可能性ある者たち
読み返していたら、やっと気づきました。ごめんなさい。この拙い小説に評価をくださった方に最大の感謝を。 …お気づきですか? アナグラムで入っています。
会長と総帥の決定事項の中には、それぞれの改名も指示に入っていた。
家族を抱えるものとして、その中心には父が、そして母が明確になっていることが重要であると考えられていたのである。そして、Lのジェミニンの居住区に地上三階地下二階の家を与えられた。すでに造り付けられていたものだが、その扱いは破格のものであった。玄関には、サームアンドゥと表札が掛かっていた。子供たちで一人だけ、「私たち、三つ子だよジェミニだと一人足りないね」とツッコんだ。
納得しきれないリュウとティアの二人だったが、すでに決定されてしまったことに異議を申し立てても意味は無い。ただあまりにも二人の素性が有名過ぎたため、周りの乗員や他のチームのメンバーたちが、しばし混乱したことは紛れもない事実であった。
「総帥!この設計図なんですが…」
いきなり駆け込んできた技術局長。
「どうしたね、ヤガルド君。ノックも忘れるくらい、凄い事なのかね?」
タガワ総帥が彼に訊く。
「そりゃ、もう。私の長年の夢がぎっしり、『ゾーディアク』も変わりますよ!」
とか、
『総帥、陸戦隊のストゥ・ラトスです。あのシュガーって子、凄いです。幻の拳法モンライ流を正統に受け継いでいるんです。ウチの隊に欲しいくらいです、何とかなりませんか?』
だの、
「総帥、凄いですよ、ジェリィという子は! 宇宙航法、薬学、地理から料理までありとあらゆるものを活用して、最短、最善の手で作戦を仕上げていくんですよ。ウチのオペレータに加えたいですね。ぜひ、お願いしますよ!」
数え上げればキリがないくらいにそれぞれの部署からの要請が引きも切らない。
まして、当の本人たちも、
「ティ、ティアがモンライ流唯一の後継者にして、最高師範…、う、嘘だろう…」
「ライデン教授の娘さん? あり得ん、それは絶対にあり得ん!」
「ティアがモンライ流ということは、ライデン教授もモンライ流だったのか?」
とか、
「それより、あのリュウがサームアンドゥ家の後継者? うーん、本当なの、その話?」
「い、今からでも囲ってくれないかな?」
とか、
「親父の会社、書類審査で落ちたって言っていたんだけど、何とかならないのかな?」
など、羨望と欲望の眼差しで、そういう話題には事欠かない。
モンライ流舞闘の始祖ムーンライト家の忘れ形見と、サームアンドゥ家の直系で第一後継者と、その血を受け継ぐ者たち。
そんな彼らがいて、混乱しないで済むとは思えないことであった。
「そんなに気にすることないって」
「そうそう、それはあいつらのオプションだぜ! 気にする方がおかしいってものだぜ!」
だが、唯一の例外がティアとリュウの周りにいてくれたお陰で、やがて収拾が着くことになる。そう、『セヴンディズ』の面々である。
『セヴンディズ』とは、ティアを艦長として戦闘体勢をつくるメンバーの総称でもある。
一週間の中の曜日をもじって付けられたのだ。
日曜日は、サー・アン・リュウ、本名はリュウジュ・サームアンドゥである。但し、本人の意向で呼び方はリュウとして統一された。
「助かるよ、みんな…」
月曜日は、ティア・ムーン、これも本名はティアラ・ムーンライトである。彼女もティアで統一してもらった。
「本当ね、持つべきものは仲間だわ」
火曜日は、チヅル・ファイア、彼女も最近三つ子のママとなった、めでたく。
「わたしの時だって、してくれたじゃない、お互い様よ」
水曜日は、ワタル・ミズノ。
「何を言っているのさ、僕たちはいつでも僕たちなんだぜ」
木曜日は、ウッディ・メルヴァン、チヅルと同様に彼もパパとなった。
「だけど、リュウも大変だよな。ティアに三人の娘たちだったら太刀打ちできないものな?」
金曜日は、ゴルディア・ツ・ロイ。
「お前さんとこは逆だけど、チヅルがすべてを握っているって話じゃないか」
土曜日は、アーシィ・チ・ロヴォア。
「なんだ、ゴルディ、お前、随分羨ましそうじゃないか」
何があっても、変わらない友情とチームワーク。
それが培われたのは、時間を遡り、熾烈な激戦を思い出さねばならない。
かつて、地球の生命体は思わぬ事態に襲われたことがある。
「非常事態発生、全員部署につけ! 魔騎士の戦闘艦隊発見!」
魔騎士とは、地球生命体とは別の空間域に生息していると思われる異形体の有機生命体のことを言う。
敵の艦隊とは言っても異形体の敵をどうするのかと考えるだろう。
彼らは、人類生息域では何らかの有機体の体を借りねば活動が著しく制限されてしまう。
そのため、生物か、生物であったモノに侵入して、その機能を乗っ取り、こちら側への侵攻を始めていた。
二つの高度な文明が接触したとき、それが争いになることは仕方ないことかもしれない。
だが、その事態を乗り越えることのない者に銀河生命の名が受け継がれることもない。
やがて、思わぬ決着が着くことになる、
だが、多くの時空を流れ、その果てしない旅の中で『セヴンデイズ』の前身の『エレメンタルズ』は出会った。
多くの命が費やされる先の見えない戦い。
二つの生命体と組織、それらに翻弄されるようなさだめの中で『エレメンタルズ』は出会った。今はもう遠い時空の回廊の中のことだ。
短いような長いような時の流れの中で…。
現在の『ゾーディアク』のタガワ会長に全人類の中から見出された対魔騎士のための組織、かつての「虹の戦士たち」という組織の中で本当の自分を見出した者たち……。
宇宙とは、未来と過去のすべてがひとつの場所を形づくるところ。
今まで多くの生命体の形があった。おそらく、魔騎士も……。
星の海で文明が繁栄し、衰退していく。
そして、心は空間を、世界を創り上げる。
ひとりの人間の可能性は壮大なもの。
もし、すべての人が、自分の持つ資質に気付き、それを一二〇%以上の強さで信じられたなら、「奇跡」を起こせる。
そして、その強さで仲間を信じられたなら、その力は無限の力となる。
『セヴンディズ』(かつての『エレメンタルズ』)はその力を持つことの出来たチームの一つなのだ。
個人の力と全体の力、その総ての力を「奇跡」に変換でき得る仲間なのだ。
そして今、その『セヴンディズ』の中に二つの可能性が生まれた。
新しいチームの可能性が……。
ティアとリュウの娘たち、ジェリィ、シュガー、クッキィ。
チヅルとウッディの息子たちだったことに皆が驚いた、ソルト、ハーヴ、ミント。彼らは既にその素性を隠したまま、『エレメンタルズ』と『セヴンデイズ』と、そして『虹の戦士』の補佐を担当していた。ジェリィたちが携えていた、二通の手紙とともにあったもう二通の手紙が会長と総帥に手渡されたとき、会長たちに衝撃が走った。
「彼らが……」と。
六人とも、年若くても他の大人たちに負けない個性派揃いだ。
格闘術ではシュガーが、射撃術ではソルトが、作戦立案ではジェリィが、操縦、操艦ではミントが、技術開発ではクッキィが、料理ではハーヴが、それぞれ群を抜いている。それ以外が駄目というわけではなく、その中ではということだ。
『ゾーディアク』に所属する数多ある部署の担当者たちが既に驚きの眼差しを送っているのだ。彼らの実力は本物と誰もが感じていた。
差し替えます。