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血筋なるモノ

「それで、その…花というのは咲いたのかね?」


タガワ会長と総帥の二人は、呼び出されて昼食を囲んでいたリュウとティアの二人に尋ねる。もちろん、三人の娘たちも一緒だ。

 自動調理器では、なかなか実現できない中華の本格的な料理を前に凄くはしゃいでいる。


「いえ、それがまだ……。彼女たちの話では蕾には、なったらしいのですが……」


 リュウが頭を掻きつつ報告する。


「そーなのー。おっきな蕾のままなのー。 どんな花が咲くのかなー、楽しみー」


 と脳天気に続けて言ったシュガーの一言に当の二人は凄く不安になる。


「でもぉ、不思議なのぉ。父さまの花って金色じゃなかったよ、変なの…」


 クッキィが思い出したかのようにポツリと呟いた。そう遠くない過去に両親の花を見ているのだから、記憶としては鮮明なのかもしれない。だが、予想もしなかった影響がジェリィとシュガーに出た。


「と、父さま…母さまぁ……」


 二人とも両親の最後の姿を思い出したのか、フニャッと歪んだ顔で涙をこらえている。


「シュ、シュガー、ジェリィもクッキィも涙をお拭きなさい。あなた達のご両親は必ず無事よ。わたしが保証するわ!」


 泣き出した三人の娘に動転したのか、ティアがとんでもないことをぶち上げた。自分で自分を捜すことは非常に難しすぎることだからだ。


「ティア、どうやってするのさ」


 リュウは慌てて問いかける。 なんと言っても無謀な捜し物だからだ。今の自分たちに出来ることは限りなく小さい。なぜなら、今、自分たちはここに居る。同じ時空間に居るのか? 


「どうやってもよ! 」


 振り向いたティアの眼に炎が燃えていた。凄まじいまでの覚悟がそこにあった。


「OK 、ティア課長の覚悟は分かった。これほどの気持ちが有れば成功間違いなしだな…」


 今まで会話に加わらなかったタガワ会長の言葉にその場が水を打ったように静まる。

 ティアたちにとって、何か非常に重要な言葉が出るような気がしていた。 

 

「ティアラ・ムーンライト一級課長及び、リュウジュ・サームアンドゥを含むチーム『セヴンデイズ』に秘密の番号(シークレットナンバー)が発行された。任務完遂に鋭意努力して貰いたい」


 タガワ総帥が厳かに告げる。


「シ、秘密の番号(シークレットナンバー)……」

 驚きの言葉にしばし呆然とするリュウ。


 それも当然であろう。彼らの所属するチームは、今まで一度も秘密の番号(シークレットナンバー)を受けたことがなかったからだ。実行する実力がないわけではない。


 が、依頼がなければ発行されないだけだ。

 チーム『セヴンディズ』は特殊な事情も手伝ってタガワ会長の所で握りつぶされてきた。 ということは断りきれなかった……依頼?


「そう、依頼があった。断りきれないものだ」

 タガワ総帥の言葉にギクッとしたリュウは背中に水を掛けられた気がした。

 嫌な予感が走った。


「父さま、なに固まってるのー? 」

 あどけないクッキィの言葉にふっと彼女の手元を見てリュウジュ・サームアンドゥは凍った。意外なものがそこにあった。


「クッキィ、君なに食べてんの……? 」


「何って、今出てきたよ、これ。ね、ガァ姉ぇ、母さま 」


「うん。そうだけど、どうしたの、リュウ? 」

 きょとんとして、青ざめたリュウをティアが不思議そうに見つめる。


「そ、それは……、あ、杏仁豆腐(あんにんどうふ)……」

 中華のデザートとも言うべき杏仁豆腐だが、自動調理器からは出てこない。設定すらされていないものがどうして……。

 リュウの不安をタガワ総帥が現実のものにした。


「ご明察、君のお父さん直々の依頼だ。断れるものではないだろう? 」


「その通りだ。既に依頼料は半分消費してしまっているからな」

 タガワ会長たちの言葉に一同、唖然とする。


「えー、依頼料を消費ってひょっとして食べちゃったの? 私たち…… 」

 ティアと三人の娘たちが騒ぐ。


「依頼についての詳細はご本人から聞いてくれたまえ。君たちの屋敷の地下練習場で待っておられるよ」

 巨大な財閥の当主となる前はよく作ってくれた特別な味の杏仁豆腐、既に思い出の中にしか存在しなくなっていた味が、リュウの全身を駆けめぐっていた。


「懐かしい味……」

 父の依頼が何なのかはわからないが、請け負うだけの価値があった。


「ああ、ティア一級課長。一家で行ってくれたまえ。逢いたいそうだ、孫たちにも…」


「ええっ! 」

 タガワ会長の『孫』の一言に驚いたリュウとティアは真っ赤になってしまった。

 最近、ようやく慣れてきた『娘』という言葉以上にショッキングな響きがある。


「ま…、まご…」

 ティアにとって身の置き場が無くなるような言葉に、顔を紅くしたままだ。

 最近、ようやくキスを交わせるような仲に進展しているとはいえ、まだまだウブな二人であった。そこに会長の更なる一言が…。


「ティア、君の父上と兄弟弟子だったそうだ。リュウの母上と出会う前にね」

 突然の衝撃の事実であった。ティアにとってもリュウにとっても……。




「そう、わたしと君の父ライデンとは兄弟弟子だった。中国(チャイナ)州保護区での修行の日々が懐かしいよ」

 彼は別室で待っていた。リュウによく似た眼差しと、良く櫛の通った白髪と豊かなあご髭、黒地に白文字をあしらった稽古着に身を包んで……。


「あ…れ…、あの稽古着……は…」

 ティアは何故か、一番古い記憶の奔流の中にいる自分に気が付いた。

 あれは……、あの人は……。

 懐かしい笑顔に心が惹かれた。記憶の中の彼には、白髪もなく髭もなかった。だけど、何故分かったのだろう……。

 そうと気付いた瞬間、ティアは抱きついていた、リュウの父ゲンガに。

 マグナ=シルテェ・(ゲンガ)・サームアンドゥ、その人に。


「ゲンガのおじさま!」


「久しいな、ティア。よく憶いだしてくれたね。ああ、これのせいかな……」

 彦峨(ゲンガ)という稽古着の(めい)が記憶の奔流の引き金になった。

 彼が、ライデンの元を訪ねたのはティアの四歳の誕生日だった。既にモンライ流の型を教わり始めていたティアの目の前で、ライデンとゲンガの組み手が繰り広げられた。


 その時の稽古着を彼は着ていたのだ。

 何しろ、彦峨(ゲンガ)なんて簡単には読めない。


「ティアも親父も顔見知りだったのか……。冗談きついぜ」

 リュウがぼやく。


「リュウ、仕方(しょう)がないでしょ。あなたは何も話してくれないし、サームアンドゥの総帥の名はフルネームで出てこないんだもの…」


 暫し、抱擁し(だきつい)た後にティアは振り向いて言った。その二人の会話の中に、(ほの)かな甘さがあることにゲンガは気付いた。恋人とは行かないまでも、ある種の関係にあるという初々しい甘さがあった。


「ふむ、なるほどな……」

 二人の会話に笑みをこぼす。


 怪訝な顔をする二人にゲンガは爆弾を落とした。


「それで、二人の子供は?  私の『孫』はどこかね? 」

「「!?」」


『孫』の言葉に二人とも真っ赤になりながら口をつぐんだ。


「お、親父、『孫』はやめてくれ、頼むから……」

 そりゃ一緒に住んじゃいるけどさ……。

 ごにょごにょと言いさすリュウにゲンガがしびれを切らして言う。


「ティア、私に紹介してくれないかね。リュウに任せておくといつまでたっても本題には入れそうにない……」

 言われて二人は気付いた。

 そういえば、秘密の番号たち(シークレットナンバーズ)の仕事の内容を聞きに来たんだっけ……。

 ティアが左手にはめた腕時計に向かって、話しかける。


「ジェリィ、みんなを連れてきて…」


「はい、母さま…」

 打てば響くような答えが返ってくる。

 数瞬後、控えの間の扉が音もなく、開いた。


「初めまして、お爺ちゃま」

 挨拶は、ジェリィが取り仕切った。

『孫』の言葉に赤面していたティアとリュウ以上に呼ばれたゲンガも驚いた。


「お、お爺ちゃま……、う~む参ったな」

 ゲンガが自分で思っていたよりも『お爺ちゃま』という言葉の持つ衝撃は大きかった。


 そのゲンガの前に飛び出してきて、臨戦態勢を作ったのはシュガーだ。既に稽古着に身を包んでいるとは、念の入ったことである。

 それにしても血の気の多いのは誰に似たんだろう。


 ティアは苦笑する。

 その昔、父ライデンとゲンガの試合の後、同じように飛び出してゲンガに戦いを挑んだのを不意に思い出した。


「なるほど、ティアの血筋だね」


「え…、ええ、どうもそのよ…うですね」


 三人の娘の中で一番シュガーが自分に似ていることにティアは何とも言えない感じを持った。シュガーのモンライ流【剣】(スォード)の特異な型に込められた幼いながらも気迫に満ちたものが感じられる、さすがね。


「ふむ。ではお手合わせ願うか。良いかね、ティア」


「はい。私の時のように……、お願いします」

 ティアは幼いときの自分が経験したものをシュガーにも経験させたかった。

 彼女はそれによって非常に大切なものを得た、そう信じている。


「シュガー、存分になさい。ただし、自分の力だけでするのよ…」


 既に瞳に炎が燃えているシュガーに一応、クギを刺しておく。未だに発現の兆候のない自分たちと違って、シュガーたちは自然に魔法を使いこなしている。

 本来、魔法というのは、術者の許容量(キャパシティ)やら、呪文(スペル)やら色々と制限があるのだが彼女たちの頭に咲く魔法の花はそれを超えてしまっている。

 手をかざして大気を操り、空を視て、雨を呼ぶ。人工の自然?のコロニーででさえ、簡単に行ってしまうのである。その所作があまりにも自然すぎて周りの人間には、察知することすらできないのである。

 現在、彼女たちの住むコロニーでは、人工気象を決定する気象予定士の予定表は外れまくっていた。カウンセリングに通う者も多いと聞く。


 もちろん、戦いが始まってしまうと彼女たちの無意識下で働きを強めてしまう、ティアはそれを封じようとしたのであった。


「分かっています、母さま。だって、こんな楽しいことに無粋なことなんてできませんよ」


「ほう、頼もしい言葉だな。リュウ、今日は久しぶりに見せてもらうぞ。シュガー(まご)の次にな…」


 シュガーの資質は知っていたが、とんでもない言葉に頭を抱えていたリュウだが、ゲンガの言葉にふっと笑みをこぼした。

「親父、明日にした方がいいと思うぞ…」


「馬鹿にするな…」


 リュウは父以上にシュガーたちの戦い方を知っていた。

 一人対一人なら、まだ勝ち目はある。シュガーは、リュウに対してさえ、勝ちに来る。

 一人対一人がいつの間にかチーム戦になってしまうのである。クッキィの分析力、ジェリィの戦略、シュガーの戦闘力、三人の中で通じる暗号(ブロックサイン)は巧妙で常人には気づけない。

 三つ子ならではの連携があった。


「了解、俺の出番を待っているよ…」

 肩を竦めたリュウが、壁際によってどっかと腰を下ろした。


「よろしいですか。では、お願いします」

 互いに礼をし、手合いが始まった。

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