科学の産物であっても大差なく巨大なものが動くときには、宇宙のような酷薄の空気でさえも、その重さ自体が枷となるというのに、あの竜タイプはそんなことなど関係ないかのようだった。
「あの大地には、魔テリアルが充溢している」
タガワ総帥も今は感じられるようになっていた、その魔テリアル。
ゾーディアクでも多くの者たちに影響を及ぼしていたほどの。
「今、我々の世界で暮らす者たちの中で彼らほど、魔テリアルに近い性質を持つ者たちは居ない。彼らのチーム名はそこから来ているのだからな。今は『セヴンディズ』だが、以前は『エレメンツ』、精霊に愛されし者という意味を持っている。これは他のチームも同様だ」
タガワ会長の言葉に自分たちのチーム名の由来に驚く者たち。そして、納得する。
「ああ、そうだったんだ」と。