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夢を見し者

 それは星たちの(ささや)く言葉が宇宙そらを渡る。


『いや……、それは……、わたしは慣れてしまったが、おまえでは……』


『お願いします。大兄上(おおあにうえ)さま』


『始めてしまってから、後悔しても遅いのだぞ』


 必死に言いつのる、歳の離れた弟に対して、諭すように諄々(じゅんじゅん)と話す彼に、


『それでもあなたは後悔していないでしょう?』


『そ……それは……、そうだが……』


 思いもよらぬ形で反論されて歳の離れた弟を説得する言葉を失ってしまった。

 確かに、彼らは『わたし』の身喰い虫だが、その行動の端々に、きらめきを持っている。

 その彼らのすることに興味を抱いているのが、歳の離れた弟なのだが、如何(いかん)せん、彼らと付き合うには興味や単なる関心だけでは理解の及ばない凄まじい忍耐力が必要なのだが……。困惑する『わたし』の心を知らずになおも食い下がる彼に、『わたし』は根負けしてしまった。


『むぅ、それほどまでに言うのなら、一度試してみるがいい。次の流星雨の時に、おまえの石を受け取りし者たちがおまえに対して放つ恣意(しい)の濃さを感じなさい。それはおまえの望みに繋がっているのだから』


 繋がりは一度。細い糸なれど、確実に未来への『(たね)』となるもの。弟の強い希望(ねがい)

 そして、放たれた石、届いた声。


 物事のはじまりはいつも突然で、そして、展開はいつも同じ……。

 一つの物語(ほし)が終わることは一つの物語(ほし)が始まること。

 人間たちの悩みが尽きぬように。終わらぬ夜もないように。

 いつも、『わたし』が見ている夢……。


 それは……、悪夢。


 多くの時間が消え、多くの命を飲み込み、それでも成長してしまう悪夢。

 星に住まう人々はそれを『(くら)き雲』と呼び、怖れた。

 その『(くら)さ』ゆえに、引き寄せられるモノがあり、その侵食に抗う者がある。


 引き寄せられしモノは、魔騎士と呼ばれる存在であり、浸食するモノ。

 その侵食に抗う者こそ、『虹の戦士たち(レインボゥズ)』と呼ばれた者たち。





 太陽暦一八八三〇年。


 城のテラスから、朝日が昇るのを腕を組んで待っている男がいる。

 母星の輝きが夜の帳と二つの月を徐々に早朝の光の中に透き溶かしていく。

 男はこの時間がものすごく好きだった。何にも代え難い時間、そして想いを

持つのだ。いまはまだ幸せなのだ、と。

 そして、これからなのだ、数多あまたの現象を起こしていた出来事のほぼすべてが…。


 そう、時の輪が回る。


 ふと、ひとの気配に気が付いた。腰までの艶やかでサラサラの長い黒髪。出会ったあの頃、リボンで隠していた一房の金髪は健在で、今は解き放たれている。


「ティア、起きたのか。あの子たちは、まだ寝ているのかい……」

 問い掛けたが、反応がない。 よく見ると、半眼の状態。

 

 普段は闊達(かったつ)な彼女のそんな姿は、初めて見たときには脳内のシャッターを押しまくった。

 ギャップ萌え、というやつだ。


 そんな感想を持つ間でも、まだ寝ていた。


 最近、頻繁だなぁ、と男は頭を抱えてしまった。

 なにしろ、彼女が男の名を呼んでくれないと、話が進まない……。


「ティア、悪い癖が完璧にぶり返したね」

 男が彼女と出会った頃にも、この癖は頻発していたことがある。心配事があ

ると、出てしまうようなのだ。


 この状態になったティアを目覚めさせるのはアレしかない。

 そう、王子様のキス。今は王様のキスだが。


 一応、素早く周囲を確認する。

 最近、おませになってきた娘たちに見られると、大変な騒ぎに発展しかねないのだ。

 よし、大丈夫。

 しかし、自分の妻にキスするのに、ここまで慎重にならざるを得ないとは。


「あー、お父ちゃまがお母ちゃまをおそってるぅ、見てみてクッキィ、ジェリィ!」


 来た、シュガーだ。

 名前の割に辛口なのだ、彼女は……。


「あー、おそってるぅ!」


 クッキィ、あのね……。


「おはようございます。お父ちゃま、お母ちゃま今朝も仲がよろしいですね」


 ジェ、ジェリィ、君ほんとに三歳みっつなの?

 三方向から、男の視界に入ってきた娘たちに上目遣いに見つめられて、男は赤面してしまった。


「リュウ、おはよう。あら、わたし、またやっちゃったのね」


 腕の中で身じろぎしたティアが、ぱちっと目を開く。先程までの気だるさも鈍さもどこかに消えてしまっている。


「ああ、またさ。で、あの子たちに見つけられてしまった訳だ」


「そう、おませさんたちね」


「「「えへへ……」」」


 三人が照れ笑いをする。


 いつもの闊達な動きを取り戻した彼女は、三人の娘を連れ立って城のテラスへと出てくる。

 昇ってくる朝日に向かい、祈りの姿勢をとり、太陽に向かい跪く。 


「ねぇ、お母ちゃまぁ、どうして朝日を見るの?」


 ジェリィが問い掛ける。

 彼女は、分からない事をそのままにしておくような子ではないのだ。それが、どんな事であっても納得するまで聞いてくる。


「お花が必要としているからよ」


 ティアの答えに、ジェリィは?マークを顔に貼り付けている。

 シュガーとクッキィは、ジェリィが悩んでいるのを見てさらに不思議な顔をしている。

 幸せな家族の団欒がそこにあった。まるで夢のように幸せな…夢。


 そう…、いまはまだ幸せな夢の中に居る。今は…。


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