はじまりのはじまりのモノ
やっと、一週間に一話のペースに落ち着きそうです。
「えー、ちょっとした騒ぎがあったが、本来の話をしておこう。諸君たち『セヴンディズ』に秘密の番号が発令された。チームリーダーの指示に従って作戦の実行に鋭意努力してもらいたい。無論、いま同席しているリュウとティアの子供たちジェリィ、シュガー、クッキィと、チヅルとウッディの子供たちソルト、ミント、ハーヴについても現地への同行を許可する」
と、文章的にはきれいな口調に書けているが、実際には本人たちの受けたショックが大きすぎて、総帥と会長がお互いに補完し合いながら、棒読みの状態での指令であった。
「依頼人はマグナ=シルテェ・G・サームアンドゥ、リュウの父君であり、サームアンドゥ家の現総帥だ。内容は食材の確保と宝探しだ。統一戦争以前の地球の文明で大地に眠ったままの神器があるらしい。それの探索が依頼内容だ。全力で取り掛かって貰いたい。むろん、リュウとティアの披露宴のための物資の探索採取も平行して行う。膨大な目録も届いている。物資搬送のため、レディアークⅡを使用してよい。あれなら、大気圏に突入しても大丈夫だろう」
ティアもリュウも多くの初耳の事柄に驚いた。
しかし、彼らの中の何かがその『神器』という言葉に強烈に反応した。
「探そうというの、あれを……」
ティアの目が据わっている。口調が全然違っている。
聞き慣れない言葉と声に周りは反応することすらできないでいる。
「そうか、はじまりのはじまりを起こすのだな……」
リュウもだ。リュウの年齢では考えられない思慮深い口調であった。
はじまりのはじまりって何?
そんな疑問を差し挟むことさえ思考の外にあった。一体、何が起きている?
だが、そんなことより、チヅルもワタルも他のみんなも、自分の中から出てくる言葉に驚いた。これは、不思議のはじまり? いえ、魔法?
「はじまりのはじまり、懐かしい言葉だ」
ワタルの声でこんな重厚な話し方。スイトフの話し方だ。
「あなたたちにも関係しているわ。トレッパ、レファ、ルスーク、今度はエネルギーの求め方をしっかり考えなければならないわ。そのために必要なことはもう学んできているでしょう?」
チヅルの声でティーダが子供たちに声を掛ける。ソルトもミントもハーヴも同時に頷く。
「フーガもユーガも、クーガもね」
ティアの言葉にジェリィ、シュガー、クッキィが同時に頷く。
「そうだな。考え方はいくらでもある。これ以上はないという所までは、限りなくな」
軽めの性格のウッディが思慮深くマーシの声で、可能性を示唆する。
「今度こそ、慎重に事を運ばねば。宇宙が無くなってしまうぞ」
ゴルディがティアたちの記憶にある対立陣営のコルプラストの声で話す。かつての敵同士がいまでは、同じ立場に立っている仲間とは、彼ら自身にとっても埒外のことだった。
「うむ。そうだな」
コルプラストの後継者アシィスは過激な論調の持ち主だった。アーシィの過去世の姿である。
異口同音に頷くワタルたちであったが、その口調も態度も言葉遣いまでが本人たちの本来のものとはかけ離れていた。それはタガワ総帥たちにとっても同じ事であった。
アトルとランティス、ティーノ、ディーノ、ティーダ、スイトフ、マーシ、コルプラスト、アシィスその全てが再び結集した。かつてのアトルとランティスの島の為政者たちの声であった。
「そこの所はジルハマン殿もよくご存じのはずだが……」
アトルとランティスの後継政治家ティーノとディーノはジョウとショウの過去の姿。
今このときに、思い出してみれば、悔やんでも悔やみきれない想いが弾ける。
「はじまりのはじまり」の詩。
天に星、大地に水晶あり。
遠い遠い昔の秘められし力なり…。
神の力に匹敵するものなり。
だが、それゆえに、過ちを犯すとき
全ては無に帰る。
遙か昔に栄えし都、大陸にあり。
アトルとランティスの都と呼ばれし。
大きな力、心強き者、持つが良い。
それ、出来なかったその夜に都、大陸、海に消えた。
心、とても大事。
昔、大地を水が覆い隠した。
人、いっぱい死んだ。
動物も植物も虫たちもいっぱい死んだ。
神、約束した。
大地を水で覆い隠すことはしない、と。
約束の証、雨上がると、空に浮かぶ。
そう、虹。
虹は空に半円で架かる。神の力、凄い。
大地の中にも半円で架かっている。
何度も架かる虹。大地の中で水晶になる。
水晶に神の力、残る。
水晶は水晶に共鳴する。
だから、心、強い、きれいでないと恐い。
水晶は一つは鉱石、一つは人間そのもの。
そして、もうひとつ。
大地、すなわち、地球。
聖なる三角、邪なる三角。水晶の力に満ちる。
すなわち、創造神のチカラなり。」
それがはじまりのはじまりの詩。
刻まれし詩は、一つの船に残されていた。それは、洪水を避けるために造られた一隻の船。
『ノアの箱船』に。 地球の全土から、全種類の種の雄と雌を載せていたという、伝説の船。そう、それがはじまりのはじまりのはじまり。
「っていうことは、あの目録って、ノアの箱船の目録? た、大変だぁ……」
正気に戻ったリュウが目を白黒させる。
「なんて数? どうやって収集したらいいのかしら…、そもそも、収納は?」
ティアもその膨大な量の収集に頭を捻っている。
「チヅル、クッキィと二人で何か出来ないか考えてみてくれない?」
やはり、餅は餅屋かなとばかりに困ったときのチヅル頼みをする。今回はクッキィの発想力も込み込みだ。
「吸い込んで転移させるか、圧縮収納だよね、……ミント、『あの箱』って作れない?」
チヅルが案を出す前に、クッキィがあちらに居たときのことを思い出したかのように問う。
「『あの箱』? ミントが知っているの?」
少しの情報でも欲しいのかチヅルが問い詰める。
「あ? ああ、あれな。あれって今の俺たちの技術で作れたっけ? ソルト、ハーヴ?」
ふと、『あの箱』を思い出したのか、自分たちの母親が作っていた光景を思い出すが、今ここでの技術で作れるかに至っては検証すらしていないため、出来るかどうかすら不明であるが、今のチヅルとクッキィならば可能性は数%あるかもと思い始めていた。
「ミント、二人なら何とか作れるとは思うが。あれは、当時でも持ち運びが問題だっただろうが…」
同じモノを思い出したのであろうソルトが当時の懸念材料を口にする。
「そうだよ。展開にも時間が掛かっていたよね。容量にももう一段階の改善が要求されていたし…」
ハーヴも続く。
自分の息子たち三人が喧々諤々とやり合う中、チヅルがストップを掛ける。
「ひとまず問題点は分かったけど、その『あの箱』の概要を説明してくれないかしら?」
「『あの箱』って言うのは……」