幼馴染みで同い年だったハズの者
「どーなってんだろー。母さまの話してくれたのと少し違う」
ジェリィの困惑は募るばかりで、それに輪を掛けた騒動が最近起きた。
父さまと母さまのチーム『セヴンデイズ』のメンバーの頭に鶉の卵が生えたことだった。最初に草や枯れ枝で出来た鳥の巣みたいのが出来てその中心部に、小さな小さな塊である鶉の卵みたいのが出来た。日々それは成長して、母さまたちの頭にあったような大きさにまでなっている。私たちの花の生え方と違う……、母さまも父さまもそうだったけど、まず蕾になるのに。少し変~。
「変といえば、ソルトたちも変よね。こんな近くにいて、遊びにも来ないなんて…」
自分の考えに没頭していたのか近づく人影に気付くのが遅れたジェリィは肩を叩かれてビックリした。
「ジェール、何考えているんだい。久しぶりだね」
こんな呼び方をするのは、ミントしかいない。でも同い年のはずなのに、このあいだ城に遊びに来たときとは声が違う…。振り向くのが怖くなった。
「僕たちも戸惑っているんだ、ホントはね。だから会いに来れなかった…」
意を決して、振り向いたジェリィの目に飛び込んできた光景は……。
信じられなかった。一人しかいなかったから、彼がミントであることは間違いなさそうなのに、大人びた顔立ちの少年でなんか格好良い。あのボサボサ頭はどこに行ってしまったのだろう。サラサラのアッシュブロンドを肩に届く前にカットしただけの髪型に、一瞬うろたえた自分にカツを入れながら何とか聞くことができた。
「ミ、ミンティ、どうして…」
ジェリィに絶句する以外の何ができたろう。レディアーク艦内にいるであろう、シュガー、クッキィのそれぞれが放つ驚きの声が頭の中で響く。
「ああ、二人とも会いに行っているよ…」
シュガーにはソルトが、クッキィにはハーヴがそれぞれあの時の約束のままに会いに行っている。あの闇き雲が迫る中、開かれたジェリィたちとミントたちの誕生会での出来事。
同じ年の同じ日に産まれた三つ子同士の、両親は元チームメイトで、今は隣国同士の国王夫妻である彼らの…、王子と王女、気のおけない仲間? 初恋同志? ん~、なんかそんな感じの仲? の。
「いつかまた、逢おうよ、ここでない何処かででも、きっと、必ず!」
そう言ったのはソルト。みんなが頷いた。
先の見えない不安に駆られる中で、その約束は力の源となった。その後は、それぞれの国であの闇い雲に飲み込まれた…はずだった。
それがこんな形になっていたなんて知らなかった。
「僕たちの城の装置は作動条件の設定に時間が掛かってしまった。ぎりぎりで飛び出したけど、変な嵐に巻き込まれたんだ。時の狭間にはまってしまったとしかいえない。飛ばされた先は封印前の地球だったから…、青い海と白い雲、茶色い大地が美しいコントラストを描いていて、本当に綺麗だった。でも…」
ショックを隠せないジェリィにミントが話し出した。あの後のことを……。
その話し方にジェリィはまた驚いた、こんなに論理的な話は苦手にしていたのに…と。
「そこで彼らに出会ったんだ。まだ今の僕たちよりも幼かった、ジョウとショウに…」
その名前の意味すること、それは、ゾーディアクを構成する者にとってトップに立ち続ける男たちの名。ショウ・L・タガワ総帥と、ジョウ・R・タガワ会長を意味する。
「十数年前の世界統一戦争の最中でさ。『ゾーディアク』の建造中に資源の確保に飛び回っていた彼らは突然の攻撃を受けて、逃げ場を失っていたんだ」
世界の頂点に座す財閥の子女などは格好の餌食となってしまうそんな暗い状況の中にミントたちは転移してしまった。自分たちの意志とは関係なく……。
それも今にも落ちそうになっているシャトルの中に……。
既に宇宙空間には人工の島が浮かんでいた。その一つが破壊され住人が逃げているところだったらしい。
「ミント、鏡面反射だ。ハーヴ、重力制御!」
惑星の大気圏に落ちつつある破壊の跡も夥しいシャトルにあって、何ができるか判断するのはとても難しいことだ。ソルトには、見えていたらしい。何をすべきか……と。
僕のチカラで、破壊の意図を持った攻撃の意志を跳ね返し、ハーヴが姿勢を制御、ソルトが「位相制御!」した。
僕たちのチカラは知っているよね。チヅルママの影響で少し難しい言葉になったけど。
そして、僕たちのチカラで彼らは跳んだ。建造中のゾーディアクへ…と。
まだ、コロニーとか無くて、マスドライバーの砲身と照準スコープだけしかなかった、そこに…。
そして、僕らは彼らの中に眠っていたチカラの発現で跳ばされた…。
十数年前の世界統一戦争の最中から、ちょっと未来の過去に…。
そこでは、ティアやウッディパパ、チヅルママ、アーシィたちに出会った。リュウにも逢ったよ、そこで…。リュウは今よりももう少し大人だった。彼も巻き込まれたって言っていた。
そうなんだ、僕たちも世界中に蔓延していた謎の病、眠り病に引きずり込まれた。
謎の…ということは、何も栄養点滴などを受けなくても、その生体反応は変わらない。つまり、眠っている本人たちには、一夜の夢と感じられているということだろう。
とは言え、そこは夢の中の世界。古代の人々の住む夢の中の世界。夢の中の古代世界の中。自分たちの肉体から離れた異質な世界。
けれど、そこでの死は二度と目覚めることのない永遠の時が止まった世界の中になる。
その夢がある時代は、僕らにとってはご先祖様の世界。世界の価値観が貨幣経済に毒されていた、古代のニッポン州の中。安心も安寧も疑心暗鬼に食われていた時代。眠りの中にしか夢のない世界。その眠りすら許されないものたちも多かった時代。
そこに彼らも僕らも呼び寄せられたのさ。
「どうして、そんなことが起きたのかは知らない。でも、僕たちの星ステアは本当に不思議なことが多いから…、ステアを取り巻く上層大気には無数の穴があっただろう。あれの一つがそんな作用を起こしたんじゃないかと思っている。それに君たちも気付いていただろう…、リュウとティアのこと…」
「年齢差のことなら、とっくに…」
「そうだね…」
君たちなら気付いていると思ったよ、そうぽつりともらした。
「向こうではリュウが年上だったけど、こちらでは…」
「そうティアが年上だ…」
どうして、そんなことが起きたというのか。まるで今の自分たちにも当てはまることだけど……。
「でも、それが偶然でないことだけは明白な現実だね」
「うん……、でもようやく逢えたわね。あの約束を忘れたのかと思っていた…」
“また逢おうよ…”
そう約束したことは忘れていない。
でも、それがこんな形になるなんて…。思っていなかった。ジェリィは呟いた。
だって、反則だわ。こんなに格好良くなるなんて…、おちおちしていられない…。
「大丈夫。これからは一緒の時間だ」
今までだって、ずっと居たんだぜ、この艦に…。
「え…、嘘ぉ…」
「マジだって、僕たちは『エレメンタルズ』と『虹の戦士たち』というチーム専用として後方支援を担当していたんだから…。だって、彼らはずっと昔からの知り合いだったから。
そうリュウと一緒のシャトルで配属されたんだ。そこでジョウやショウと、そして眠り病の中で一緒に戦った仲間たちと…、再会した」
「眠り病の時、ジェールたちも居ただろ、気が付かないとでも思っていたかい」
あ、ばれてる。
「うん、居たよ。バレないと思っていたのにな…」
あそこ、夢の中では、姿は常に一定ではない。その時々の心のあり方で見かけなんかすぐに変わってしまうところだ。名前だってそうだ。あのときの自分たちは、心が萎縮していたから、ひどく小さく妖精の形を取っていたと思う。
「リュウも居たんだよ。君たちのこと知っていてさ、きちんと君たちのフォローに回るんだ。僕たちを寄せ付けないくらい強かったし、君たちだって一番懐いていたじゃない?」
「え…、私たちが一番懐いていた人…、まさかサーンがそうなの?」
「そう…、巻き込まれたって言っていた、ステアに向かって落ちていたのにって言っていたから、これから起きるのかも知れないけど…」
「ウソ…でしょう。サーンがリュウなんて……」
言われたジェリィの頬に血が上る。あのときの懐き方は今思い出すとそれだけで体が火照ってくる。彼と彼の仲の良かった少女との間に入って邪魔をしたり悪戯をしたりしていたものだからだ。あのときの少女っていうひと、すごく、シュガーに性格も立ち居振る舞いも似ていたけど。って、あれ……。
「ひょっとして…、あのときの少女って、誰だったの」
鮮明に思い出した記憶の中に佇むサーンと少女、ひどく似ている今のリュウとティアの姿に……。
「あ、気が付いたかい」
その通りだよと言外に匂わせていた。
「彼は僕たちにも気が付いていてさ、よく話していたんだ」