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魔法の花というモノ

気になったのでサブタイトル変えました。

「しっかし、リュウも大変だよな、いきなり、子供が出来るんだから。心の準備も出来やしないぜ!」


 ふと、聞こえてきた会話に、ついつい耳がダンボになる。

『こっちの気も知らないで、よく言ってくれるぜ、こいつら!』と、心の中で叫ぶリュウであったが、とはいえ確かにその言葉はリュウの気持ちの核心を突いていた。


 だけど、一度でもあの子たちのあんなに元気の無い姿を見てしまうと、大変だからといって簡単に突き放す気になどなれない。ただでさえ、親元を離れているというのに。

 ……いや、今も一応親元に居るのだけど(照笑)。

 ティアと、三人の子どもたちと、そして、リュウのつたない生活が始まった頃、ティアもリュウも時々、良くない夢つまりは悪夢というものを見て跳ね起きてしまう事があった。


 仕事は現在、三人の子供たちが持ち込んだ物の詳細を調査中のようで、次の任務のための準備としての訓練期間を設定した艦内待機が続いている。そのため、今のところ支障はそんなには無い。少々、昼寝が増えた。


 たまにティアとリュウが二人揃って、悪夢を見て早々と目が覚めてしまうこともあった。その時の夢の内容ははっきりとは覚えていないのだが、うなされることもしばしばで一度目が覚めると闇が怖くてそう簡単には寝られない。寝ようとすること自体を体が拒否してしまうようなのだ。仕方なしに夜明けのコーヒーと洒落(しゃれ)こむ事が多くなった。


 そしてそんな時は、ジェリィもシュガーもクッキィさえも元気がないことがある。

 何回か、それを経験したあと、三人に訊いてみたことがあった。


「なんだなんだ、元気がないな。どうしたんだ、ジェリィ。話してくれよ、せっかく親子になったんだから、何でも、話しあおうぜ?」


 努めて、明るく話そうとしたリュウではあったが、彼自身も夢見が悪かったことを覚えている。

 そう話し始めて、何回目かにようやく、話し出してくれた。


「……と…とても…怖い…夢を見た…の…」


 長女としての自覚からか、ジェリィがぽつりぽつりと話しはじめた、他の二人はただ黙っている。


「あの…黒い…雲さえ、来なければ…みんな、一緒に…居る事が出来たのに…。父さまも…、母さまも…、ソルトも…、ハーヴも…、ミントも…、みんな……」

 気丈なジェリィの目に涙が溢れる。途切れがちな声。それでも伝えようとするその思い。


 突然、明瞭なイメージが眼前に広がる。

 シュガーがリュウの手をつかんだ途端のことだった。

 ティアにはクッキィがくっついていた。


『凍てついた大地。

 人影が見えない。

 ただ、風が泣いているだけ。


「…母ぁさまぁ、母ぁさまぁ…」


「…父ぉさまぁ、父ぉさまぁ…」


何度も何度も呼び掛けてみる。

 でも、返事はない。

 ただ風が大地を、凍てついた大地を吹きすぎていくだけ、それだけの…悲しい想いのする夢』


 何度、彼女たちは見たのだろう……。

 だけど、そのイメージを見て、リュウとティアは自分たちの寝不足の原因をつかんだ。

 その夢なら、リュウもティアも見ていたからだ。なぜか子供たちの夢とは立場が、逆転してはいたが…。


(くら)い雲が迫ってきていた。

 稲光が、時折走る、異様に(くら)い雲が迫っていた。


「…ティア、あの子たちを城の地下へ、早く! 急ぐんだ!」


「リュウ…、分かったわ!」


 リュウが話す言葉の意味を理解するより早く、ティアは動いた。小さな子供たちを伴って、城の最下部へと向かった。


 城を脱出するための手段がそこには残されていたのである。

 既に、ク・ビッシ(アーシィの国)ド・コーア(チヅルの国)(くら)い雲の中に呑み込まれてしまった。

 だが、望みは捨てていない。

 あの国々にも、私たちの国にも手だてが一つだけ残っているからだ。


 だが、大切な時間(とき)が過ぎ去ってしまう。

私たちにとっての大切なときが…。

やがて、(くら)い雲が、すべてを飲み込んだ』



「!」


リュウは、パチッと目を開けた。

 今、自分がどこにいるのかを確かめつつ、ベッドの上でゆっくりと体を起こした。

 心臓の音が痛いくらいに響いていた。


「な、何だったんだ、今の夢。怖いくらいの現実感。な、生々しすぎる。あ…れは…、オレか…」


 厭な夢だった。

 心が悲痛な叫びをあげていた。

 闇が怖かった。

 室内灯を点けたまま、呆然とする自分がそこにいるのを確認しただけだった。

 不安はまだ静まってはくれなかった。

 かといって、再び寝るには時間が無く、新生活のための住居のリビングで夜明けを待つしかなかった。 他の部屋の寝息を聞きながら、待つしかなかった。



「!」


 リュウが、未だ去ってくれない震えと戦っている頃、同じ形の夢を見た、ティアが飛び起きていた。

 震えながら……、胸を抑える。


 やがて、彼女も夜明けまでの短い時間をリュウと過ごすことになる。

 同じ恐怖に包まれながら……。

 同じ居心地の良さを感じながら……。

 運命というには辛いが、同じ道を歩いていける大切なパートナーであることをお互いに噛みしめながら……。


 ふと、二人は思う。

 あの子たちにとっては、おそらく過去。

 ティアとリュウにとっては、おそらく未来。

 不思議な同調。

 何がその同調を促すというのか?


 シュガーたちの言葉がその謎を氷解させた。


「そうか、お前たちも見ていたのか……」


「じゃあ、父さまも母さまも見ていたの…?」


 リュウの言葉にジェリィは反応した。

 ジェリィの理解能力は高い。作戦立案オペレータに抜擢されるほどには……。 


「見ていたのー?」


「見ていたのー?」


 シュガーとクッキィが続けて言う。

 彼女たちの最近の話し方だ。これにジェリィが加わると大変なことになる。


「父さまも母さまも不思議な力を使ってましたから……、たぶんそれなのだと…」


 そのものの言い方に二人は「あれっ」と感じた。ティアもリュウも子供たちの前では、モンライ流の型の練習すらしていない。

 なのに何故、そのことを知っているのかと思ったからだ。もし、彼女たちの両親が自分たちなのだとすれば、この時点でも二人には到底信じられなかったことだからだが。 子供たちの目の前でモンライ流の型の修練を積むとは思えなかった。


 確かに、シュガーは良い筋をしている。

 鍛練を積んでいけば、ティアやリュウに匹敵するかそれ以上の可能性が彼女にはあった。

 それでもまだ、彼女に『気』を教える段階にはなかった。繰り返しモンライ流独特の型の練習に時間を費やしていた。

 シュガーでさえ、そうなのに、シュガーほどに才の無いジェリィやクッキィには到底不可能だと感じていたのだ。それを見誤った、と気付かされたのだ、ジェリィに……。


「どこで、それを……」


 見たというのか、そう問いかける言葉が途中で途切れた。ジェリィたちの頭上に何かが見えた気がしたからだ。


「ありゃ?」


 よく見ると何もない……、見間違いかと首を捻るリュウにティアが追い打ちを掛ける。


「どうしたのよ、リュウ。首なんか捻って……、寝違え? 」


「違うよ、何でもない……」


 その日はそれで終わったが、悪夢は終わっていなかった。

 何度か、不思議な同調による夢を見た後、シュガーやジェリィ、クッキィの頭上に不思議な花が咲いているのをリュウとティアは、見つけることになる。


「「?」」


 なぜなら、その花たちは、リュウとティアに向かって笑いかけているから…。そんな風に感じてしまう自分たちのことを少し、可笑(おか)しく感じながら…見ていた。


 やがて、ジェリィたちも彼らの視線の意味することに気付く。

 そう二人の視線の共通することに…。だって、自分たちの頭の上に集まっているんだもん。


「母さま、見えるの?」


「父さまも?」


 三人の娘たちの言葉に、ぎくりとするティアとリュウではあったが、好奇心は隠せなかった。


「あ…ああ、見えるよ、綺麗だな」


「本当ね、綺麗な花…」


 不安げな三人の言葉に対して、最大の讃辞を贈ることで和らげようとする二人。


「そっかぁ、見えてるのかぁ」

「やっぱり、見えていたんだぁ」


 シュガーの言葉に頷いたクッキィ。ジェリィが頷きながら


「父さま、母さま、これ預かってきました」

 と、告げる。


 誰から…とは言わず、ジェリィが、ポケットから不思議な形のモノを二個取り出した。

 2,3センチほどの土星とその輪みたいな物体で同心円で構成され、中心は真球になっており、それを取り囲む半円形の(ふち)が前後に九〇度ずれていた。色彩はどちらも、すべてグレーだ。


 彼女たちが救命カプセルから出たとき、その一切の持ち物は調査が済むまで、持ち出し出来ない筈だ。既に三週間以上過ぎているが、未だに調査中で、経過すら見ることが出来ない。

 ティアとリュウの二人には一見しても何なのか分からなかったが、シュガーたちの頭に咲いている花たちがいっせいに姿勢を正した。

 リュウとティアはそれが何なのか、ある程度の確信を持ちながらも、娘たちの話してくれる次の言葉に集中した。


「魔法の花のタネ…です」


 しかし、ジェリィの言った言葉に二人は聞き間違いかと思った。


「魔法の…花?」 呆然とリュウがつぶやき、


「…のタネ?」  唖然とティアが続く。 


 二人とも、あのタガワ会長にスカウトされたくらいだから、特殊能力とは縁が深い。

 モンライ流というのも特異能力の一つだろう。

 だが、魔法というものは自分たちには関係ないと思っていた。まして、この科学の進んだ世界でそんな言葉を聞くとは思わなかった。というか、魔法って花…なんだ? しかもそれの…タネ? 理解できなかったが、現実にジェリィとシュガー、クッキィの頭の上に咲いているのだから、否定することに何の意味も持たない。しかし、魔法で…、花で…、タネとは……。


「……ということは、ジェリィたちの頭に咲いているのも、魔法の花? …なのか」

 茫然自失から抜け出せたリュウが問い掛ける。


「はい、そうです。この花は魔法の花が咲いた人と、魔法の花の素養(タネ)を持っている者にしか見えません。ですから、現在、魔法の花の素養(タネ)の無い父さまと母さまに見えているというのは、その素質が只者(ただもの)ではないということになりますね」


 今の誉められたのか? と、ティアに耳打ちするリュウ。なんだか、とんでもない言い方をされてしまった気がする。


「つまりぃ、父さまと母さまはとんでもない力を持っているという事ね!」


 シュガーがとどめを刺す。

 ピキッと引きつる二人。


「ガァ姉ぇ、ダメだよ。そんなこと言っちゃ。父さまも母さまも固まっちゃったじゃない」


 お、おまえたちなぁ……。


「はい、ひとつずつです、父さま、母さまも」


 ジェリィがそれぞれに手渡す。


 リュウとティアの手に渡された瞬間に融けてしまった。リュウの手の中では、一瞬金色の光を、ティアの手の中では銀色の混じった光を放った。  


「でも、父さまも、母さまもとんでもない力を持っていても、タネがすぐに花を咲かせる訳ではないですから咲かないからといって、がっかりしないでくださいね」


 ジェリィの話す言葉はさすがに長女らしさを保っているが、その内容の凄さはシュガーたちと変わらない程の過激さを持っていた。

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