な、何者だったっけ?
「う、うぉぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…………………」
転移するのも初めてなら、地上へと真っ直ぐに落下するのも初めて、それこそ弾丸のように。しかも、耐熱宇宙服などでは無く、Nスーツのまま。
何しろ、『ルゥ』は初めてのお使いで舞い上がっているうえに言うこと聞かないしで、柔らかそうな樹海が目に入ったときは、すごく嬉しかった。その『ルゥ』は何か非常に上機嫌で近くの木に留まったまま『ルゥゥゥゥゥルルゥル』と囀っていた。
「あ~、帰りど~しよう?」
と、ボー然と空を見上げて感慨深そうに遠い目をしていたリュウは、自分のすぐ側に落下してくる六つの物体に気付いた。
「あれ? ひょっとして引き金引いちゃったかな……」
たぶん『ルゥ』の行動に感化されたのでは無いかと思い至ったのである、ようやく。
とにかく、それくらい頭が回っていなかったのだと気が付いた。
「「「「う、うぉぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…………………」」」」
「「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…………………」」
地響きを立てて突き立ちそうだった、その六つの物体は地表数十センチ位の所で落下速度を中和し、軟着陸する。
地面に立ったまま、ふよふよと浮遊している六匹?のひよこ達は繭を形成していた。
『チャァ』や『フェニック』、『ライトン』や『トリケラ』には羽があったから、その形も考えられないでは無いが、他のはどうやったんだろう?
朱い繭が解けて中に居る人物を外へと軟着陸させた。ヘルメットも何も無いNスーツのままのチヅルが姿を顕した。『フェニック』はひよこの姿を取り戻し、『ルゥ』の隣で気分良さそうに囀っている。
「……あそこから来たのよねぇ……わたし…」
ここまで惚けた感じのチヅルはそうそう見られるものじゃないし、第一いつものしゃきしゃき感が見る影も無い。
『シャンマタ』はシッポを渦巻き状にしていたのを開き、ワタルを外へ出している。
『ライトン』は大きく開いた口の中から、ウッディを出していた、ちなみに『ライトン』の体はミニサイズのままである。どこに入っていたのだろう?
『マリ』は金赤の幾何学模様の体を細長く伸ばしていた体を縮めていくと、ゴルディが出てきた。ヒトデの様な形をしていたらしい。
ワンコの『トリケラ』は、ニッポン州古代史によく登場する縁起の舞、獅子舞のようにかぶり物になっていた。三つの頭の獅子と縁起模様の袴だ。アーシィの体型では無いからこれも『トリケラ』が変化したものらしい。
最後の『チャァ』はもちろん、羽を開いた。だが、出てきた人物は惚ける間もあらばこそ、ツカツカとリュウの前に立つと、睨みつけながら言った。
「行動は考えてやって。この子達は、まだまだひよこなんだから!」
ティアの口から出る炎が幻視できたリュウは、自分も止める間無く大気圏に飛び込んだことを弁明するひまの無いまま、ひたすら頭を下げていた。
「はい…、はい。すいません……」
これは、口答えなど出来るレベルでは無い苛烈な気当たりだった。
「『シャンマタ』、スパロー!」
怒られているリュウを横目に、各自が、行動し始めた。まず、ワタルが、『シャンマタ』に魔弓を指示する。ツバメの様な形の矢がブーメランの様に飛んでいく。
ハッとしたみんなが見たものは、小型の肉食恐竜らしきもの数体。恐竜らしいと思ってはいるが、そこに居たモノは牙をガチガチ言わせている二、三㍍くらいの大型の鳥。ここら辺を縄張りにしていたのか、威嚇してくる。チヅルが、ホロ・キューブを操作して情報を引き出す。
「ワタル、五〇〇ミリカット! 一体確保、よろしく。ウッディ、『ライトン』転送準備!リュウ、シールド展開よろしく。ティアはそのまま、睨んで!」
矢継ぎ早の指示に、各員がいま為すべき事を思い出す。本来、ティアがリーダーではあるのだが、そのティアがリュウに謝罪勧告していたのだ。邪魔は出来ない。彼女の気当たりのお陰で肉食恐竜たちに近寄られないで済んでいたのである。
「ごめんなさい、チヅル」
周囲の確認を怠ったのを素直に謝るが、
「そんなことより、威嚇して!」と、言われてしまい、即座に全面展開する。
「ゴルディ、上空監視!『マリ』を打ち上げて!『フェニック』火球モード、一体、ステーキ温度で貫きなさい!」
いつの間にチヅルはひよこたちの特性を掴んでいたというのか、その絶妙な運用にメンバー達が驚愕する。しかも、ステーキ温度ってなんなんだ?
「『マリ』上空、風車モードで監視。データはホロキューブに流せ」
指示されたゴルディは『マリ』を蹴り上げる。上空一五メートル付近で開傘。滞空する。
『ゴル、東、一〇メル級、数五。北、一〇メル級、数二、…三、来る』
「…………」
何となく悔しい、そうリュウは思った。『ルゥ』が言うことを聞いてくれないことが、凄く悔しかった。自分たちにも何か出来ないか、したいのにそれが出来ないもどかしさ、それがなんなのか分からなかった。
「リュウ、何悩んでいるの?」
ティアの気遣う言葉に、体が強ばっていたのが不思議と消えた。
「…あ、ティア…その、俺…」
戸惑いながらも、なにかホッとしたのは事実だ。
「馬鹿ね、何悩んでいるの、リュウ。私たちは一体、何者だった?」
あっけらかんと言われ、さらに肩の力が抜けた。
「な…に者?……………、あ!」
言われるまで、気付かないにもほどがある、リュウはそう思った。
「俺、いや俺たちは最強のモンライ流継承者だったな」
「じゃあ、することは一つでしょう?」