愛し合うもの
少々、遅れました。そして、若干短いです。まだまだ、頑張ります。
……、く、黒猫がぁ……。
『エンジン始動。レディアークⅡ,発進準備。目標点入力』
『イェッサ。目標点入力。R5F32,対象名、月』
『レーザー発信器、『鍵』に同調よろしく』
『『鍵』担当、所定の位置へ』
今、リュウたちは発艦の準備を始めていた。
だが、地球へではない。地球の衛星『月』だ。
リュウとティアの手の中で発動した『鍵』は、その存在を消しては居なかった。
ブーンという振動音とともに、行き先を指示していた。地球ではなく、少し離れた位置を指し示す。それが『月』。そこに扉が有るようだ。確認が出来ていないのは、『鍵』を所有する二人がそこに行けていないからだ。他の人員を回して確認しようとしたが、一定の距離までしか、艦も人も進めない障壁みたいなものがあるため、未確認のままだ。
会長の仕込みによる、レディアークⅡ専用ドックより、発艦予定の時間が迫る。
「あ、あのさ。何で俺、ここに座っているのかな? 主計課のも、火器管制担当としても、この席じゃないハズなんだけど……、うっ」
じろりと隣の席から睨んでくるティアの据わった目に圧倒されてしまい、たじろぐリュウ。艦長席と隣り合わせになっている副艦長席に落ち着かない様子で座っているリュウは、そろそろと浮かした腰を再び静かに落とさざるを得なかった。
「この気まずい席に私独りで座っていろというのかしら? 大体、すでに私たちは色々と手遅れの一蓮托生状態よ。チヅルの発明品がこうなるとはね……。はぁ……、データを更新するとか言って調整をするのは良いとしても、その中にこんなデータがあろうとは見抜けなかったけど、他にどんなのが入っているのか。すっごく不安……」
頬杖をついてむくれているティアは普段の紅いNスーツではなく、女の子なら全員が確実に憧れる白い綺麗な服、腰から下はレースカーテンのようなドレープが広がる。ウェディングドレスという物かもしれない。手には、ピンクのバラのコサージュ。
それに対して、何でこんな事になったんだと頭を抱えているリュウは、格好良い白いスーツ、言い換えるなら白いタキシードというところだろう。もちろん、胸には、紅いバラが一輪。
地球探索のため、ティアとリュウが子供たちをつれて、レディアークⅡに乗艦したときのこと。周りで艦の機能の確認操作を行っている面々も自分の好きな色のいつものスーツではなく、黒系でスーツやドレスを纏っている。さながら、まるで今から結婚式をするとでも言うかのように。
って、誰の?と、思っていたら、自分たち、ティアとリュウの…だった。
「確かに、親父が言っていたのは、披露宴のための食材集め。披露宴って、普通は結婚式の後だよなぁ。まさか、その結婚式が今日なんて、思わねーよ。おいおい、発艦ゲートに続く展望テラスに集まってきてるぞ。……何を期待しているのかな?」
そう、ブチブチと愚痴るのを横目に見ながら、白く塗装を変えたレディアークⅡは、最終シークエンスを迎える。
だが、
「サブエンジン、順調に始動中。メインエンジン、起動しません。パスワード設定されています。こ、これは……!」
自分の城だったはずのレディアークⅡにトラップが仕掛けられており、それを解析したチヅルは、つい絶句した。
「パスワードは、声紋登録されています。発信者は、リュウジュ・サームアンドゥ。受信者は、ティアラ・ムーンライト。設定者、仲人代表、タガワ・ランドルフ」
その言葉が終わらぬうちに、ゾーディアク艦橋より一報が入る。
『リュウジュ・サームアンドゥ、そなたに問おう。死が二人を別つまでともに手を取り、助け合い、愛し合うことを誓うか?』
いきなりの全艦放送、というより放送事故を演出したサプライズに口をパクパクさせて、顔面真っ赤で真っ青になったリュウジュ。ちらっとチヅルをみたティアは、彼女が頷くのを見て、小さくため息をついた。選択肢は、二つ。頷くか、誓うか。
「え、あ、うっ、……たっ!」
いきなりの言葉に固まっていたリュウジュは、慌てて、口にした。
「は、はい、毎晩愛し合ってます」
その言葉に、ティアは頭を抱え、レディアーク艦橋は苦笑いが渦巻き、見送りの客たちは、顔を紅くしたりしていた。
「馬鹿っっっっ!」
ティアの心境としては、隠したかった言葉の一つである。
『ティアラ・ムーンライト、そなたに問おう。死が二人を別つまでともに手を取り、助け合い、毎晩愛し合うことを誓うか?』
『ぐ、……は、はい、ち、誓います。毎晩じゃありませんが』
リュウの大失言の言葉を問いに加えてきた、タガワ総帥に対して殺意が湧く。
『良かろう、第一パスワード受領。メインエンジン始動せよ!』
『了解。メインエンジン始動します』
この分じゃ、地球に降り立つという未来はまだまだ向こうみたいだ。